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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第22話 俺はクロエさんを応援する

 俺が新しい船外機用にドワーフ言語の策定を始めた2日後、クロエさんから声が掛かった。


「何とかナイフが出来ました。時間が掛かってしまい申し訳ありません」


 謝罪と共に、ナイフを差し出される。片刃の直刀で刃幅は広くなく、刀身は柄の部分より少し長い程度。柄頭には魔力を蓄える為の魔石が添えられている。うん、工房で使っていたナイフとほぼ同じだ。同じ形に揃えて来たのはマリーの案だろうな。


「立派なナイフをありがとうございます。金属魔法で作ったんですか?」


「いいえ、ダメでした。団長の火魔法で鉄を溶かしてもらって、ハンマーで叩いて作りました。でも、私は諦めません。秘技を使ってハンマーを振るうと上手に金属を加工する事が出来たんです。それを見たマリーちゃんがハンマーに魔力を通して金属を加工するのは金属魔法の基本だと教えてくれました。金属魔法と同じ事が出来たんです。私は諦めません。期待してくれている人の為に、どんな手を使っても、金属魔法を習得します。だからゲオルグ様も魔導具作りを頑張って下さいね」


 僅かだけど確かな一歩を踏み出せたクロエさんが、熱っぽく今後の目標を語る。

 い、いかん。もの凄く舞い上がりそうだ。そんな笑顔を向けられると興奮してしまう。


 ナイフを手渡して言いたいことを言ったクロエさんは立ち去って行った。気の利いた事も言えず、立ち尽くしてしまったよ。クロエさんの笑顔が強烈すぎるんだ。恋愛経験が薄い俺には対処が難しい。




 その日は夕方まで何も手に付かなかった。ナイフを弄びながら魔石を削るでもなくぼーっとしてしまった。


「ニヤニヤしてナイフを触ってると危ない人に思われるよ」


 学校から帰って来た姉さんに指摘されて、漸く可笑しな行動をとっている事を自覚した。ええっと他の誰にも見られてないよね?


「これから重力魔法のお披露目をするから、暇ならどう?」


 暇じゃないはずなんだけど、気分が乗らないから見学に行こう。ていうか、もう使えるようになったのか。


「ここ数日、授業の時間を利用して色々考えたんだよ」


 えっへんと胸を張っているが、誇れる事じゃないぞ。授業時間を睡眠に充てていた俺が言える立場じゃないけど。




 俺の他に、エステルさん、クロエさん、ソゾンさん、マリーが集まった。

 姉さんが土魔法で大きな石を作り、種も仕掛けも無い事を皆で確認する。俺は持ち上げられなかったが、秘技を使ったクロエさんは難なく持ち上げていた。


「ではこの重い石を非力なゲオルグでも持ち上げられるように致しましょう」


 非力で悪かったな。


「それじゃあいくよ」


 姉さんが石に手を添えて詠い出す。


「地に住まい、足に絡まる、黄土の手。緩めよ力、我らは逃げぬ」


 綺麗な声でゆっくりと、でも力強く。


「足軽」


 姉さんが気合を込めて最後の言霊を発した。が、目に見えて大きな変化は無い。見守っていたソゾンさんやマリーが険しい顔をしている。どうなった、失敗したか?


「さあ、ゲオルグ。持ち上げてみて」


 姉さんに促され、石に近づく。少し腰を落として、両手を石の下に添える。ゆっくりを腰を上げ、石を手元に引き寄せる。お、おお。


「おお、軽くなってる」


 さっきはビクともしなかった石を持ち上げられるようになった。羽のように軽く、とは言わないけど、持ち上げて移動出来るくらいには軽くなってるぞ。


「この言霊で重力は一律半減するよ。魔法の持続時間は1時間ってところかな」


 なるほど、重さ半分か。もっと軽くしたりも出来るのかな。

 軽くなった石を皆に手渡して確認してもらった後、地面に戻した。


「重力の変化量を大きくすると、魔法の持続時間が短くなるんだよね。重力ゼロにしたらほんの数秒で魔法が切れちゃうの。だから半分くらいがちょうどいいかなと思って」


 数秒しか効果が無いなら無重力はあまり役立たないだろうな。うん、半減でも充分だ。

 でも俺は言霊の名の方が気になる。アシガルって聞くと前世の時代劇を思い出すんだが。


「言霊はエステルの案だよ。身軽と手軽と足軽を提案されたから、語呂の良さで足軽を選んだの。因みに重力を倍増させる方の魔法は足重だよ」


 足重?

 アシとシゲをくっ付けたら踵になるんだけど。まあそれで姉さんのイメージが固まっているのなら何も言わなくていいか。重さを軽くする方が足軽で重くする方が足重ね。分かりやすくていいかも?


 足重の方も見せるねと言って姉さんが石に手を翳す。


「地に住まい、足に絡まる、黄土の手。力を込めよ、獲物逃がすな」


「足重」


 言霊を言い終わった姉さんが離れたのを見て、もう一度持ち上げようと石に触る。あ、これはダメだ。さっきと全然感触が違う。クロエさん、変わってください。

 触っただけで無理だと判断した俺は、クロエさんとバトンタッチ。秘技を使ったクロエさんはその石を難なく持ち上げてしまった。う~ん。まだ成長期だから筋トレは控えてランニングと素振りにしてたんだけど、やった方がいいかな。


 考え事をしていると、石を置いたクロエさんが姉さんに向けて口を開いた。


「アリー様、1つお願いがあるのですが」


 名前を呼ばれた姉さんがクロエさんに近寄る。


「私に金属魔法の言霊を伝授してください。鍛冶が何とか出来るようになり、ソゾンさんからも言霊に頼っていいと許可を頂いています。よろしくお願いします」


 真剣な眼差しで訴えるクロエさんに対し、姉さんは柔らかな笑顔で承知した。


 ソゾンさんは言霊に頼ることを反対していたんだろうか。

 どんな手を使っても。

 そう言っていたクロエさんの顔を思い出して、応援しか出来ない事をもどかしく思った。

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