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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
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第8話 俺は父さんの仕事ぶりを見守る

 村建設予定地で一泊した翌朝、俺がランニングをしている間に温室の建設場所が確定した。東にある山の峰が少し窪んでいる為に、この辺りで一番早く日が射す一等地だ。


 朝食の後、2班に分かれて作業を開始した。温室班と貯水池班だ。


 温室班はソゾンさんをリーダーとし、シビルさんの意見を取り入れながら、姉さんがその場でガラスを作って温室を建てる計画。ソゾンさんが持って来たアイテムボックスからガラスの素材を取り出して大きなガラスをどんどん作っていく。漸く自分の出番が来たと姉さんはとても張り切っていた。温室を4棟建てて魔導具を設置し終えた後は、園芸班と倉庫建設班に分かれる予定だ。


 貯水池は温室より北側に作る事になった。温室の西側に池へ向かう上水路、東側に川へ向かう下水路を作り、温室へのアクセスを制限する計画だ。飛行魔法で上から覗いたら丸見えなんだけど、なるべくシビルさんの薬草栽培法が外に漏れるのを防ぎたい。水路と塀で僅かながらの抵抗だ。

 俺は父さんにくっ付いて貯水池作りに参加している。遠目から見学するだけだけどね。爺さんが連れて来た建設部隊は父さんの補助に回っている。


 父さんが土魔法でごっそりと地面を掘り起こし、土砂を脇に移動させる。この土は後程土倉や土塀に使われる予定。粘土質っぽくないけど壁に利用して大丈夫なのかと聞いたら、土魔法で固めたら問題無いと言われた。魔法って理不尽だよな。

 縦にどんどん地面を掘り進める父さんに1つだけ提案をした。


「池の縁は階段状にしてほしい。貯水量は落ちるけど、万が一子供が池に落ちた時にも自力で上がって来れるように」


 俺の案は受け入れられて、池の縁から底まで階段状に成形された。水が入ってない貯水池は円形の大きな劇場みたいだ。ガラス作りを終えて暇になった姉さんが飛んできて、貯水池の中心で遊んでいる。


「ねえねえ、ここに台を建ててもいい?」


 急に何かを思いついた姉さんが父さんに了解を取り、掘り起こした土を使って円筒状の台を作った。大人が5人くらいゆったりと座れるほどの広さで、円筒状の細長い台。貯水されても水面より上に来る高さだ。


「ここに銅像を置いても良いし、植物を置いても良いし、このまま何も置かず演劇しても良いし、ここで何でも出来るね」


 姉さんが文化的な考えを示したことに驚きを感じる。演劇するには狭いと思うけど、一人芝居や魔法の演技くらいなら問題ないか。今も姉さんが台の上で四神と麒麟を創って休憩している皆に見せている。水位が低ければ池の縁に座れるし、娯楽を提供できるのは悪くないなと思案した。




 貯水池の底や階段を水漏れし辛いように魔法でしっかりと固めて、池の4カ所に水門を作った所で今日の作業は終了した。一日で大きな池と温室が4棟建設された。魔法は便利だが怖くもある。父さんや姉さんが本気を出せば地殻変動を起こす事も可能なんだから。


 そんな魔法への不安を募らせていると、西から馬車がやって来ると周囲を警戒していた爺さんの護衛部隊が警告を放った。まだこちらから視認は出来ないが、上空に浮かぶと確かに確認出来ますとマリーが教えてくれた。

 一頭立ての馬車が合計4台。武装した数人が馬に乗り、馬車を囲んで移動している。まっすぐにこの地点へ進んできているようだ。ここを襲撃する賊かもしれないと皆に緊張が走る。


「ちょっと見てくる」


 え、ちょっとって。マリーと一緒に上から観察していた姉さんが飛んで行った。面白そうだと思ったのかドーラさんが後を追いかける。ドーラさんがついているなら大丈夫だと思うけど、今回はアンナさんがついて来てないんだから勝手な行動は慎んでほしい。


「危なそうなら真上に火球を発射して連絡する手はずだから、今は戦闘の準備をしておくぞ」


 ドーラさんとそう言う約束になっているとバスコさんに教えてもらった。建設部隊が温室を護るように移動し、護衛部隊が温室や池から離れて布陣する。護衛部隊にはバスコさん、ジークさん、傭兵団の団長と副団長も加わっている。




 何時まで経っても火球は打ち上げられない。何度も上空まで行って戦況を確認しているマリーが言うには、姉さんが相手の周囲を飛び回りながらどんどんこちらに近づいて来ていて、もうすぐ護衛部隊と接触するそうだ。なんだなんだ、もしかして賊じゃ無いのか?


「アリー様が戻ってきますね。なんか手を振って笑ってますけど」


 賊じゃ無さそうだな。近隣の村の農民か商人か?

 近くへ着陸した姉さんがどういう事か教えてくれた。


「フリーエン傭兵団の人達だった。私が威嚇で魔法を放とうとしたら、アヒムさんが慌てて馬車から出て来たの。シビルさんに薬のお礼を言うために急いで来たんだって」


 何が面白いのか分からないがケタケタ笑っている。


「アヒムさんの慌てた顔がね。凄く面白くて」


 説明しながらも笑いを堪えられず、度々話が中断してしまう。いきなり攻撃されるかと思ってよっぽど慌てたんだろうね。途中で馬車を止めてアヒムさんだけ来てくれればトラブルにならなかったんだから、向こうも悪いとは思うけどね。


「人が増えて、馬も増えて。食料を早めに運び込まないと大変なことになるな」


 父さんがボソッと発した悩みは、姉さんの笑い声にかき消されていった。

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