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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第4章
202/907

第1話 俺は新たな目標を心に秘める

「う~ん、困った。困ったぞ、どうしよう」


 父さんがぶつぶつと煩い。聞いて欲しそうに視界の中でうろうろしているが、聞くと面倒な事に巻き込まれそうだから見ないことにしている。


 お城での慰労会が行われた翌日、そこで決定された内容が国中に公表された。それを受けて父さんはさっそく任された領地へと足を向ける。姉さんもついて行きたがっていたが、先ずは父さんが仕事をする環境を整えることが先決と母さんに諭され諦める形になった。

 すぐに呼んでね、と姉さんに見送られた父さんの方が泣く泣く出発したのには、笑いを堪えきれなかった。姉さんと旅行できると喜んでいたからな。


 で、その領地から数日ぶりに帰って来た父さんが今の状態だ。行く前も帰ってからも泣きそうになっている。仕事の事で何か愚痴りたいんだろうが、俺に言われても困る。他の家族が出払っているのもタイミングが悪い。俺は聞こえないふりをしてマリーと一緒に剣を振り続けた。




 夕方になり母さんと姉さんが帰宅したところで家族会議が開かれることになった。参加拒否しようとしたが、姉さんに捕まってしまった。家族4人他使用人で応接室に集まり、父さんの言葉に耳を傾けた。


「俺はアリーと別れて王都を出たその日、馬車で一日かけて旧公爵領都であるザフトに到着した。ザフトでの数日、俺は明るい未来に思いを馳せ、これから悲劇が起こるなんて微塵も感じてなかったんだ」


 感情をたっぷり込め、演劇チックに語り出したんだが。ドーラさんに俺は父と似ていると言われたことが有るけど、俺もこんな感じなの?


「王都を出る前、任地内に点在する村や町の首長をザフト近くの町へ集めるために、使者を送っていた。ザフト以外には通信用の魔導具が無いから、直接人を送る必要があった。首長が集まる日まではザフトに留まり、情報収集をして過ごした。ザフトの住民は混乱した様子も無く落ち着いていた。治安が悪化した様子も無く、市場も通常通り開かれ、皆普段通りの生活をしていた」


「首長が集まる日、朝早くザフトを出てお昼前には町に着いた。領内には5つの町村があり、どこも農業を中心に生計を立てている。公爵領は元々広大な農地を持ち、王都への食糧供給を担っていた。王都民に食べられているパンの半分以上は、公爵領で作られた小麦が原材料だと言われている」


「各町村の首長5人とその補佐役に集まってもらい、これからこの地域を管理する者として挨拶をした。そこで衝撃の言葉を聞かされることになったんだ」


「領主を変えるのはそちらの勝手だが、我々は新興の男爵家などに従わない。我々は以前から懇意にしていた第二王子の庇護を望む。一部の住民は既に第二王子が担当する領地へ移動してしまった。我々も働き手が少なくなって苦労しているが、庇護を求めるからには第二王子の元へ税金を送る。男爵家に納める税は何一つ無い」


「それが首長5人の総意だと言われた。何とか説得しようと試みたが誰も首を縦に振らない。今開拓されずに放置されている土地の利用を承諾させるのが精一杯だった。領民は誰も手伝いませんよと言う言葉を背に、町から帰って来たんだ」


 う~ん。第二王子派の人間が何か手を回している可能性があるのかな。元々その土地を治めていた公爵が第二王子派だから、男爵家よりは圧倒的に影響力があるだろう。


「国王に直訴したらどう?」


 母さんの提案を聞いて、父さんが首を横に振る。


「ダメだった。領民の信頼を得るのも大事な仕事だからと。何処に税金を納めるかは首長に任せるそうだ。中立を保ちたいならザフトにいる代官へ直接支払うことも可能だと。このままだと国に支払うべき税は男爵家が肩代わりしなければならなくなる。今まで貯めた蓄えが無くなったら、我が家は赤字になって3年も持たずに破産するぞ」


 父さんの話の中で疑問に思った点を口にする。


「ザフトの代官や第二王子を経由して税金が支払われるのなら、それでいいじゃない」


「代官を経由した税金はそのまま国の収入に、第二王子を経由した物は王子の懐に入るだろうな。貴族は領地を任されたからには領民が毎年国へ支払うべき税金を徴収し、国へ治める義務がある。住民からの税収が無くても、男爵家は国へ税金を納める必要があるんだ」


 王様はこういう事も想定して、納める税金を減らしてくれたんだろうか。


「でも、集める予定だった税金の3割でいいんでしょ」


「3割は少ないと思うかもしれないが、元公爵領の耕地面積はかなり広いからな。グリューンでの税収で補填しても赤字になるんだ。その税収はグリューン領内の治水、道路整備、治安維持などに多くを使っているから、補填に回したらそれらの事業が滞ってしまう。因みにグリューンでは税収の5割を国に納めている。どこの貴族も5割くらいだろう。今回のように褒美や何かの罰として割合が変わる時もある」


「税率ってどうやって決めてるの?」


「農業の場合は耕地面積と作付作物の種類に合わせて税率が計算される。商工業は各ギルドが前年売り上げから翌年の税を計算する。農地と違って売り上げはある程度誤魔化せるが、ばれたら重罰が課されるからな。後は関税とか酒税とか、直接国の収入になる税金もあるぞ」


 農地が多い元公爵領は来年も再来年も大きな税金を掛けられてしまうのか。売り上げや収穫高に関与されない税金って辛いな。せめて休耕地には税金が掛からないようにしてほしい。


「これってもしかして、3年間で任地を繁栄させられなくて王子達より評価が下だったら、罰としてグリューンの方に重い税率を掛けられたりするのかな」


「そうなんだよ。だから困ってるんだ。公爵領を放置する訳にもいかないから」


 他の人の意見も聞きたいなと、少し口を閉ざす。しかし使用人達はもちろん、母さんも姉さんも何も言わない。何か意見は無いかと見渡すが、皆俺を見つめて微笑むばかり。じゃあ俺の考えで話を進めるけど。


「住民が国に支払うべき税はその地域の首長が集めるものなの?」


「基本的には首長が集めて領主に支払う形だな。国直属の代官じゃなくて首長が集めているのは、同時に住民から首長も税を集めているからだ。村の運営費や警備費なんかに使われる税だな」


「こっちの息のかかった首長に挿げ替えるって言う選択は?」


「無いな。無理矢理行動すると住民から反発されるだけだ。住民に嫌われて評価が王子達を上回る事は無いだろう」


 なるほど、状況はよく分かった。このまま何もしないと男爵家が潰れるのは間違いない。王家の争いに巻き込まれ、家族や使用人が路頭に迷うなんて許されない。俺は父さんが用意していた地図をじっと見て、一つ提案する。


「ここ。ここに新しい村を作って収入を得ると共に、男爵家に味方する利点を示して近隣住民を取り込もう」


 俺の新しい目標。3年間領地経営を行い、皆の生活を護るんだ。

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