第15話 俺は新しい魔法を知る
ボーデン公爵との勝負に勝ちたい爺さんから依頼された船外機を作る事も大事だが、そもそも村での生活を豊かにする目的で傭兵団から話を聞いたんだ。だからそっちの希望も叶えないとな。山中を不自由なく移動する為にどんな魔導具が有ったら便利だろうか。
飛行魔法を仕込んだ魔導具を身に付けて体を浮かせるか、浮遊魔法で籠や背負子を軽くして動きやすくするか。魔法の絨毯みたいな乗り物を作るか。どういうのが便利かな。意見を出してくれた団員から詳しく聞き取りをしよう。
「山中はジメジメして滑りやすい所や傾斜が厳しい場所が多いので、改善する手立てを考えて下さるのはありがたいです」
彼はシビルさんに命を救われた団員の一人で、比較的軽症だった人だ。3人の中では一番体力があるので山中の管理を担当している。剣術を買われて傭兵団に入ったが、魔法はあまり得意ではないそうだ。
まだ構想の段階だが、魔導具で空中に浮く乗り物を作ることを提案してみた。
「枝が多い山中で乗り物は厳しいでしょうね。山道がある程度整備されたら活用できるかもしれませんが、村の中で使用する方が役に立つと思います」
そりゃそうか。人の手が入っていない山の環境を全く考慮していなかったな。乗り物の件は置いといて、リュックや靴に魔導具を設置して飛行出来るようにする案はどうだろう?
「飛行魔法が使えない私が体を浮かせるのはちょっと怖いですね。そのうち慣れるんでしょうが、あまり熱心に練習する時間が取れるかどうか。浮かせるんじゃなくて体が軽くなる程度の方が便利ではないでしょうか」
なるほど。完全に宙に浮くよりは、動きやすくなる方が良いのか。体を軽くさせるのは浮遊魔法かな?
ちょっと方法が思いつかないから後でソゾンさんに相談しよう。
では次に、浮遊する入れ物はどうかな。収穫物を入れておく籠が浮いて後をついて来たら便利でしょ。
「う~ん。それも木の枝や草に引っかかりそうですが、開けた山道を通って重い木材や大量の収穫物を運ぶのには便利そうですね」
うん、わかった。とりあえず本人が山中で動きやすくなるような方向性で考えよう。
すぐには出来ないから気長に待っていて下さいね。
倉庫を全て作り終えたソゾンさんは建設部隊を手伝って村に住居を建てている。最初にソゾンさんへ依頼した仕事は終わったんだから王都まで送り届けようとしたが固辞し、建設部隊と一緒に帰る事にしてくれた。おかげで順調に村作りが進んだ。とてもありがたい。新築の家で内装を整えているソゾンさんに魔導具の件を相談した。
「ふむ。魔導具で対応出来なくはないが、人族なら飛行魔法を覚えた方が便利じゃろ」
ソゾンさんにずばっと正論を言われた。どうやら俺は魔導具を作る事に囚われ過ぎたみたい。
「ちなみに、物を浮かせる魔導具は浮遊魔法を利用するんですか?」
「そうじゃよ。空中で停止させるのが難しいんじゃ。調節を間違うとどこまでも上昇していくし、荷重制限を守らせないとすぐに墜落するぞ」
「体や物を軽くするのも浮遊魔法で出来ますか?」
「いや、う~ん。まあ触りくらいは教えてもいいか。獣人族に秘伝の技が有るように、ドワーフ族にも秘匿している魔法が有るんじゃ。昔々、アイテムボックスに使うドワーフ言語を開発したドワーフが得意とした魔法なんじゃが、危険じゃからと敬遠されている魔法でな。物に掛かる重さを軽くしたり、逆に重くしたり出来る魔法じゃ。重力魔法と呼ばれておる」
おお、重力か。姉さんが聞いたら飛び上がって喜びそうだ。面白そうな魔法なのになんであまり使わないんだろう。
「重力魔法も微調整が難しいんじゃ。体が軽くなるとちょっと飛び跳ねるだけでどこまでも上昇できる。じゃが飛行魔法と違って空中で留まれる訳じゃ無く、いつかは落下する。慌てたドワーフが昔からよく怪我をしてきたんじゃ」
ドワーフ族なら落下地点の地面を土魔法で柔らかくしたら怪我もしないだろうに。そんなことも思いつかないくらい動揺したのかな。
「魔導具にするのも難しいぞ。儂も何回も失敗して漸く1品が出来るくらいじゃ。もし作りたいなら1年単位で試行錯誤する覚悟がいるぞ」
正直言うと作ってみたい。重力魔法のドワーフ言語は知らないから、新しい言語を試してみたい。けど、1年は待たせられないな。
魔導具を作っている間に飛行魔法の練習をしてもらうことになるかな
「重力魔法のドワーフ言語、教えてください」
先ずは収穫物を入れる籠でも作ろう。背負子を軽量化するのもいいな。あ、重いままで改良出来ないでいた自転車を軽くするチャンスかも。
「まあええじゃろ。そのかわり、アリーには黙っとけよ。知られたら教えろと煩いからのう」
「ふふふ、聞いちゃったよ。2人だけで面白そうなことするなんてズルい」
ソゾンさんと一緒に声の方を振り返ると、姉さんが仁王立ちで出入り口を封鎖していた。後ろにはマリーとエステルさんも居る。別に隠れているつもりじゃなかったけど、どうやってここを嗅ぎつけたんだ。
「学校の勉強より絶対こっちの方が面白い。マリーに情報提供を頼んでおいて良かったよ」
なるほど、俺の行動を監視して姉さんに売ったのか。マリーをちょっとだけ睨みつけるが、本人は涼しい顔をしている。
「歴史も文学もつまらない。ずーっと魔法の授業だけでいいのに」
姉さんの不満も分かる。でも学校の授業が面白くないからと言って、こちらに救いを求めないで欲しい。危ない魔法なんだから。ね、ソゾンさん。
「知られてしまったのは仕方ない。教えてもいいが絶対に人に使うんじゃないぞ」
ソゾンさんが念のためにと釘をさす。秘匿って言ってた割には抵抗しなかったな。俺にもすんなりと教えてくれたから、重力魔法が広まらないのをソゾンさんも不満に思っていたのかもしれない。
「ねえねえ、早く教えてよ。魔法を使って見せてよ」
「ああもう煩い。わかったから大人しくするんじゃ」
抱きついてくる姉さんを振り払いながらも楽しそうに顔を綻ばせるソゾンさんを見ながら、俺はそう思った。




