第83話 俺は喧嘩を止めようとする
前話の予約投稿設定を間違えて2話連続投稿になってしまいました。すみません。
俺が母さんから漸く解放されたのは、姉さんが消火し終えて帰って来た時だった。解放された俺の代わりに今度は姉さんが腕の中に納まっている。母さんの怒りが収まって来たからか、姉さんは嫌がる様子は無い。出来ればもう少し早く変わって欲しかったぞ。
他の3人はまだ下で働いている。俺も何かやりたいなとは思うが自力では屋根から降りられないため眺めることしか出来ない。そういえばバスコさんはまだ戦っているんだろうか。
倒した敵を縛り終えて何もやってない者同士のシビルさんと少し会話をして時間を潰そう。
「シビルさん達は母さん達と知り合いだったんですか?」
「そう。ドーラと男爵が学生時代に同級生だったのがキッカケ」
「シビル、余計なことは話さないでね」
会話の内容を耳にした母さんが即座にダメだと警告する。口角は上がっているけど目は笑っていない。どうやら過去を聞くのはタブーらしい。
「ダメだって。両親の昔話は本人達に聞いて」
「なら話を変えます。シビルさんは本気の母さんに勝てますか?」
予想外の質問だったのか暫く考えてシビルさんが口を開いた。
「今は無理。リリーは風が得意、私は草木、相性は悪くない。けど、私の魔法は準備が大事。今はリリーの強力な風に対応できる植物を持って来てないから、負ける」
相性は悪くないんだ。風の刃でスパスパ切断されそうな気もするけど、それに対応する手立てが有るってことかな。草木は火には弱いと思うんだけど、村の外で生えている竹は火魔法を利用して爆発させているんだよな。堅い植物、撓る植物、爆発する植物、色々持ってそうだな。
俺が考えている横で、母様強い、と姉さんがはしゃいでいる。姉さんに褒められて母さんも機嫌良さそうだ。
「父さんと戦ったら?」
「勝てる」
相手を変えた質問にシビルさんは即答した。そうねと納得する母さんの言葉に、そんなことないよと姉さんが反論する。
「男爵の得意魔法は土、草木とは相性が悪い。多少他の魔法を使って来たとしても、土以上の威力が出ない。何度やっても私が勝つ」
「父様は怠け者だから仕方ないか」
「仕事が忙しくて新しい魔法を覚える暇がないのよ」
姉さんの酷い言葉に、母さんが擁護する。仕事を忙しくさせたのは俺の影響が強いから多少は責任を感じる。
「じゃあ母さんとドーラさん、2人が本気で戦ったら?」
「私が勝つ」「私が勝つ」
全く同じ内容で2人の声が重なった。いつに間にか屋根に上って来ていたドーラさんが母さんに喧嘩を売る。
「結婚して子育てして、最前線を離れていた奴に負けるわけないだろ」
「お生憎様、もう仕事に復帰しています。新魔法の研究も進んでるから、ドーラの知らない魔法を見せてあげるわ」
「あらら、子供を放っておいて仕事に。いつも一緒にいたら、こんな危険な事には巻き込まれなかったんじゃないか?」
「くっ」
ドーラさんの指摘に母さんの勢いが弱まる。ドーラさんはしてやったりといった顔付きだ。
元々は姉さんが護衛なんていらないと言い出したのが原因だ。新魔法って何、とワクワクしている場合じゃ無いだろとツッコミたい。
「私は子供達を信用しているから王都内を自由に行動させているんです。今回も無事に帰って来た。いつまでも過保護にしていると成長しないでしょ」
「今回は、たまたま、私達が居たから、助かったんじゃない」
「ドーラ達じゃなくて普通の誘拐犯なら、アリーが負けるわけないわ」
いつまで経っても2人の言い争いは止まらない。ドーラさんは子供達の教育について執拗に攻撃する。母さんは過保護にし過ぎない事をメインに対応し、何時迄も独身でフラフラしているドーラさんに嫌味を言う事を忘れない。母さんの腕の中に収まっている姉さんは、全面的に母さんを支援し、野次を飛ばす。
シビルさんは無視する事に決めたようだ。でもずっと此処で喧嘩する訳にはいかない。なんとかしたいが俺に止める力は無い。どうしようかと思っていた時、アンナさんとクロエさんが戻って来た。
そうだ、これしか無い。
先程クロエさんに渡した物をリュックから取り出してもらう。いつまでも口論を止めない人の背後に周り、鞘から抜いた切っ先を向ける。
「呪縛」
懐に仕舞い込んでいた南瓜達が、元気良く標的に向かって飛び出した。
「わ、なんだ」
母さん達に集中していたドーラさんが捕縛され、よろけて倒れ込む。
「すみませんドーラさん、そろそろ移動しないとダメだと思うんで、言い争いは止めてください」
俺の魔法に反応したシビルさんがドーラさんに駆け寄る。
「なんで私なんだよ、喧嘩売って来たのはリリーだろ。こんな植物、直ぐに切ってやる。っておいシビル、なんで魔力を送り込んでるんだ。それじゃ切れないだろ」
助ける為に動いたのかと思った。
「私もゲオルグに賛成。喧嘩しないなら解いてあげる」
「だからなんで私なんだよ」
「リリーを縛っても、ドーラは止めないから」
シビルさんがそう言って南瓜達を操作し、ドーラさんの口を塞ぐ。
母さん、せっかくドーラさんの口を塞いだんだからもう煽るのは止めてよ。
俺とシビルさんが取った行動はあまり意味がなかったようで、やーいやーいと囃し立てる声は姉さんも加わって、暫くの間止まる事はなかった。




