第96話 俺は少しだけ胸が躍る
ローゼマリーさんが南方伯の元に帰ることなく姉さんと楽しそうにお喋りをし、山盛りの唐揚げを消化していった頃、王様の挨拶が始まった。
「今年も優秀な子供達が現れた事を嬉しく思う。これから上位3人の表彰を行うが、表彰されない子供達も今後更なる成長を目指してほしい」
王様の言葉に続き、宰相によって入賞者の名が呼ばれる。
「今年の魔力検査最優秀者は、プフラオメ王子」
名を呼ばれた王子が元気良く返事をして王様の元へ近づいて行く。
「わっ」
数歩歩いた王子の体がふわっと上昇し、参加者の頭上を飛び越える。
「プフラオメ王子おめでとう。嫌がらせをする子に負けないでね」
姉さんの声が会場内に響く。王子が飛び立った地点から、第二王子が立ち去る姿が見えた。彼が何かしようとしたんだろうか。そうだとしてもよく気付いたなと姉さんを褒めたい。
「あの子、私達の慰労会の時にエマを虐めていた子の一人だよ。何かを企んでいる顔をしてたから見張ってたんだ」
確か姉さんが1位になった年の3位が第二王子だったな。2位がエマさんで、その時もエマさんにちょっかいを出していたのか。もう第二王子と仲良くなることはなさそうだな。
「あ~。会場内での浮遊魔法及び飛行魔法は禁止されています。以後気を付けるように」
王子に害をなそうとした人では無くそれを助けようとした姉さんを注意するなんて、宰相は第二王子派か?
その姉さんは王子の姿が良く見えないと飛行魔法で天井近くをぷかぷか浮かんでいる。降りてくる気配は無いし、両親も何も言わない。理不尽とはいえ宰相の言葉を無視して大丈夫なんだろうか。
場内が静けさを取り戻すまで待った後に、王様が息子に向けての言葉を伝えた。
「プフラオメよ、おめでとう。この場で息子を祝福出来る事を嬉しく思っている。これからもこの結果に満足せず、成長し続ける事を願う。お前の手は、あそこで浮かんでいる少女にはまだ届いていないんだから」
姉さんを意識した言葉で締めくくる。さすがですとローゼマリーさんが独りごちた。本当に姉さんを尊敬しているようだ。俺も姉さんを尊敬してはいるけど、一緒に生活していると結構大変なんだよ?
これ以上何かトラブルを起こさないために、道を開けるよう宰相が貴族達に指示を出す。俺達の席から王様達の所まで、一本の道が出来た。その道をマリーとローゼマリーさんが順番に通過する。
「その歳で優秀な金属魔導師に育ったことは素晴らしい。試験で見せた魔法はドワーフ族にも負けない出来だったと聞いている。今後も独自の魔法を開発し、皆を驚かせてほしい」
「我が息子に次ぐ魔力量ではあったが、流行に乗らず技能試験でもう少し個性を見せる事が出来たなら、順位は入れ替わっていただろう。今後の成長は君次第だ。周りに流されず、個性を磨いて行ってほしい」
マリーとローゼマリーさんへの言葉は、個性という部分が強調されていた。ローゼマリーさんは姉さんの朱雀を模した物だったからな。技能試験は王様の個人的な考えが大きく影響しているんだろう。来年からは朱雀の姿が見られなくなりそうだ。
「さて、今年の表彰はこれで終わりだが、皆発表しなければならないことがある。元シュバイン公爵領の扱いについてだ」
表彰された3人が家族の元へ戻った所で王様が話を切り出す。この御祝いの席で切り出さないといけない内容なんだろうか。
「我が息子の誘拐を計画した罪で公爵領を没収した。この領地を4等分し、我が息子達3人の統治能力を競わせようと思う。市中で次の王位は第三王子かと言う噂が立っているのは確認しているが、私は後継者を魔法能力だけで決めるつもりは無い。そこで大臣達と相談した結果、公爵領を使って統治能力を調べようと言う話になった。期間はとりあえず3年だ」
ドーラさんが言っていた内容か。まさか最後の1つは男爵家にって話も本当なの?
「息子達には年齢差があり不公平に感じる者も居ようがそこは飲み込んでもらおう。貴族達は誰かに肩入れをしても良いし、関わらないようにしても良い。そして3年後に税収、治安、民忠、人口などを総合的に判断して評価を決める予定だ。3年後の公爵領は、まだ競争を続けるか、誰か1人に任せるか、他の貴族を移封させるか、そういう事はまだ決めていない」
貴族達がざわめきだす。自分が支持して王位継承を優位にすることで、今後王子に影響力を持たせることが出来る。新しく派閥に属した貴族もこれからの働き次第で立場が変わるかも知れないという事だ。
「そして4つに分けたうちの残り1つは、プフラオメ救出の報酬としてフリーグ男爵家に貸し与える。3年間税収の7割を手元に納めて良い。ただし、男爵家も3年後には息子達と比較させる。息子達以上に領地を発展させることが出来たなら、更なる報酬を考えよう。もし今以上に衰退してしまうようなら、解っているな?」
「はっ」「おもしろそう」
頭を下げる父さんと同調し、姉さんが頭上で声を上げる。競争という点が姉さんの琴線に触れたんだろうか。面白そうと言う意見には賛成するが、失敗したらきっと罰が下るんだよ、解ってる?
王様の話が終わると、事前に用意されていた地図を使って誰が何処を治めるかを決める事になった。
随分昔に王家から離れた貴族がシュバイン公爵家で、王都のすぐ北に大きな領地を保有していたのがこの地図でよく分かる。その地図上では、王都から北へ行く街道上にある元領都ザフト周囲は直轄領とし、その街を中心に人口や現在の繁栄具合が均等になるよう4分割されていた。
年功序列で決めて行き、第一王子はザフトの西側を選択。北側を第二王子。第二王子は姿を現さず代理の者が指示していた。南側で王都と接続している土地は第三王子。そして東側を我らがフリーグ男爵家が借り受ける事になった。各々迷わず選択していた所を見ると王子達には事前に話が行っていたんだろう。
「よし、みんながんばろー」
という姉さんの言葉でこの慰労会はお開きとなった。皆って言うけど、第二王子は姉さんが嫌ってる人だけどね。
新しい未来に興奮している姉さんに釣られてか、俺も少しだけ胸を躍らせていた。




