第11話 俺は教会に立ち寄る
王都から南に大通りを進んでいくと、2つの大きな建物に到着する。それが教会だ。
マルテから聞いた話では、この国で信じられている神は二柱。転生の時にお世話になった女神マギーと、男神シュバルト。マギーは魔法と豊穣と生を司る神。シュバルトは剣と商売と死の神。シュバルト様、なんか物騒だね。
各街に大なり小なり教会があり、人々はそこで神に祈りを捧げている。農家の人は種植え時期に、冒険者や商人の方は大きな仕事の前に。新年祭や誕生祭の時に教会へ足を運ぶ人も多いみたい。
王都には二柱の神に1つずつ教会がある。大通りに面して向き合って建っている教会は、どちらも立派で豪華な造り。屋敷の屋根に登った時、お城と反対側に見えた大きな建物はこの2つの教会だったんだな。
お城から来て右手がマギー様の教会、左手がシュバルト様の教会。マギー様の教会は人で賑わっている。誕生祭の最中だからね、生を司る神様にお祈りしたい気持ちはよく分かる。俺もその1人だしね。神様の担当なんて知らなかったけど。
まあせっかく来たんだから、後でシュバルト様の方にも行こうか。死の神様とは余り縁があって欲しくないけど、無視する必要もないよね。
王様に会うのが遅かったからもう夕方だ。教会の馬車留めで母さんと共に馬車を降り、紙袋を持ってマギー様の教会に入る。お供えって出来るのかな。お祭りで食べて美味しかった物を買ってきたんだ。渡せるといいけど。
「こんばんは。お祈りですか?」
若い女性に話しかけられた。この教会の関係者かな。
「はい、おうさまにあったかえりに、かみさまにもあいさつしようかと」
「それは良い心がけですね。本教会が初めてでしたら、礼拝堂までご案内致しましょうか?」
「おねがいします」
案内がてら、マギー様のことと教会のことを聞いてみよう。
「ふわああ、おっきいいい」
礼拝堂の扉を開けてまず目に飛び込んで来たのは、大きな女性の立像だった。大人の身長の4倍くらいあるかな?目測だから正確じゃないけど。
像は右手を前に出し、左手はお腹の位置。開いた本を右手に持ち、果物や野菜が乗った籠を左手が抱えている。
その像をぐるっと一周するように高台が設けられ、そこで人々が祈りを捧げている。あそこが祭壇なんだろうか。
「ふふ、大きな像ですよね。あれは女神マギーを表した像です。初めて見た方は皆さん驚かれます」
「まほうでつくったんですか?」
「いいえ、あれは大きな岩から手作業で彫った物だと伝わっています」
「へえ、すごいですね。でもまほうのほうがかんたんでは?」
「これを作った彫刻家は魔法が使えなかったと伝わってます。でもこの像が造られた頃のどんな彫刻家より、もちろん魔法使いの彫刻家よりも、素晴らしい彫刻家だったとも伝わっています。私はこの像が大好きなんです。今にも動き出しそうな気がしませんか?心を込めて造った像に魂が宿っているのを感じます」
お、おう。すごく力説された。この人はいつもこうやって像の素晴らしさを布教してるのかな。
「これをつくったひとは、かみさまにあったことがあるのかな」
この像は、俺の記憶の中のマギー様とかなり似ている。違うのは服装と髪型。俺があった時は魔女っ子スタイルで帽子から少しはみ出るくらいのショートヘア。この像はよく見る魔導師のローブ姿にポニーテール。まとめた髪が背中まで伸びている。あの時の三角帽子の中に、これほどの長さの髪は収まらないだろう。
「さあどうでしょうか。でもこの像が出来て以降に造られた像や描かれた絵はこれを手本にしているといいます。これぞ女神だと説得力のある像ですから、もしかしたら会ったことがあるかもしれませんね。会ったことがあると言われた方が、私は納得します」
俺もそう思う。おそらく転生者だろうな。これほどの技術を持って転生出来るなんて羨ましい。まあ俺はそう言った能力じゃなくて治癒魔法を選択したんだ。隣の芝は青く見えるって言うけど、他人から見たら俺の奴も相当羨ましいだろうな。
「あ、前の方が終わりましたね。ではあちらの、像の全体がよく見える祭壇まで登って礼拝しましょう。特に決まった作法はありません、気持ちが大事ですよ」
案内してくれたお姉さんに御礼を行って祭壇に上がる。母さんはついてこなかった。なんか緊張してきた。ええっと、ええっと。まず、2回礼をして。
パンッ。
静かな礼拝堂に乾いた破裂音が響き渡った。あ、しまった。つい癖で拍手を打ってしまった。ああいいや、ついでにもう一回。
パンッ。
良いのか悪いのか、物凄く良い音がなった。皆さん驚かせてすみません。前世の癖です、許してください。
最後に深く礼をする。
マギー様すみません。ちょっと間違えました。今までありがとうございました。これからもよろしくお願いします
笑い声が聞こえたから礼を止めて顔を上げると、さっきまであった大きな像が無くなっていた。部屋の感じはさっきまでいた礼拝堂と同じ。ただし、さっきまで像があった場所には、笑い転げている人、いや神がいる。
「お久しぶりです、マギー様。そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
俺は再び、神の世界を訪れていた。




