第12話 俺は姉さんを学校に送り出す
4月1日。姉さんとエステルさんとエマさんの入学式。
ラジオ体操をしてさくっとランニングを終えると、アンナさんが姉さん達を迎えに来た。
「やっぱりキラキラの服に着替えるのヤダよ。普段着でいいよ」
「駄目です。今日は入学式の後、そのまま上級生達も出席するパーティーがあると説明しましたよね。第一王子も第二王子も参加するんですから、アリー様もドレスを着なければ」
「ヤダ。この前お城に行った時もドレスじゃなかったんだから、汚れた服じゃ無ければ大丈夫だよ」
慰労会の時の話かな。確かにあの時はドレス姿じゃなかった。ドレスだったら天井付近でプカプカ浮かんでおく事も憚られただろう。普段着でもやっちゃダメだと思うが。
「折角エステルさんの分も用意したんですから」
「エマはきっと普段着だよ」
「いいえ、先日鷹揚亭に言って確認しました。ドレスを用意しているそうですよ」
な、なんだって。カメラが有れば写真を撮って来てもらうのに。
「取り敢えず此処で言い争っていても遅れるだけだから王都へ行くね。ゲオルグ、いってきます」
「逃がしませんよ。エステルさんも遅れずについて来て下さいね」
3人が飛び立って行った。言い合いしてるけど姉さんもアンナさんもどこか楽しそうだった。長い間一緒に居た2人だからね。こういう雰囲気が日常なのかもしれない。
夕方、王都から帰って来た姉さんはぷりぷり怒っていた。どうしたのかと思ったら、第二王子と喧嘩をしてきたらしい。
エマさんと合流して3人で学校に行くと、すぐに第二王子率いる集団と鉢合わせたそうだ。20人以上を従えて気を良くした第二王子は、姉さんを見つけるとすぐに舌戦を仕掛けて来たんだとエステルさんが教えてくれた。
「ゲオルグ君の事を、あまり良くない言葉で罵った事にアリーちゃんが凄く怒って」
「ゲオルグは無能なんかじゃない。立派に働いて父様の役に立ってる。人が嫌がる事しかできないクソ餓鬼の方がよっぽど無能だ。って言ってやったのよ」
せっかくエステルさんが暈して説明してくれてたのに、全部言っちゃった。まあ今更無能と言われても傷付かないけど。
それから暫くは悪口の言い合いだったが、向こうの集団の1人が痺れを切らしたのか火魔法でエマさんを攻撃した。何故姉さんじゃなくてエマさんを狙ったのか、腹立たしい。
これにはリーダーである第二王子も驚いていたから、独断で行われた攻撃でしょうとエステルさんが分析する。エマさんは水魔法で難なく防御したが、怒った姉さんが反撃。学校内が一時騒然としたらしい。さすがエマさん。
「もうちょっとでアイツを懲らしめられたのに。次は絶対に許さないんだから」
騒ぎを聞いて駆け付けた第一王子と教師陣に止められた事が姉さんは相当心残りだったみたい。学校主宰のパーティーにも参加せず帰って来てしまったようだ。向こうが仕掛けて来たとはいえ、すぐに喧嘩を買ってしまうのも如何な物か。
怒りを発散する為に大空を飛び回っている姉さんに変わって、シビルさんが声を掛けてきた。
「エステル様が随分頑張ってるから、私はそろそろ米を取りに行ってくる。もし何かエステル様でも対処出来ないような困ったことがあれば、本当は嫌だけど、マチューに助けてもらって。この手紙を渡せば理解してくれるはず」
村を出て別の大陸へ渡ると宣言したシビルさんから受け取った手紙は、蝋で厳重に封じられていた。
「何も無かったらその手紙は返して。エルフ族以外が中身を見ても何も解らないと思うけど、念のために封させてもらったから、覗き見しないで」
「エステルさんには見せてもいいのでは?」
「同じことは全部教えてある」
「分かりました。出来るだけこのままお返し出来るよう努めます。ところで、どうやって海を渡る予定なんですか?」
「東方伯が持ってる大型船で行く。前に海を渡った時は2つくらい向こうにある別の国から船に乗ったけど、男爵の伝手で東方伯の船に乗せてもらえることになったから」
「へぇ、海を渡るほどの大きな貿易をしてるなんて知らなかった。それなら東方伯が米を輸入して来てるんじゃない?」
「最近出来た船らしくて次の出航が2回目らしい。米は向こうの大陸でも沿岸部では手に入らない。東方伯は沿岸部の国との貿易で手いっぱい。沿岸部との交易でも十分利益が出るし、国の使節団の役割も担っているらしいからあまり自由に動けない。だから私達は向こうの大陸に着いたら別行動をして、内陸で米を細々と育てている村まで行ってくる」
「分かりました。もしあれば、醤油や味噌と言った調味料、珍しい作物などもお願いします」
「うん。報酬は期待している」
はい、大陸の素材を使った美味しい料理を提供します。くれぐれも気を付けて行って来て下さい。
夕食はシビルさん達3人の壮行会をするために大量の料理と酒が消費され、父さんが苦悶の表情をしていた。
でも美味しい料理を食べて姉さんの機嫌も治ったんだから、まあいいじゃないか。




