第94話 俺は悔しさを押し殺す
王子と妹ちゃんと別れて魔力検査からの帰り道、鍛冶屋に寄ってソゾンさんに謝罪した。折角魔導具作りを手伝ってもらったのに、批評される以前に魔導具のお披露目すら出来なかったんだから。
「そんなに落ち込むことは無かろう。次は魔導具だとばれないような工夫をしなくてはならんな。もっと小さくするのが一番かのう」
頭を下げてないで前を見ろと励まされる。ありがとうございます、今後も御指導よろしくお願いします。
ニコルさんとエマさんにも謝らないと。折角早起きして料理を準備してくれたのに、大した結果も出せなかったからな。
家に帰ると母さんと姉さんを含め家中の皆が優しく出迎えてくれた。午前中に帰って来る予定が遅くなっちゃった。心配かけて申し訳ない。父さんに対する非難の声も聞こえたけど、色々頑張ってくれていたみたいだからと丁寧に説得して回った。父さんが悪いわけじゃないから。
批判の急先鋒はドーラさんだった。また随分と酔っぱらってるみたいだけど、いつまでここでお酒を飲んでるんだろう。
ドーラさんにもっと悔しがれよと言われた。悔しい思いが無いわけじゃない。正直悔しい。でもあの場面で無理矢理魔導具を使うことは出来なかった。王子達の喧嘩を収める事を理由にその場を逃げ出したと言ってもいいい。
「悔しいんだったらもっと態度で示せ。あんまり平気な顔をしていると誰も手を差し伸べてくれなくなるぞ」
その後も酒を飲みながら、チクチク攻撃された。なんとなくドーラさんなりの励ましかなと思って、眠たくなるまでその場を離れなかった。
翌朝、いつも通りのラジオ体操とランニングを行った。もう昨日の事への悔いは無く、これからどうしようかと考えながら体を動かしていた。
ここしばらく魔力検査の為に生活していたから、何も考えてない。次に人生にとって大きなイベントは、入学かな。でも入学試験とか無いみたいだから、入学に向けて何か準備する必要もない。
う~ん、近未来への小さな目標が無い。いつか自分の力で魔法を使いたいと言う大きな目標は有るが、それに向かってどう進んだらいいとか分からないしな。それを目指しながら、直近の目標を定めて行動したい。学校の入試や定期試験、剣道の大会が有った前世は、何も考えずに流れに乗るだけでよかったから、今思えば楽だったな。
やりたいこと。
クロエさんと一緒に秘技を習うか、海を越えて別の大陸に渡る準備をするとか、暫くヴルツェルへ行ってクロエさんに農業を習うのも良いな。ダメだ、自分の欲望に忠実な事しか思い浮かばない。
俺はこれからどうなるんだろう。何も考えなければ父さんの後をついで男爵領を運営することになるんだよな。父さんがヘマしてお家取り潰しになるってこともあり得るけど。
「ゲオルグ様、今日はどこまで走りますか」
俺の後ろを走っていたマリーがいつの間にか並走していた。マリーと並走しながら周囲の景色がいつもと違うことに気が付く。どうやら考え事をしながら走っていたら、いつもの折り返し地点をとっくに過ぎてしまったらしい。
「ごめんごめん。今後何をしようかと考えてたら走り過ぎちゃった。マリーは魔力検査が終わって、これから何かやりたいことある?」
「私は父に剣術をしっかり習いたいですね。メタルジークを完成させたいので。ゲオルグ様も気が向いたら一緒にやりましょう」
そういえばお城でもそう言ってたな。分かりやすい目標があって羨ましい。
「俺も何かやりたいことを見つけないとな」
「競艇に向けて新しい船外機を作りたいって言ってましたよね。それはどうなったんですか?」
そういえばそんなこともあった。姉さんへの誕生日プレゼント辺りから有耶無耶になってたな。新たな魔導具作りか。うん、それもいいな。船外機に限らず新たな魔導具を作っていこう。フライヤーもトースターも改良してもっと売り出そう。俺の魔導具で、この世界を変えてやろう。
俺が新たな決意をした日の正午頃、今年国内で行われた魔力検査の結果が発表された。
1位、プフラオメ。ストラオス王国第三王子。
2位、マルグリッド。王国軍剣術指南ジークフリード及び“炎獣”マルテの娘。
3位、ローゼマリー。フェルス南方辺境伯の娘。
特に王子の結果は素晴らしく、歴代二位だった第一王子の結果を追い抜き、姉さんの記録に迫るほどの好成績だった。マリーは魔力量では3番手の記録だったが、金属魔法を使い熟した技能試験が評価されたようだ。
この日から王都民は次期王位争いが活発になるぞと噂した。
今まで第一王子が次王の最有力と目されていた。人柄、学力、魔法能力、どれを比べても年子の第二王子を上回っていた。しかし第三王子の検査結果を受け、魔法能力が第一王子を上回ると皆に知れ渡った。
次王に求める物は人それぞれ違うが、強い国を求める者が多い。皆戦争は嫌だ。攻め込まれたくない。だから強い国を望む。その結果、民衆が最も求める能力は民を護る魔法能力となった。そういう民の願いが後押しをして、第三王子が次王の最有力に躍り出た。
結果発表がなされた翌日、鷹揚亭で酒盛りをする大人達が噂していると、エマさんが教えてくれた。
それともう一つ。フリーグ男爵の長男ゲオルグは、魔法を使えない無能者である。その噂も広がっていると苦い顔をして教えてくれた。
ドーラさんに言われたようにちょっとだけ悔しさを表に出し、エマさんの優しさに甘えさせてもらった。
エマさんに作ってもらったプリンは美味しくて、美味しくて、いつのまにか、視界が滲んでいた。




