第81話 俺は剣をリュックに仕舞う
敵が攻撃の手を止めて土煙が収まった先では、土壁が金属製の壁に変わっていた。
これもドーラさんのマジックか?
単純に土壁の後ろに金属魔法で壁を作っただけだろうな。風魔法は土を削れても金属まではダメだったか。
「ドーラの心配は無用。ドーラがこちらを気にせず戦えるように移動を繰り返すから、あまり離れないで」
戦闘がよく見える位置に移動しようとして釘を刺された。
「風魔法から火魔法に切り替えるようですよ」
目の良いクロエさんが実況してくれる。金属には熱が有利とみて魔法を変えたか。
実況を継続するようクロエさんにお願いする。
「どんどん大きな火球を作ってますね。アリー様の花火よりは全然小さいですが」
それは俺の視界にも入って来た。それでも結構な大きさだ。
「シビルさんが捕縛した人達が解放されています。その人達が集まって来て、風魔導師と一緒に魔法を使ってますね。他者の力を借りて更に強力な火球を作るようです」
俺もクロエさんの側に回って様子を見たい。複数人で一つの火球に魔力を込めるなんて見た事がない。協力魔法とでも言うべきかな。姉さんみたいな単独で強烈な魔法を放てる人には必要ないと思うけど、レベッカさん達が使うと面白そうだよね。でも武闘大会で城の魔導師達はそういうのを使っていなかった。何か欠点があるのかもしれない。
「火球、動きます」「移動する」
クロエさんとシビルさんが同時に声を出す。
シビルさんに連れられて別の屋根に移動する時、火球と金属壁の衝突を目撃した。
壁との衝突によって周囲に火種をまき散らしながらも、本体は壁にめり込み続けている。
止まる事なく進み続けた火球は金属壁を貫通し、その奥にあった家屋を炎上させながら、ようやくその動きを止める事になった。
「凄い火球でしたね。ドーラさんは回避出来ているでしょうか」
「ちょっと隠れてて」
シビルさんが移動を止め、草木魔法の準備を始める。
移動先は金属壁を真横から眺められる位置。金属壁の裏側には既にドーラさんの姿は見えず、不自然に盛り上がった地面が確認できるだけ。そこへドーラさんの生死を確認する為か、敵が2人金属壁を回り込んでくる。
その敵に向かってシビルさんが草木魔法を発動する。ドーラさんが蒔いていたであろう種が反応し、2人の敵を絡め取る。即座に口を封じようとしたが、それよりも早く片方が悲鳴を上げる。
「移動する」
金属壁の周囲から離れる。金属壁に意識を向けた敵とすれ違い、敵の後方へと進んでいく。
先程まで無かった土壁が敵の後方に出現していた。その壁の更に後方まで移動すると、土壁に隠れていたドーラさんが視認できた。こちらでは地面にぽっかりと空いた穴も確認。魔法で地中を掘りながら逃げて来たのか。
「こっちだ」
ドーラさんが声を響かせる。敵が声に反応し、振り向きざまに風の刃を発射する。
刃が土壁に直撃するが、ドーラさんは動かない。土壁に両手を添えてじっとしている。
動きが無いドーラさんに敵は攻撃しても無駄だと判断したのか、攻撃を止めて穴の開いた金属壁の方へ集団で移動する。逃げ回るドーラさんを放置して仲間を助ける事を選んだのかもしれない。そのままバスコさんを背後から攻撃する可能性もある。
「金属製の剣は、その何でも取り出せるリュックにしまっておいて」
シビルさんに言われるがまま剣をクロエさんに手渡す。これから何が。
そう思った時、爆発音が聞こえた。敵の集団が火魔法を発動させたようだ。
集団は後方を警戒しながらゆっくりと穴の開いた金属壁に向かって前進している。
様子を見ていると前方から集団に向かって何かが飛来し、それを火魔法で迎撃しているようだ。それが何回も続く。ドーラさんは集団の後方だ。飛来物を操っているのもドーラさんだろうか。浮遊魔法の一種?
「う~ん。手当たり次第敵に物を飛ばしていますね。農業用の鍬や鋤はもったいないです」
かなり遠くで起こっている出来事なのによくそこまで視認できるな。何かが飛んできて迎撃するか回避するかしている事しか分からない。回避された飛来物は速度を落とすことなく土壁に激突していた。
集団は攻撃に対して慎重になっているのか、前進する速度が徐々に遅くなる。
「うわあああああ」
集団が立ち止まって体勢を整えようとしたその時、最後列に居た敵の1人が後方に吹き飛ばされた。
風か?
飛ばされた敵は他の物と同様に、後方の土壁に衝突。ドーラさんは相変わらず土壁に両手をついたままだ。
それ以降次から次へと集団の一部が剝がされていく。1人、また1人と土壁に激突する。
「後方から引っ張られるのを耐えているように見えます」
敵の様子を窺うクロエさんからの報告。引っ張られる?
風で吹き飛ばしているんじゃないのか。ではなんだ?
雷帝、金属魔法、飛来する農具、倉庫に送った剣。
「磁石か」
この現象の理由に気付いた時には敵集団は全員土壁に貼り付けられていて、最後の力を振り絞ったかのような巨大な竜巻が土壁を中心にして発生した。




