第20話 俺は勝負を挑まれる
「いや~まいった。店に来ておるという使者は1組かと思ったら4組も来ておった。昼飯も食えずに対応させられたわ」
夕方、アンナさんに抱えられて帰って来たソゾンさんに会うと、開口一番愚痴を聞かされた。
「勝手な事を言う奴らばかりじゃったからいくつか断ってやろうかと思ったが、金を稼げとヤーナに尻を叩かれてのう。結局全部の依頼を受ける事になってしまった。これで5月以降はゆっくり出来なくなってしまったわい」
「そうなんですか。ずっとここに縛り付けてしまっていて、すみませんでした」
今度王都に帰った時にはヤーナさんにも謝罪しないといけないな。
「儂はまあまあ楽しかったから、ずっとここに居るのは別に構わんよ。ヤーナも儂が居ない間に孫達と会って、のびのびしていたはずなんじゃがな。帰ったら暫く機嫌が悪くて参ったわい」
おっとヤーナさんへの愚痴が継続しそうだ。勝手ながら少しだけヤーナさんをフォローしておこうか。
「ヤーナさんもきっと寂しかったんですよ。工房まで含めるとかなり広い家ですからね。そこでずっと1人は寂しいはずです。だからなかなか帰って来ないソゾンさんに怒っちゃったんじゃないですか?」
「まあ儂はヤーナに愛されとるからな。こっちに戻る前に食べた飯は最高に美味かったぞ」
真顔で恥ずかしい事をいうソゾンさんに空笑いしか返せなかった。愚痴を聞いていた方が良かったかもしれない。恥ずかしいから話題を変えよう。
「ところで、どんな依頼だったんですか?」
「武具製造と、温室建設と、魔導具作成が2種じゃな」
どれもソゾンさんの得意分野だけど、鍛冶以外の仕事も受けたんだな。儂は鍛冶屋じゃと常日頃言っていたのに。
「キュステやヴルツェルの温室が有名になったからか、漸く他の貴族達も温室に手をつけようとしているんですね」
少し割高だけど温室産の野菜が出回り始めている。爺さんに聞いた話では、季節感が無いと言われながらもしっかりと売れているらしい。父さんが作っている枝豆も年中食べられるようになってきた。温室は目下注目の的だが、建設費用がバカ高く、新しく建設出来る貴族は少ないはずだ。
「まあ勝負に出るなら必要じゃろうな」
「もしかして、王子達からの依頼だったりします?」
「そうじゃよ。依頼内容に個性が出て面白かったのう」
「誰がどの依頼とか聞いても良いですか?」
「第一王子が温室で、第二王子が武具。第三王子が魔導具じゃな。詳細な内容は言わんぞ」
第二王子が武具?
何か変なことを企んでいる匂いがぷんぷんするんだが。
此処を襲う可能性を考えるのは飛躍しすぎかな。一応父さんに伝えておこう。
「王子達は儂が男爵家と懇意なのも把握しておるじゃろう。それでも儂に依頼して来るのは、プライドを捨てて領地を発展させようとしているのか、それとも儂がゲオルグに手を貸すのを邪魔しているのか」
「邪魔だなんて。ソゾンさんが依頼を受けるかどうかも分からないのに」
「それくらい王子達が儂に依頼して来ることは可笑しい事じゃろ、っと言う話じゃ」
ソゾンさんも裏があることを感じているのか。男爵家専属で雇っている訳じゃないから他の依頼を受けないでとは言えないのがもどかしい。
「自分達で雇っている鍛冶屋や魔導具職人を差し置いて態々ソゾンさんに依頼するって、変ですよね。王子ならソゾンさんより優秀な職人を囲い込むことも出来るでしょうに」
「お、言うようになったな。自分の方が優秀じゃと言いたいんじゃな」
「い、いえ、そんなことを言うつもりでは無くてですね」
いかん、余計な事を言い過ぎた。
「そんなゲオルグに朗報じゃ。王子達とは別にもう1人から面白い依頼を受けた。ボーデン公爵からの依頼じゃ」
「まさか、船外機を」
「そうじゃ。どうしても負けられない相手がおるんじゃと。ヴルツェルのデニス老の事じゃろう。デニス老も新しい船外機を用意しようとしておるみたいじゃし、面白そうじゃから受ける事にした」
ソゾンさんはニヤリと笑って俺を見た。
「俺と、勝負することになります?」
「ふっふっふ。面白くなってきたのう。儂は王都に帰ってから作成することになるが、全力を尽くす。ゲオルグも手を抜くなよ。これまで色々とゲオルグに教えて来たが、これからは我々はライバルじゃ。年齢も経験も関係ない。より良い魔導具を作った者が勝者じゃ」
先程まで使者との面会に疲れたと愚痴っていたドワーフ族の老人はそこにはおらず。
「もう一度言うぞ、手を抜くな。そして儂をもっともっと楽しませてくれ」
老人はとても若々しい表情で笑っていた。




