第13話 俺は神の気持ちを察する
背後を振り向くと真っ白なローブを身に纏った男性が立っていた。ここに居るってことは男神か。
「もしかしてシュバルト様ですか?」
「そうですよ、よく分かりましたね」
この世界に神は二柱しか居ないみたいだからね。マルテに聞いておいてよかった。
「マギー様への挨拶が終わったら、そちらの教会へも伺う予定でしたので名前は調べておきました。俺はゲオルグと言います。前世の名前は桃馬です。ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありません」
謝罪して礼をする。この世界に来た時に挨拶出来ていれば良かったんだけど、存在を知らなかったからね。
「いえいえ、私も転生者が来るなんて知らされていませんでしたから、お互い様ですね。これからよろしくお願いします、桃馬さん」
神さまには前世の名前で呼ばれる。何かルールでもあるのかな。
それにしてもシュバルト様、今チクっと毒づいたよね。知らされていなかったとかなんとか。マギー様と仲が悪いのかな。神の争いに巻き込まれるとかゴメンなんだけど。
「こちらこそよろしくお願いします。ご挨拶も出来ましたし、今日はこれで失礼しますね」
分からないから立ち去ろう。君子危うきに近寄らずってね。
「まあそう急がずに。ちょっとこちらの話を聞いていただきたいのですが」
顔見せだけじゃなくて用があるのか。どうしようかな。
「母をあまり待たせるわけにはいかないのですが」
「はい、すぐに終わらせますね。私も桃馬さんに力を与えようかと思いまして。手短に説明しますのでどれが良いか選んでください」
強引に話を進めて来た。物腰が柔らかいから穏やかそうに見えるけど、内面はそうじゃないな。あまり関わりたくないぞ。
「いえ、マギー様にかけて頂いた魔法に影響すると困りますので、これだけで充分です」
「では桃馬さんのナイフに特殊な力を付与するのはどうでしょう。これならマギーの魔法に干渉しませんよ」
やっぱり影響するのか。なんでそんなに力を与えたいんだ。
「あのナイフは姉が私の為に作ってくれた大事なナイフです。他の方の力が付与すると姉のナイフでは無くなってしまうので、それは困ります」
「そうですか、ではどうしましょうか」
断られると思っていなかったのか、シュバルト様は次の手を考え出した。本当になんなんだ。
「桃馬さんのことを内緒にしてたのを怒っているんですよ。剣の神では桃馬さんの願いは叶えられませんし、大ごとにしない為に黙っていたんですが、それが良くなかったみたいで」
アマちゃんがこっそり近寄って来て言い訳している。自分の世界の事はなんでも把握しておきたい神なのかな。良く言うと仕事熱心。アマちゃんも見習ったら?
「もう俺の存在を知ったんだからいいじゃないですか。無理に力を与える必要はないでしょ」
「多分プライド的な何かだと思うんですけど」
プライドねぇ。言い換えるとワガママだな。
「彼は剣と商売と死の神と聞きました。今は剣に余り興味がないんですけど、剣以外のことも出来るんですか?」
「それはこの世界の人が勝手に決めた役割だ。基本的には私が魔法、シュバルトが剣を司る。そこから想像した役割を付け加えたんだな。剣と魔法以外のことは、2人とも同程度に出来るぞ。シュバルトの気がすむ様に何か貰ってくれないか?」
今度はマギー様が教えてくれた。そうか、じゃあ願いを聞いてもらおうかな。
「シュバルト様、俺の願いを1つ聞いていただけませんか?」
「はい、なんでしょうか」
考えるのをやめたシュバルト様、ちょっと嬉しそうだ。機嫌が悪かったのは、単純に頼られたかっただけなのかもしれない。承認要求って言うのかな、気持ちは分かるけどこっちに影響を及ぼさないで欲しい。
「マギー様の魔法によって俺は何不自由なく生活できていますが、この世界の他の子供達はそうではありません。俺に力を与える分を、不幸な子供達を助けていただく為に使用することは出来ませんか?」
「立派な申し出ですが、この世界で私は死の神と恐れられています。誰も私に助けを求めませんよ」
なるほど。そういうところでも不満があるのか。
「地球の死の神は、只々命を刈り取るだけではありません。魂を管理し、輪廻転生を司る大事な存在です。死を覆すことだって出来るんですよ。そうですよね?」
アマちゃんに話を振って応援を求める。気づけよ、アマちゃん。元々はあんたの所為なんだからな。
「そうですよ、死を司る神は大切な存在です。そんなことでくよくよしてないで、ハデスやネルガルを見習ってください」
よかった、アマちゃんが味方についてくれた。意外とこういう嗅覚は鋭いのかもしれない。それにしてもネルガルって死神なの?重工の方しか知らなかった。
「シュバルト様の剣で、疫病を払い除けていただけると助かります。優秀な遺伝子を持つ子だけじゃなくて、この世界の全ての子供達を守ってください」
「分かりました。例え頼られなくとも、人々に手を差し伸べるようにしましょう」
「ありがとうございます」
渋々ながらも納得してくれたかな。今度シュバルト様の教会に行ってフォローしておこう。
「さあ、話が終わったらそろそろ帰すよ」
マギー様、あなたと並ぶ神のことですよね?そっちで対処していればよかったじゃないですか。
「桃馬さん、ジャム楽しみにしています」
今回はアマちゃんに援護してもらったからね、美味しいやつを持ってこよう。
「では皆さん、今後もよろしくお願いします」
俺は一礼する。
顔を上げたら、大きな像が目の前にあった。神の世界からようやく帰ってきたな。長いことかかったけど母さん心配してないかな。
祭壇を降りて母さんの元に戻る。案内してくれた女性と長話をしていたようで、特に心配してなかった。放っておかれるシュバルト様の気持ちが、少しわかった気がする。




