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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第37話 俺は新しい舟に乗ってみる

 ダニエラさんとロジオンさんが言い争っているので退散しようとしたら、建物の外でリオネラさんと鉢合わせてしまった。

 ルトガーさんの手を引っ張って積極的に室内に引き込もうとするリオネラさんに、中で見た惨劇を避けて帰ろうとしていたことを正直に伝えた。


「あらら、見てしまいましたか」


 リオネラさんの顔からルトガーさんを見つけた時の笑みは消えてしまった。


「姉さんの設計した舟は残念ながら競艇では使えないでしょう。ロジオンさん達船大工が何とか浮く舟にはしてくれましたが、あれではただゆったりと川の流れに身を任せるのが関の山でしょう」


「そんなに酷いんですか?」


「そうですね。説明するより見てもらった方が速いでしょう。お姉ちゃ~ん、ゲオルグ君来てるよ~」


 リオネラさんが急に扉を開けて中に居るダニエラさんを呼びだした。逃げ出すのに失敗した俺は覚悟を決めてダニエラさんの登場を待った。


「おう、ゲオルグ遅かったな。早速作った舟を見に行こう」


「だから、あんな舟を依頼主に見せるわけには行かんと言っとるだろう」


 ダニエラさんに続いて出て来たロジオンさんが怒鳴り声を上げてダニエラさんを引き留める。う~ん、そこまで否定されると逆に見てみたくなってきた。


「ダメかどうかは依頼主が決める事だろ。作った舟に自信を持てよ」


「逆にどうしてお前はそこまで自信を持っとるのか教えてくれ」


 また言い合いが始まってしまった。もう全然話が進まないからさっさと舟を見せてもらう事にしよう。


 なんとかロジオンさんを説得して造船所へ向かう事になった。ダニエラさんが勝ち誇ったような表情でロジオンさんを煽っていたけど、まだその舟を採用するかどうか決めてないんだからね。




「う~ん。こうなりましたか」


「私はアウトリガーなんてつけなくていいと言ったんだが、船体が安定しないと言ってロジオンが無理矢理付けたんだ」


 俺の目の前にはダニエラさんの設計通りに細長く作られた舟があったが、その舟を支えるように船体の左横にはアウトリガーが取り付けられていた。アウトリガーは自転車の補助輪みたいなもので、舟が倒れて転覆しないように支える浮きだ。もちろんそれによって舟の安定性は格段に増すが、水の抵抗が増える為船速は落ちる。自らの設計に手を加えられたことにダニエラさんはご立腹の様だ。


「あんなもん舟とはいわん。ただ水に流される流木と同じだ」


 ロジオンさんも我慢せずに辛辣な言葉を発するから、造船所でも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。


「ちょっと乗ってみても良いですか?」


 俺の言葉にダニエラさんは喜んで舟を運ばせ始めた。陸上で保管していた舟を、川から造船所内に引かれた水面へと進水させる。アウトリガーのお蔭もあって、きちんと水上で自立している。マリーに飛行魔法で補助してもらいながら、俺は単独で舟に乗り込んだ。


 細長い船の前半分は図面通り屋根で覆われていて、内部には足が伸ばせる空間が作られている。後ろ半分には屋根はついて無く、座ったまま後ろに体を倒せるようなスペースが作られていた。寝転がって顔だけ穴から出すタイプじゃなくなったみたいだ。


 足を延ばして座っている状態で舟を揺らしてみたが、もの凄く安定していた。アウトリガーの効果って凄いんだな。リオネラさんが言っていたようにゆったりと川下りを楽しむには凄く合っている舟だと思う。波がある海に行っても安定してそうだ。


「どうだ私の舟は。乗り心地がいいだろう。柔らかい魔物の革を内貼りしているから長時間座っていても疲れないはずだぞ。もちろん耐水性のある革だから水が入って来ても安心だぞ」


 確かに柔らかくてお尻を優しく包んでくれるが、レースに使う舟に乗り心地って必要かな。まあ無いよりはいいのか。問題はこの革の値段がどうなんだってことだけど。高価な革なら要らないよね。

舟前面を覆っている屋根も薄い骨組みの上にこの革を張っているようだ。屋根の方は柔らかさより耐水性の為に選んだのかな。


「あとはゲオルグが持ってくる魔導具を乗せたら完成だ。なるべく早く頼むな」


 ダニエラさんの中ではこの舟が採用されることに疑いが無いらしい。ここは毅然とした態度でしっかりと断ろう。


「ダニエラさん、残念ですがあの舟では競艇に勝てません。あの1艘はこちらで買い取りますので、また新しい舟を作ってください」


「え、なんでだよ。アウトリガーのせいだな。あれが有るからダメなんだな」


 俺の言葉を聞いてほら見ろと言うロジオンさんに対抗するように、ダニエラさんが素っ頓狂な答えを出す。もう、諦めが悪いんだから。


「アウトリガーが有っても無くても一緒です。この舟はアウトリガーが無いと旋回する時に転覆するんじゃないですか?」


「ゆっくりと曲がれば大丈夫だ」


「直線しかないコースならともかく、水路を走る予定の競艇でゆっくりと曲がる船が勝てると思いますか?」


「曲がる時に水魔法で補助したら」


「水魔法を使って良いのなら、それこそこの舟に拘る必要は無いですよね。筏でも丸太船でも、水魔法を駆使したら沈まずに進むんですから。この舟もきちんと活用するので、お願いですから別の新しい舟を作ってください」


 俺に反論されて涙目になるダニエラさんだが、俺も競艇で負けたくないんだ。


「ふっふっふ。心配しなさんなゲオルグ君。私がとっておきの舟を提供しよう」


 今まで黙っていたリオネラさんが急に大声で笑い出した。

 ばーんと自らの口で効果音を出しながら、造船所の奥から布で覆われた何かを引っ張って、引っ張って、引っ張れずその場で力尽きた。


「誰か、助けてください」


 泣きながら助けを求めるリオネラさんに造船所の従業員が駆け寄る中、涙を拭いたダニエラさんも仕方ないなとぼやいて手を貸した。

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