第79話 俺は戦いを楽しむ2人を見送る
「南以外からも敵が近づいて来ている」
ドーラさんの言葉に、隣のシビルさんが動き始めた。
身体を屈め、両手を地面に付ける。
グリューンで姉さんが初めて草木魔法を使った時と同じように、地面が揺れる。
魔力の波が地面を伝わり広範囲に拡散していく。圧倒的な魔力で強制的に植物を成長させるために。
持続的に揺れが続く中、村の外周から緑色の何かが顔を出す。一か所では無く、村の全周。姉さんの魔法の影響で雲が飛ばされ晴れ間が広がっていた空に、緑色が足されていく。
「これで完成。しばらくは大丈夫」
魔法を発動し終えたシビルさんが立ち上がった時には、天高く立派に育った植物が村を守る壁として立ちはだかっていた。
あれは、前世から馴染みがある植物、竹だ。太さは地球の物とは比べ物にならないけど、竹だ。
人が通れる隙間もなく密集し、姉さんが花火と共に昇ったほどの高さまで伸びているかもしれない。目線を上げて行った先では、幅広く広がった葉っぱが風に揺れていた。
「よし、これで安心だな。私にも水をくれ」
ドーラさんの提案で屋敷に戻って休憩することになった。
クロエさんがリュックから新たなクッキーを取り出し、皆に配っていた。どれだけ溜め込んでいたんだよ姉さん。
「ドーラ、北側からの攻撃が激しい。そろそろ村を覆っている植物がもたない」
クッキーを1つ食べた後見回りをしてくると言って出て行ったシビルさんが戻って来た。
危ないと言っているのに全く焦った様子が見えない。バスコさんと違ってあまり感情が表に出ないタイプかも。
「北側に戦力を集中しているのか。何人ぐらい居た?」
ゆったりと椅子に座っていた体勢から前のめりになり、なんだが興奮した様子でドーラさんが状況を確認した。
隣でバスコさんも笑顔になっている。この2人は割と分かりやすいが、なんでそんなに戦いたいんだろうか。
「100人くらい。飛び越えようと数人が飛行して来たけど叩き落した。その後は分散せずに近づいて、至近距離から火魔法を撃ってる」
「それは好都合だねぇ」
ドーラさんが口角を上げる。
戦況はこちらに有利なようだが、北に集中している今なら逃げられるのでは?
「包囲が緩いなら逃げませんか」
「私達がここで逃げても公爵達は捕まらない。王子に計画書を持って行かせたが、あの紙に犯人の名前が書いてある訳ではないしな。王子に公爵の名前を伝えたが、王子の言葉が信用されるかどうかわからん。ここで関係者を捕まえないと、知らんと言われて終わりだぞ」
なるほど。計画書の中身は確認していなかったが、あれは決定的な証拠にはならないのか。
俺がドーラさんの考えに納得したその時、大きな炸裂音が屋敷内まで轟いた。
村を覆う植物の一角が弾け飛んだのだとシビルさんが教えてくれた。
「あの植物はシビルが作った魔植物だ。火で炙ると膨張、破裂して反撃する。これで何人かは行動不能だろう。バスコ、そろそろ行くよ」
立ち上がったドーラさんにバスコさんが満面の笑みで戦いの準備をする。秘技を発動しているのか、気合を込めている
「私とバスコで攻撃する。シビルは子供達の護衛と行動不能者の捕縛。なるべく手加減するが、死にそうな奴が居たら手当しておいてくれ」
シビルさんから何かを受け取ったドーラさんは、2人で外に駆け出して行った。外に遊びに行く子供の様だ。
「私達はこっちに」
シビルさんに促されて外に出る。飛行魔法は使えるかと聞かれてたので首を横に振った。
俺達2人を抱き上げたシビルさんが飛行魔法を発動し、屋敷の屋根へと移動する。この村で一番高い建物だ。遊びに行った2人の姿も確認できた。
「飛行して来た人を捕縛せずにはたき落としたのはどうしてですか?」
屋根の上を歩き回りながら周囲の地面に植物の種を蒔いているシビルさんに質問する。
「村を覆ってる植物はしなやかで攻撃するのに便利、だけど曲がらないから捕縛には向かない。植物から植物を生やすことは出来ない。地面から別の植物を伸ばしてくる時間が無かった、から」
質問に答えながら、風魔法も利用して遠くへ種を飛ばしてる。防御用の仕込だろうか。
「あの植物は竹ですよね。ここら辺では見たことないですけど」
「そうだよ、別の国で見つけた。面白い性質を持ってたからちょっと手を加えた。話はこれまで。しばらく静かにしてて。植物の操作に集中したいから」
歩き回るのを止めたシビルさんが戦闘態勢に入る。
シビルさんの視線の先では、ドーラさん達の戦闘がもう始まっていた。




