第80話 俺は2人の戦い振りを観察する
シビルさんと共に屋根の上から2人の戦闘を観察する。
村を覆う竹林の一部が破壊され、空いた穴から敵が侵入しているようだ。
2~3人が並んで通れるような穴からわらわらと出てくる敵集団にバスコさんが突撃する。ドーラさんは少し距離を取って魔法を撃ち込むようだ。
バスコさんは俺と戦った時と変わらず無手。ドーラさんの魔法は閃光を残しながら敵を一撃で仕留めている。あれが雷撃魔法か。風魔法のように実体を持たないのか、射出速度が速すぎて見えないのか、ドーラさんから放たれる魔法をこちらからは確認することが出来ない。あるのは光だけ。
敵を何人か倒したところで、ドーラさんが袋から種を取り出し倒れた敵に向かって魔法で飛ばして行く。
その種が敵近くの地面に落ちた所を見計らって、シビルさんが草木魔法で捕縛に動く。
屋敷の屋根から地面を経由して植物を育てる。種までかなり距離があるし、間に大きな屋敷を挿んでも問題無く届く魔力には感嘆する。
村内に侵入してきた敵は徐々に動ける数を減らしていく。穴に向かって突進するバスコさんを回避するように動いても、ドーラさんとシビルさんの魔法で動けなくなる。
バスコさんは止まらない。倒した敵の処理を2人に任せ、次の相手に向かって前進する。
ドーラさんに向かって魔法で反撃する人はいるが、バスコさんには魔法が飛んで来ない。敵に肉薄することで、味方を巻き込みたくない心理を上手くついていると言える。
あれがバスコさんの本気か。
俺と戦った時とは比べ物にならない速度と力で敵を薙ぎ倒している。きっと今も笑っているんだろう。笑いながら殴りかかって来る狂人を相手取る敵方に、少し同情を覚える。
あっという間にバスコさんが穴の前に立ち塞がり、敵は侵入出来なくなった。
これ以上はバスコさんにも被害が及ぶとドーラさんが攻撃の手を休めたその時、大きな破裂音が村内に轟いた。
敵が新たに竹林を破壊し、村への入口を作ったんだ。最初の穴への対応をバスコさんに任せて、ドーラさんが音の方角へ走り出す。
恐らく最初の穴が完全に塞がれる前から別の侵入口を作ろうとしていたはずだ。更なる侵入口を警戒して屋根から見える範囲をぐるっと見渡す。
その時、竹の葉っぱのさざめきが大きくなったような気がした。
上か。
「クロエさん、上空から敵が降りてくるかもしれない。少し監視していて」
クロエさんは俺より目が良い。お願いした後、今度はシビルさんに近づく。
何か有った時にシビルさんの風魔法で声を運んでもらうよう提案する。
向こうはこちらの人数を把握しているはずだ。俺達の事が伝わっていなかったとしても、戦える大人は3人。3か所、可能なら4カ所から攻めた方が守りの手が足らなくなる。バスコさんは最初の穴から離れられなくなった。俺なら次はどうするか。
2つ目の穴から侵入してきた集団は散らばらず固まって動こうとしていたため、いつの間にかドーラさんの土魔法で四方を塞がれ身動きが取れなくなっている。そこにドーラさんが魔法を撃ち込みながら種を飛ばし、シビルさんが次々と捕縛している。次の侵入者が来る前に、2つ目の穴は土魔法で塞がれてしまった。個々の戦力差が圧倒的に異なる。俺が心配するのは失礼だったかもしれない。
「来ます」
クロエさんの言葉に反応し、こちらが敵を視認する前に声を出す。
「ドーラさん、上」
一仕事を終えてバスコさんの所へ戻ろうとしていたドーラさんが、俺の声を聞いて横っ飛びに回避する。
ドーラさんの上空から風の刃が降り注ぐ。空気が唸るような音を残しながら、次々と地面を抉っていく。先ほどまで戦っていた相手の魔法とは明らかに威力が異なる。敵の主力が来たんだ。
俺達を攻撃されたら逃げられなかった。上空から見たら屋根の上に留まっている方が目立つはずだ。最初からドーラさん狙いで襲って来たのかもしれない。
降下して来た敵は3人。1人は2つ目の穴を塞ぐ土壁を破壊しに、1人はその近くで捕縛されている者達を助けに行った。最後の1人がドーラさんと対峙する。
クロエさんに再度上空の監視をお願いする。
シビルさんは捕縛が外れないよう魔法を使っているが、距離があるためか後手に回っている。
バスコさんの方は変化が無いな。俺は屋敷の周りに敵がやって来ないか警戒する。
ドーラさんと敵の戦闘も始まっている。風の刃を無数に出現させて攻撃する敵に対し、ドーラさんは土壁を作って防御に回っている。
「場所を変える。ドーラの邪魔にならない所へ」
シビルさんが俺達を呼び寄せ、風魔法を使って屋根から屋根へ移動する。
敵も俺達の居場所は分かっているだろうから、移動するのは賛成だ。
移動をしている間、ドーラさんが隠れた土壁に向かって止まる事無く風の刃が突撃し続けている。
土壁が削られて出た土煙で視界が奪われても、それは止まる気配が無い。
「大丈夫でしょうか」
止まらず移動し続けるシビルさんに声を掛ける。
「それはドーラを舐めすぎ。今は“雷帝”だけど、私と出会った頃は“蟒蛇”と呼ばれていた」
うわばみ?
それってただお酒をよく飲むって意味じゃないのか?
新たな屋根を拠点と定め立ち止まった所で、シビルさんが話を続けた。
「さらにその前は“鉄壁”のドーラ。その力は未だ健在」
シビルさんが指さす方向に視線を向ける。
土煙が収まった現場には土壁と変わって、白色に輝く構造物、金属製の壁が聳え立っていた。




