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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第16話 俺は重力魔法を体感する

 すぐに重力魔法を教えて欲しいと訴える姉さんに何とか待ってもらって、俺はマルテを探しに行った。


「傭兵団の希望者に飛行魔法を教えればいいんですね。分かりました。朝食後に1時間ほど時間を取って教えるようにしましょう」


 洗濯をしていたマルテに事情を説明したらすぐに了解してくれた。

 マルテは現在、村の男爵邸に住む人達の身の回りの世話をやってくれている。大家族を纏める肝っ玉母さんと言った感じだ。王都邸から他の使用人を連れて来るか誰か新しく雇うかしないとマルテの自由時間は全くない状況なのに、無理を言って申し訳ない。




「ではゲオルグも帰って来たし、重力魔法について話をしようか」


 10分もかからず帰って来たのに姉さんは我慢の限界だったみたい。俺が戻ると、部屋の中をうろうろ歩き回っていた。ソゾンさんの言葉を聞いたらピタッと止まって声の元へ突撃していく。

 そんな姉さんに、ソゾンさんが優しく質問を投げかけた。


「アリー、先程から重力魔法と連呼しておるが、重力とは何か分かるか?」


「ん~と。物を持った時に感じる重さ、の大きさ?」


 何とか絞り出して答えを紡ぐ。


「そうじゃな。物を持つと重さを感じる。軽い物、重い物、様々じゃ。マリー、その重さはどのように生まれると思う?」


「この星が中心に向かって物を引っ張ろうとする引力と、星の自転によって発生する遠心力によって生まれます」


 姉さんと違ってスラスラと答える。

 なんでマリーはそんなこと知っているのかな?


「うむ、よく勉強しておるな。数百年前に別の国の学者がその説を提唱したんじゃ。この国も図書館にもその学者の本が有るじゃろう」


 そうなんだ。魔法系の本に拘っていた俺と違って、マリーは手広く本を読んでいたからな。


「しかし、こういう考えもある。全ての物には魔力が込められており、その魔力は各々属性を持っている。岩や金属など重さを感じる物には土属性を持つ魔力が多分に含まれている。羽毛や綿毛など軽い物は土よりも火の魔力を多く内包している、という説じゃ。火水風土の4属性魔法が確立した千年も二千年も前の説じゃ」


 軽い物には風ってイメージなんだけど、火なのか。


「土属性は地面に戻ろうとするから一番重い。その上に水、風が流れ、火はどんどん上空に上がろうとするから軽い、という考えじゃ。土属性は地面に引っ張られ、火属性は、身近にあるもっとも暖かい存在、お日様に引っ張られる、そういう発想じゃな」


 はあ。よく解らないけど、昔の人は色々考えたんだな。その考えを様々な人が考察していった結果に今が有るんだよな。


「そのころから熟練した土魔導師は物の重さを操作できると言われていた。後にある魔導師が重力魔法として新たに分類したんじゃ。アイテムボックスを発明した魔導師じゃな」


 出た、天才魔導師。


「で、ここからが重要なんじゃが、話を聞かないなら魔法を教えんぞ、アリー」


 こくりこくりと船を漕いでいた姉さんを急いでエステルさんが揺すり起こす。そんなに長い話じゃ無かったんだけど、学校の授業が不安になる。涎を拭いた姉さんがソゾンさんに平謝りをして話は再開された。


「昔は物質内の魔力に直接干渉するやり方じゃったが、これには欠点が有った。重さは変わるが、多くは土魔法でその物質が変質してしまうのじゃ。そこで重力魔法になった時から方法が変わった」


 両手で自らの目を開いて話を聞いている姉さん。人を笑わそうとしている様にしか見えないぞ。


「マリーが言ったように重力とは星の引力と遠心力で計算される。ここに干渉することで重さを変化させることが出来るんじゃ」


「つまり物質の質量には干渉せずに、物質に外部から掛かる重力を制御することで重さを変える訳ですね」


 マリーがソゾンさんの説明を補足する。その通りじゃと言われたマリーが嬉しそうだ。

 う~ん、前世で習ったような気がするが、まったくわからん。俺も姉さんの事を非難できないくらい、中学時代は勉強をさぼっていたからな。姉さんは言わずもがな、エステルさんも首を捻っている。


「ええっと、質量って言うのは物質が本来持つ大きさの事で何処で測定しても一定です。重さというのは物質に作用する重力の大きさで、重力が無い宇宙で測定するとゼロになります。この星より小さな惑星で測ると少し小さな重さになります。理解して、ませんね」


「はい、解りません。どうやら物理学は苦手みたい。姉さんは解った?」


 一生懸命マリーが説明してくれたけど、まったく解らないぞ。


「解らない。リロンは解らなくても魔法を見れば解るから大丈夫」


 う~ん、潔い。エステルさんも同様の様だ。俺もそこまで割り切れればいいんだろうが、ドワーフ言語を使用するにはある程度理論も学ばないと。くっそ、もっと勉強しておけばよかった。


「まあ要するに、目に見えない力を操作するから調節が難しいということじゃな。じゃあ魔法を使って見せようか」


 ソゾンさんも説明を投げ出してしまった。元々理解出来るとは思っていなかったのかもしれないな。家を出て、人が居ない辺りまで移動し、ソゾンさんが土魔法で大きな石を作成した。大人の頭よりは大きな石だ。


「ゲオルグ、これを持ってみろ」


 言われた通りに石を持ち上げてみる。腰を落とし、石の下に両手を添えて、一気に持ち上げる。うん、重いけど持てないほどじゃないな。


「そのまま持っておれ」


 え、それはきついんだけど。持ち上げるのと維持するのとでは全然負荷が違う。


「この石が地面に引っ張られるのを断ち切るんじゃ。こういう風にな」


 ソゾンさんが右腕を動かし、俺が持っている石の真下を通過した。その瞬間、踏ん張っていた俺の体が自由を取り戻し、勢い余って軽くなった石を真上に放り投げてしまった。その姿が面白かったのか皆に笑われてしまったが、みんなもやってみたらいいよ。絶対ああなるんだから。


「引力を操作したからか、なかなか落ちて来ませんね。重力加速度も影響を受けているんでしょう」


 上空を見上げたマリーがまた難しい事を言う。解ってないけど、そうだねと適当に相槌を打ってしまった。魔法では負けても、剣術と勉強でマリーに負けるわけにはいかないのだ。


 その後、皆も重力魔法を体感した。何が面白いのか、姉さんはずっと笑っていた。そういえば理科の実験は好きだったなと、俺は昔を懐かしんだ。

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