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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第33話 俺は説明の仕方を悩む

「さあ、私が船の設計をしてやるから、どんな船が良いのか説明してくれ」


 ダニエラさんはそう言って胸を張るが、自信有り気に強がっているのをありありと感じ取れる。右足、震えてますよ?


「これは武者震いだ。大丈夫、私に任せろ。私だって設計の勉強はして来たし、リオネラと違って現場も知っている。だから、大丈夫、だよな?」


 何故そこで疑問形にするんだ。断定してくれないと信用出来ないぞ。

 視線をロジオンさんに移して、どうしたらいいかと助言を求める。


「申し訳ない。仕事を依頼するかどうかはそちらで判断してくれ。儂としては仕事は有った方が良いが、無茶な設計では良い船は作れない。身内から言うのもなんだが、ダニエラは設計が苦手だとは伝えておく」


 決断をこちらに任せてロジオンさんは仕事に戻って行った。お前の設計では船は作れないと言われたダニエラさんが、少し目に涙を溜めて全身を震わせている。ルトガーさんからハンカチを借りて涙を拭く姿は同情心を芽生えさせるが、どう判断したものか。


「頼む。私に設計をやらせてくれ。この通り」


 ハンカチを握りしめながら、ダニエラさんが何度も頭を下げてくる。妹に対しての対抗心か、ロジオンさんに対しての反発心か。情けない姿を見せたままでは終われないというプライドか。ここでいい船が作れないと一生舐められると思っているんだろうな。


「分かりました。とりあえずまだ時間は有るので、話だけは聞いてください」


 一向に頭を上げないダニエラさんより先に俺の心が折れてしまった。何故リオネラさんの時に折れなかったのかという非難の視線が痛い。マリーが、ダニエラさんの方がタイプなんですかって言うけど、そういう事じゃないんだよ。なんとなく、なんとなくだよ。

 ダニエラさんはホッとした様子で喜んでいるけど、この決断で良かったんだと思わせてもらわないと依頼料は出し渋るからな。




「今うちの造船所で作っている船はシュトルデル川を航行する川船が主だ。ここで大きな外洋船を作っても河口まで運ぶのが大変だからな。川船は外洋船と違って浅瀬に乗り上げないよう底を浅く作る。外洋船は水面を切って進むが、川船は水の上を滑るように進む。外洋船は風を受けて進む帆船が多いが、川船は櫓や櫂を使う船になる。川の上流に向かう時は川沿いの道から馬や人力で引っ張る事もあるけど、魚人族の水魔法や人族の風魔法、もしくは魔導具で進むのが殆どだな。最近特に流行っているのは船外機を乗せた船だな」


 気を取り直したダニエラさんが船に関する一般的な情報を披露する。そうだね、だいたい知ってた。


 ダニエラさんの話が途切れたタイミングで俺は自分が作りたい船の形状を伝え、動力となる船外機と操船機構について説明した。


「1人乗りの舟か。完全に競艇用にって事だな。船尾に船外機を取り付け、船首の方に操船機能の魔導具を置くと。割と簡単な構造だな。これなら直ぐに出来そうだぞ」


 そんなに安請け合いして大丈夫か?


「風を後方に受け流す為に舟の前方部分は流線型にしてください。立位や座位だと操縦者が風を受けてしまいますので、操縦者が隠れられるような構造もお願いします。なるべく風の影響を受けないようにしたいんです」


「りゅ、りゅうせんがた?」


 そんなところで引っかかっていたら先々が不安になるぞ。話はまだ終わってないんだから。


「それと操縦用の魔導具と船尾の船外機を連動して操作出来るようにしたいんですが、魔力の伝道効率が良くて、重くなく、舟に乗せられる素材に何か心当たりはありますか?」


「で、でんどうって船大工の範疇じゃ」


 範疇で有ろうが無かろうが船造りの材料に関しては専門家でしょうが。


「1つの魔導具に操縦と出力調整の機能を持たせて両手で操作をするのと、操縦する為の魔導具と出力調整をする為の魔導具を2つに分けて少し離して置き、片手でそれぞれの魔導具を操作する場合と、どっちが高速で走る舟を操縦しやすいと思いますか?」


 別に態と理解しにくいような言い方をしているつもりは無いんだけど、どうにも口頭では説明し辛い。ダニエラさんの頭頂部から煙が立ち上っている様な錯覚が見える。


 前世での俺は車を運転する機会が無かったけど、前世の父さんは車を運転する時には殆どの場合左手をシフトレバーの上に乗せていた。昔マニュアル車に乗っていた頃の影響でレバーの上に手を置いていないと落ち着かないし、両手でハンドルを握ってると力が入り過ぎちゃうんだよ、と言っていたのを思い出した。母さんは両手でしっかりとハンドルを握っていたから個人差なのかもしれないけど。やっぱり両方作って試してみた方がいいだろうか。


「とりあえず図面を引いてみよう」


 話を完全に理解する前に、ダニエラさんは机の上に大きな用紙を広げて行動に移る。鉛筆と大きな定規を持ち出して何やら線を引き始めたけど、本当に大丈夫かな。


 クルクルと定規を回転させてどんどん線を追加していくダニエラさんを眺めていると、視界の端で何かが動くのを感じた。

 違和感を感じた方を注視していると、閉まり切っていなかった扉の隙間からリオネラさんの顔が見えた。ばっちり俺と目が合ったリオネラさんは慌てた様子で隠れてしまった。

 ダニエラさんが心配ならそう言えばいいのに。本当に面倒くさい姉妹だ。うちの姉を見習ってくれ。


 俺はルトガーさんから新しい紅茶を受け取り、リオネラさんの事は放っておいて、ダニエラさんが独り頑張る様子を観察する事にした。

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