第9話 俺は倉庫の建設を観察する
傭兵団参謀のアヒムさんが引き連れて来た団員達は、シビルさんと対面すると全員で頭を下げて感謝を伝えた。
アヒムさんが薬を持って団員達と合流した時には、もう手足を持ち上げる事が出来ず寝たきりになっている人も居たとか。そんな人も薬を使用した翌日に手足を少し動かす事が出来るようになり、今では何とか一人で立ち上がれるようになるまで回復したそうだ。
なにそれ。手足が動かなくなるなんて重症じゃないか。
「大丈夫。他人に感染するような物じゃないから」
シビルさんがそう言うならと無理矢理納得させるが、出来れば病名等を詳しく教えてもらいたい。
俺の疑問には深く答えず、エステルさんを呼び寄せたシビルさんは症状が回復した人を診察している。エステルさんに病状の説明しているのは、シビルさんが居なくなった後の事を考えて、だろうか。興味は有ったが流石に盗み聞きをするのはどうかと思い、俺は立ち去った。
その日の夜、温室の完成、貯水池の完成、団員の集結の3つの吉事を祝って宴会となった。ドーラさんは態々王都の酒屋まで出向き、赤ワインと白ワインを1樽ずつ購入して帰って来た。もちろん父さんのお金で。どんどん蓄えが無くなっていく恐怖を振り払うように、父さんはお酒を呑みまくっていた。明日の仕事に差し支えないようお願いします。
翌朝、飲み過ぎてヘロヘロになっている大人達を無視してラジオ体操を行い、ジークさんと剣術稽古を行った。見学していた団長と副団長に筋が良いと褒められたのは嬉しかったが、その後バスコさんにボコボコにされて自信を失いかけている。
俺の時とは違い明らかに手加減しているバスコさんがマリーと対戦しているのを見学していると、シビルさんが両手の籠に何かをいっぱい乗せて近づいて来た。
「山に椎茸がいっぱい生ってた。焼いて食べよう」
どうやら東の山に入って食料を探していたらしい。そういえば俺もまだ入ってなかったな。今度見に行かなきゃ。
「椎茸は天ぷらも美味しいですよ。キノコとか山菜とか食べられる物は他にも有りましたか?」
「ゼンマイや土筆があったけど、食べられるようにするのが大変だから取って来なかった。キノコも色々あった。でも毒キノコばかりだったから、初心者は山でキノコを採らない方が良い。そんな事よりも早く天ぷらを」
シビルさんの毒キノコと言う言葉に傭兵団の団員が数人顔色を悪くする。毒キノコを食べた経験があるんだろうか。
天ぷらを作る用意はしていなかったから今すぐには無理だと伝えると、じゃあ王都に持って行くと言って飛び出しそうになったのを慌てて引き止めた。今シビルさんに居なくなられると困る。温室内に薬草を植えてもらわないと。
「まだ土が悪いから今植えても育たない。昨日肥料を混ぜたばかりだから2日は植えない。だから大丈夫」
そう言い残して、シビルさんは王都の男爵邸に向けて飛び立って行った。興味を示した人達はシビルさんについて行ってしまった。食事に飽きている人が増えている。
今にも飛び立とうとする姉さんに、竹を植える場所を決めたいから昼前にはシビルさんを連れて戻って来てとお願いした。
俺も食べたかったな。椎茸の栽培って出来るかな。王都ではマッシュルームみたいな傘の小さいキノコが出回ってたけど、椎茸は見た事無いな。シビルさんが帰って来たら栽培出来るか相談しよう。
あまりおいしくない保存食で作った朝食を食べた後は今日も村作りを進めていく。川に向かって水路を掘り進める班と、道を整備し区画を作って上下水道を設置する班、水道が要らない倉庫を作る班の3つに分かれた。シビルさんが居ないから栽培班は無しだ。
今日の俺は倉庫班の見学だ。倉庫は何棟か作る予定だが、その1つをアイテムボックスの拠点にしてもらう事になっている。どうやって作るのか楽しみだ。
上水路に小舟が接岸できる船着場を作り、その近くに倉庫を建設する。市場予定地もすぐそこだ。温室との接続も考慮して、効率的な村作りが行われていく。
「先ずは地面を掘り起こし、地下にドワーフ言語で魔法陣を書いて行く。これが一番大事な所で時間が掛かるところじゃ」
ソゾンさんが魔法で土を動かし、地面より2メートルほど下へ掘り進める。倉庫の面積分、長方形に地面が凹んだ形になったが、地面にどうやって魔法陣を書くんだろう。
「掘った地面に金属魔法で文字を書いて行く。30センチくらいの柱を建てて文字を書くんじゃ。文字の隙間は土で埋めていく。完成したら土色の画板に金属色の文字が描かれている状況になる。それを一度薄目の金属版で蓋をして、その上に別の魔法陣を設置する。合計3枚の魔法陣を書いた後、その上に土台を置いて固め、倉庫を建てるんじゃ」
それは手間だな。
「空間の広さは魔法陣の広さ、高さは魔法陣の内容で決まる。もし建物の1階と2階をアイテムボックスにしたいなら、1階と2階の間にも魔法陣を用意しないとダメじゃ。1つの魔法陣で済まそうと横着したら面倒な事になるぞ」
アイテムボックスに入れた品が、1階と2階を仕切る床に挟まる事が有るらしい。何事も横着してはいけないのだ。
慎重に金属魔法で文字を書いて行く。作れ慣れているはずのソゾンさんでもかなりゆっくりとした行動だ。書いている内容は分かる。無駄な所もあるように思うが口出しせずに眺めていた。
「あそこの角の言語、必要無いですよね。何か理由があるんでしょうか」
マリーも気になったようだ。俺の魔導具作りを手伝っていた結果、マリーもある程度言語を理解できるようになっていた。
「うん、俺も必要無いと思う。とりあえず今回はソゾンさんのやり方を観よう。何も知らないのに手を加えるのは良くないからね」
アイテムボックスはいずれ自分でも作ってみたい。俺はソゾンさんの一挙手一投足を見逃すまいと意気込んだ。




