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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第31話 俺はミックスフライを提供する

 船着場で大量に魚介類を購入して男爵邸に持ち帰った。

 料理長に仕込みをお願いすると、何人前かもわからないほどの量を見て他の使用人と一緒に固まってしまった。少々買い過ぎたかもしれない。

 流石にすべて任せるのは申し訳ないと、海老の殻むきと背わた取りを手伝った。ゲオルグ様にやらせる訳にはとかなんとか言っていたけど、刃物は使わないんだから危なくないでしょと無理矢理手伝った。それなりに時間は掛かったが全ての下処理が終わり、料理長達を家に帰すことが出来てホッとしている。明日は造船所に食材と道具を持参して、リオネラさんに食べてもらう。運ぶ荷物が多いからアンナさんだけじゃなくルトガーさんにもついて来てもらおうかな。




「ダニエラさん、こんにちは」


 お昼前、約束の時間にダニエラさんを訪ねた。昨日と同じく造船所に隣接している小さな建物だ。なんかダニエラさんの服装も昨日と同じに見える。敷地内ですれ違った他の魚人族や人族は皆同じ作業着を着てたけど、ダニエラさんは普段着っぽいんだよな。もしかして家に帰ってないのかな。


「おう、よく来たな。私もリオネラも腹を空かせて待ってたんだよ。場所は向こうを使ってくれ。よろしく頼むな」


 炊事が出来る部屋まで案内してくれたダニエラさんは、満面の笑みで腹が減ったとお腹をさすっている。まさか昨日の夜から食べてないってことは、ないよね?


「おっと今日はいい男が居るじゃないか。私の旦那になって一緒に造船所を盛り上げないか?」


 一番最後に大きな荷物を背負って入って来たルトガーさんに目を付けたダニエラさんが、間髪入れずに求婚した。会って早々見知らぬ男性に求婚するなんて、豪快を通り越してちょっと変だと思う。


「初めましてダニエラ様。私はルトガーと申します。長らく独り身である私には大変喜ばしい申し出なのですが、私は男爵家にこの身を捧げると誓っています。なので他の職に就くことは出来ないのです。大変魅力的なダニエラ様には、私よりもきっと素敵なお相手が現れるでしょう」


 そう言ってルトガーさんはダニエラさんからの求婚を断った。


「そうか。それなら造船所の事は妹に任せて、私が男爵家に仕えるという手もあるな」


 ダニエラさんがとんでもない事を言いだしたぞ。俺は慌てて話に割って入った。


「そんなに簡単に職を辞しても大丈夫なんですか?」


「別に私が居なくても造船所は回るからな。船大工の棟梁は祖父の代からドワーフ族の職人が勤めているし、設計は妹だ。会計も事務も親が雇った人族の従業員が上手くやっている。私の仕事は何か有ったら頭を下げに行くだけさ。誰だって出来る仕事だろ?」


 いや、引きこもりのリオネラさんには厳しい仕事じゃないだろうか。


「ダニエラさんに頼りがいがあるから、みんなここで仕事しているんですよ。それに人族は水中で生活出来ないので、結婚相手は同じ魚人族の方が良いんじゃないですか?」


「私は陸上生活の方が好きだから構わんよ。それにこの造船所には多くの種族が出入りしているから、他種族と結婚する連中は結構いるんだぞ」


 へえ、そうなんだ。そういう環境で育ったのなら他種族婚も気にならないのかな。だからと言って会って直ぐにって言うのはどうかと思うけど。

 俺とダニエラさんが話をしている間に、ルトガーさんがフライヤーに油を注ぎ、アンナさんとマリーが食材に衣を付けている。普通の衣と青のり粉を混ぜた衣の2種類を提供する予定だ。


「ルトガーさんは俺じゃなくて父の部下なので、もし本気で引き抜きや結婚を考えてるなら父にお願いしますね」


 面倒な話は全て父さんに任せよう。ルトガーさんもいい歳だからそろそろ結婚してもいいんじゃないかな。

 そのルトガーさんは俺達の会話を気にする様子も無く、温まった油に食材を順次投入していく。パチパチパチと小気味よい音を奏でながら、食材の衣が色付いて行く。ダニエラさん、あんまり覗き込むと油が跳ねて火傷しますよ。

 ルトガーさんにフライヤーを任せたアンナさんは、サラダなどの添え物を準備している。昨日わかめを買ったから海藻サラダを提案した。昨日試食してみたけど、酢を利かせたドレッシングに良く合うね。


「ハア、凄くいい匂いがする。犯罪的な匂い。お腹空いたぁ」


 揚げ物の芳ばしい香りに釣られて、リオネラさんがよろよろと部屋から出て来た。こっちも食事を我慢してたのかな。ダニエラさんが食事をしないとリオネラさんも食べられないという構図なのかもしれない。


「坊ちゃま。全て揚げ終わるのを待っていたら最初に揚げた食材が冷めてしまいます。ここは私とアンナに任せて、皆さんと一緒に食事をして下さい」


 そうだね、冷める前に頂こう。マリーが4人分の食器や飲み物、パンを用意してくれたテーブルに座る。リオネラさんとダニエラさんは既に着席してパンを抓んでいた。アンナさんがサラダや揚げ物を運んでくる。よし、頂きます。


「こっちが魚。これはホタテの貝柱。それは海老ですね。海老の尻尾は食べても食べなくても大丈夫です。衣に少し緑の色がついている方は青のり粉を混ぜ込んでいます。塩で食べるか、特製のウスターソースでどうぞ」


 俺が説明をしている最中から、2人はフライに手を付けていた。

 俺は海藻サラダを頂きながら2人の食べっぷりを暫く見ていたが、気持ちの良い食べっぷりだ。性格は全然違うが大口で頬張る食べ方は2人とも良く似ている。味の好みで言うとダニエラさんは塩が、リオネラさんはウスターソースが気に入ったようだけど。


 ああ、もう我慢できない。俺もソースでフライを食べよう。綺麗に腹開きにされたアジのフライにソースをちょちょっと垂らす。このカラッと揚げた衣に浸み込んでいく感じ。絶対美味いじゃないか。アジの半身にがぶっとかじりつく。ソースの香りが鼻に抜ける。美味い意外に表現の仕方があるのか?

 マリーも俺に習って食べ始める。

 俺達4人は暫し無言で、次々と揚げられる海産物を楽しんでいた。

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