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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第3章 俺は魔力試験に挑む
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第84話 俺は漸く家に帰る

 縛られて声も出せないドーラさんに追い撃ちを掛けようとする母さんを何とか阻止していると、クロエさんから声が掛かった。


「王都から兵士が来て外の戦闘は終了したとバスコさんが伝えに来ました。中に兵を入れていいかと聞かれたのんで、いいですと答えておきました」


 バスコさんが来ていたのに全く気付いてなかった。なんだかクロエさんが嬉しそうにしている。

 対応してくれたクロエさんに皆でお礼を言うついでに、何かあったのかと質問する。


「バスコさんに秘技を教えてもらう約束をしました。これで私もアリー様のお役にたてます」


「今でも十分役に立ってるよ。私も秘技を習いたいから一緒に行く」


 母さんの抱擁から難なく抜け出した姉さんが、今度はクロエさんに抱きつく。戦力にならない事を気にしていたのかもしれないけど、それなら私が護ると言い出す姉さんだからね。農業の知識はあるし、可愛いし、俺から見てもクロエさんは役立たずではない。


 子供達が騒いでいる横で、シビルさんがドーラさんの捕縛を解く。王子を救ったリーダーが縛られたままだというのは格好がつかないからね。


「よし、もう捕縛されるようなヘマはしないぞ。リリー、勝負だ」


 解放されたドーラさんが直ぐに戦闘態勢に移る。かっこ悪いままでよかったな。


「私達は兵士が来る前に帰るわ。今日はドーラの勝ちってことでいいから。子供達を護ってくれてありがとう」


 頭を下げた母さんに肩透かしを食らったドーラさんは、戸惑いながらも矛を収める。傍から見ていると謝った母さんの勝利に見えるけどな。


「じゃあ帰りましょう。皆待ってるわ」


 俺は母さんに、クロエさんは姉さんに抱えられて浮き上がる。


「助けて頂いてありがとうございます。今度美味しいご飯とお酒を奢るので男爵邸まで来てください」


 移動を始める前にドーラさんへお礼を伝える。事件に首を突っ込んだ時はどうなる事かと思ったが、ドーラさん達のお蔭で命拾いをしたのは間違いない。何時でもお礼をしようと思う。


 ドーラさんとシビルさんに手を振りながらどんどん上空へ昇っていく。周囲の竹が少しずつ細くなり、葉っぱが茂った先端に近づく。風を利用して勢いよく撓り、竹がこちらを払い落とそうとしてきたが、アンナさんが問題無く捌いている。更に竹が届かないところまで達したところで周囲の視界が開けた。


「綺麗だね」


 晴天の下、どこまでも大地が広がっているのが見える。山々が聳え、川が道を作り、海の方へ繋がっている。開発の進んだ前世では見た事の無い巨大な自然に、目を奪われていた。


「ここまで上がると王都の場所が直ぐに分かるわね」


 母さんの言葉に納得する。

 所々に街並みも存在するが、人工物の中では王都のお城と教会が一際目立っていた。

 姉さんが花火と一緒に上空まで昇って行ったのは王都の位置を確認する為だったんだな。


「しゅっぱ~つ」


 姉さんが張り切って先行する。アンナさんがすかさずついて行く。姉さんの行動で事件に関わってしまったことに当人はまったく懲りた様子は無い。しょうがないわねと苦笑する母さんの言葉を聞いた後に高速飛行が始まり、俺は目を開けていられなくなった。




 男爵邸に帰って来ると家中の人々が待っていてくれた。庭に着地した俺はマルテに抱きかかえられる。今日は抵抗せずにすべてを受け入れよう。


「お帰りなさい。怪我はありませんか?」


 マルテから解放された俺にマリーが話しかける。


「うん、大丈夫。マリーも無事でよかった」


「皆が捕まって、馬車に運ばれて、王都の外に出る所まではついて行ったんですが、さすがに一人では王都の外に出られず見失ってしまいました。何も出来ず申し訳ありません」


「いや、マリーが一緒に捕まらなかったから俺達の状況を母さん達に話せたんでしょ。マリーはいい仕事をしたんだよ、ありがとう」


 頭を下げるマリーを起こし、涙を目に溜めているマリーに大丈夫だよと優しく抱擁する。クロエさんにもマリーにも十分助けられているから。


「ゲオルグ様の言う通りです。マリーのお蔭で状況把握が出来ましたし、ヤーナさんに頼んでクッキーを用意して貰うことも出来ました。後方支援も大事な仕事ですよ」


 安心したのか声を上げて泣き始めるマリーにアンナさんが優しく諭す。そうか、あのクッキーは姉さんが保存しておいたものじゃなかったのか。ありがとう、それのお蔭で皆笑顔になった。


「あ~お腹空いた。クッキーいっぱい食べたけど、まだ足りないよ。今度はもっと色々用意してね」


 姉さんの言葉にマリーが首を縦に振る。傷に塩を塗っているだけにも見えるが、姉さんなりにマリーを励ましているんだろう。




 料理長が腕を振るった料理を皆でワイワイ食べていると、食堂の扉がけたたましく開けられた。


「折角近衛師団を率いて迎えに行ったのに、何で先に帰っちゃうんだよ」


 泣きべそをかきながらやって来た父さんの事を俺はすっかり忘れてた。

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