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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第32話 俺は設計士の主義に反発する

 あっという間に大量の揚げ物を食い尽くした姉妹は恍惚の表情を浮かべている。俺とマリーは随分前にフォークを手放し、食後の紅茶を楽しんでいた。姉妹はまだまだ食べられるという雰囲気でフォークを握り締めているから、呆れて言葉も出ない。


 リオネラさんが食後の紅茶を姉妹に運んで来たルトガーさんの手を取り、目を潤ませて話しかけた。


「美味しい食事を提供して頂き、ありがとうございます。ルトガー様と仰いましたね。ぜひ私と結婚してください」


 あの姉にしてこの妹ありか。確かにルトガーさんはいい歳して独り身だけど、婚活の為に食事を提供したんじゃないんだぞ。舟作りの話を円滑に進める為なんだぞ。


「ルトガーさんは私が最初に目を付けたんだからダメだぞ。リオネラはまだ若いんだから、今回は私に譲れ」


 ダニエラさんがリオネラさんの手にチョップを喰らわせて無理矢理2人を引きはがす。


「いった~い。優しいルトガー様にはこんな粗暴な人は似合いませんよね。その点私はそう言った行いは致しませんのでご安心ください」


「私が手を挙げるのは馬鹿な妹を躾ける時だけだ。部屋の掃除も家の家事もせずに引き籠って船の設計ばかりやってるお前が結婚出来るわけないだろ」


「私は得意な事を仕事にしているだけですぅ。やろうと思えば掃除も家事も可能ですが仕事がいっぱい溜まって時間が無いだけですぅ。そんなに言うなら自分で設計してみてはいかがですかお姉様?」


「ぐっ。私だって他の仕事が忙しくて設計をする時間が無いんだ」


 ダメだ、お互いヒートアップして全く終わりが見えない。仲が良いのか悪いのか全く分からない。なんなんだこの姉妹は。

 ちょっとアンナさん。誰か話の分かる人を呼んで来てもらえませんか?

 ありがとうございます。あ、紅茶のお代わり頂きます。

 ああ、紅茶が上手い。耳栓とアイマスクも欲しいな。




「いい加減にせんか。毎回毎回男の事で喧嘩しおって。その度に新規の仕事依頼が無くなっているのをいい加減学べ、このバカ共が」


 アンナさんが呼んで来たドワーフ族の老人が、ずっと口喧嘩を止めずにいた姉妹を怒鳴りつけた。老人は急いで来てくれたらしく、立派な顎鬚が乱れに乱れている。紅潮した顔と乱れた髭が相まって怒る迫力は満点だ。

 しかし怒られた2人は口喧嘩を止めたが、特に悪びれる様子も無い。明らかに怒られ慣れてるな。父さんに注意される時の姉さんみたいだ。まあそれはいいんだけど、巻き込まれたルトガーさんにだけは謝罪を要求する。


「わるかった」「申し訳ありません」


 一回の要請で素直に謝ったから許してやろうか。ルトガーさんはフライヤーの片づけをお願いします。油の処理は危ないので2人は手を出さないでください。そういう時には姉妹揃って積極的に動くんだな。

 ところで、ドワーフ族の貴方は何者でしょうか?


「うちのバカ姉妹が迷惑をかけたな。儂はこの造船所で長らく船大工の頭を務めているロジオンと申すものだ。フリーグ男爵家の噂は妻を介して良く聞いておるよ」


 先程までの憤怒の顔を消して、柔和な好々爺然とした表情で自己紹介をしてくれた。俺達も自己紹介を返した後、どういう噂が流れているのか質問した。


「だいたいは鍛冶屋のヤーナさんが儂の妻に喋った内容なんだが、新しい村を作っているとか、長女が凄いとか、長男が良い子だとか、まあそんな感じの世間話だな」


 何となくはぐらかされた気がするけど、それで飲み込んでおこう。今はそっちを追及している場合じゃないからね。俺は話を聞いてくれそうなロジオンさんに舟作りの事を話した。


「今年開催予定の競艇の為に新しい船外機を作っているんです。その船外機を試す為の舟が欲しいんですが、こちらの希望通りに設計して作ってもらえませんか?」


「ふむ、単なる食事会じゃなくて仕事の依頼で来ていたのか。それなのにお前たちときたら。さっさとその希望を聞いて設計に取り掛からんか」


 俺の話を聞いてくれたロジオンさんがおバカ姉妹を攻め立てる。そんなに怒らなくても。


「お断りします」


 ああ、リオネラさんが臍を曲げてしまった。ロジオンさんがしつこく怒るから。


「私は自分の発想で自由に船を設計したいんです。今まで依頼人の希望を聞いて設計したことはありません。今回も聞くつもりはありませんので、そういう話でしたら別の造船所へ行ってください」


 えええ、ロジオンさんにじゃなくてこっちの主張に対して不満があったのか。

 まあお互いの主張がぶつかっちゃうのは仕方ない。でも、こちらも簡単には折れないぞ。


「リオネラさんの主義は尊重したいんですが、こちらにも舟に関して考えが有るんです。折角船着場の親方から紹介して頂いたんですが、今回は縁が無かったという事で。では失礼いたします」


 結構な量の海産物を提供したけど無駄になっちゃったな。次に訪ねる造船所では直ぐに依頼を引き受けてくれるといいな。親方に安くて腕の良い造船所を紹介して貰おう。


「ちょ、ちょっと待った。そう簡単に諦めるな。おいリオネラ、無駄な意地を張ってないで仕事を受けろ。そんなことばかり言っているから仕事が来ないんだろ」


「違います。私の才能を皆が妬んでいるだけです。素人が考えた物より私が設計した方が絶対良い船になるんだから。仕事を逃したくないっていうならお姉ちゃんが設計したらいいでしょ」


「ああわかったよ。そこまで言うなら私がやってやる。暫くの間お前の世話は焼かないからな。もう勝手にしろ」


 また喧嘩が始まってしまった。そしてなぜか船の設計はダニエラさんがやることに。リオネラさんは、私は1人でも生きていけるもん、と捨て台詞を残して自室に引っ込んでしまった。


 ゲオルグ様が折れないからですよってマリーが囁いて来るんだけど。え、これって俺が悪いの?


 心配しなくても私が良い舟を作ってやると、ダニエラさんは鼻息荒く意気込んでいるが、本当に大丈夫なんだろうか。ロジオンさん、ため息をついてないでどうしたらいいか教えてください。

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