第93話 俺は魔導具を観てもらう
第二王子と対峙して語気を荒くするプフラオメ王子を無理矢理引きは剝がし、手を引っ張って訓練場を立ち去った。
第二王子が乱入した事で増えた観客を掻き分けてその場を離れ、暫く歩いて人気が無くなった所で立ち止まる。振り返ると、王子の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
「俺の為に怒ってくれてありがとう。試験は残念だけど仕方ない。それよりも王子に友達と言われて嬉しかったよ、ありがとう」
泣き虫王子に笑顔を作ってお礼を言う。第二王子の為に涙を流すなんて馬鹿馬鹿しいぞ。
「ゲオルグさんは無能じゃないです。あんな強い人達にも恐れず冷静に立ち向かえる人が、無能なわけないです」
そこまで褒められると照れくさい。あの時は皆で助かるために無我夢中だったけど、そういう風に評価されるなら頑張って良かった。でも、魔導具作りも頑張ったんだ。いつか、魔導具でも。
「今は魔法が使えないから仕方ないけど、いつか評価させて見せるよ」
「そうだ、僕が王様になってこの国を変えます。魔力が少ない人でも評価される国に変えてみせます」
「ははは、ありがとう。期待してるよ」
真剣な眼差しで王位を誓う瞳からは、既に涙が消えていた。第一王子とも知らない仲じゃないなから、そこが争うのは心苦しいけど、第二王子には負けないよう頑張ってほしい。
「せっかく色々考えたのに、試験で魔導具を使えないとは知らなかった」
仕舞わずに握りしめていた魔導具を弄ぶ。父さんも知らなかったのかな。ちょっと聞けば分かることだと思うんだけど。
「そうだ、その魔法を見せて下さい。記録には残りませんが、僕がしっかりと覚えておきます。そしていつかゲオルグさんが優秀な人だって皆に伝えます」
そう言うと今度は俺が手を引っ張られて歩き出す。何処へ行くのかと尋ねると、裏庭だと返って来た。人気のない所で魔導具を見せて欲しいと。まあそれもいいだろう。せっかく作った魔導具だ。俺も家族以外の誰かに観て欲しい。
「あ、みつけた。どこ行くの?」
廊下の角を曲がった所で、妹ちゃんが追い付いてきた。そのまま俺と繋がっていない方の王子の手に飛びつく。間に挟まれた王子が2人の仲を取り持とうとする。
「ゲオルグさんに紹介しますね。妹のアプリコーゼです。ほら、ゲオルグさんにご挨拶して。僕の命の恩人だって話したよね」
「こんにちは、アプリコーゼちゃん」
「こ、こんにち、わ」
さっきまで王子に向けていた笑顔は消えていしまい、強張った表情とたどたどしい言葉遣いで挨拶を返される。
「すみません。人見知りをする子で、両親と僕以外にはこんな感じなんです」
今も王子の陰に隠れてこちらの様子をじっと見ている。眼を合わせようとすると、頭の上のニット帽を引っ張って目元を隠す。俺は握られた王子の手を離し、少し距離を取って妹ちゃんの警戒心を緩めようとした。
「こうなったら暫くは離れないので、一緒に連れて行っていいですか?」
構わないよと承諾し、廊下を進む2人の後をついて行く。俺が離れた事で警戒を解いた妹ちゃんは元気を取り戻し、王子の技能試験を振り返っている。可愛いな、前世の妹を思い出しながら妹ちゃんの歩みに合わせ、ゆっくりと廊下を進んでいく。
暫く歩いたところで、父さんとマリーがやって来た。周辺を探し回ったのか、少し息を切らしている。
父さんは王子に頭を下げる。俺を庇って兄と喧嘩になった事を謝罪している。あまり声を張り上げると、妹ちゃんが怖がるから止めて欲しい。
「残念でした。あの魔導具を観れば、ゲオルグ様を無能だなんて言わせないのに」
ありがとうマリー。でももうそれはいいんだ。いつかは無能という汚名を灌ごうと思うけど、今はもういい。良い友達も出来たからね。それよりも、これから裏庭で魔導具を王子に見せるんだけど、一緒にどう?
マリーと父さんも一緒に裏庭に行く。
その父さんが言うには、魔導具が禁止なのは以前から分かっていたらしい。俺が試験を受けるギリギリまで交渉し、なんとか魔導具の使用を認めてもらえそうになった時、横槍が入って駄目になったそうだ。交渉してくれるのはいいんだけど、禁止だってもっと早く教えて欲しかった。分かっていたら他の手も考えたのに。今は何も思いつかないけど、時間が有ったら何か考えられたかもしれないのに。まあ、そんな文句は言わないけど。魔導具作りに熱中している俺を見て何とか魔導具を使わせたいと考えてくれたんだろうし。
よし、裏庭に着いた。花を植え付けられていたりと綺麗に整備された場所だ。観客は少ないけど、劇場としては悪くない。皆に向き直り、演技の準備を終える。
さあさあお立ち合い。取り出しますは5つの魔導具。これを使って魔法の深淵を御覧に入れましょう。
俺の魔力検査はこうして終わった。
魔導具の使用を拒否された時は確かに憤りを感じていた。でも、新たに出来た優しい友人に魔導具を認められたことで、自分の気持ちに整理を付ける事が出来たんだ。




