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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第3章 俺は魔力試験に挑む
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第69話 俺は人の流れに目が行く

 3月のある日、俺達はお昼を食べに来たエステルさんを学校まで見送り、そのまま市場を散策していた。

 市場調査の意味合いもあるが、入寮して寂しそうなエステルさんに何かプレゼントしようと言う話になっていた。

 魔力検査の日が近づいて来ているが、もはや騒いで何かを出来るほどの時間は無い。気分転換に外に出るのは大事だ。


 俺が渡したプレゼントが気に入った姉さんは、今度は自分が贈る側に回れたことが嬉しいみたいで熱心に売り物を覗いている。

 その背中には今日もリュックサックが背負われている。気に入って使ってくれるのは嬉しいんだが、もう二度とソゾンさんに怒られないよう注意してほしい。ソゾンさんの倉庫とはまだ繋がったままなんだから。


「何が良いかな。食べ物とかどうかな?」


「それは姉さんが食べたいだけでしょ。エステルさんは植物が好きだから、室内でも育てられる植物が良いんじゃないかな。今日も庭の花壇を気にしてたしね。鉢植えになんかいいんじゃない?」


 俺と姉さんがプレゼントについて考えている横で。


「枝豆以外に新しい作物は売られていません」


「作物は増えていませんが、揚げ物を扱うお店が増えていますね。飲食店を巡るのも重要な情報源です」


 枝豆しか報告できない事に嘆くマリーと、新しく流行っている料理から売れ筋の作物を調査しようと言うクロエさん。2人ともヴルツェルの爺さんから頼まれた市場調査に余念がない。

 枝豆は温室栽培が上手く行って、今や季節を問わず市場に出回っている。東方伯やヴルツェルで建てた温室で育てられた野菜もそうだ。

 最近では他の領地にも温室が立ち始めているらしい。ソゾンさん以外にも優秀な魔導具職人はいるんだ。ソゾンさんに魔導具職人というと怒られるけどね、儂は鍛冶屋だって。


 クロエさんの言う通り王都では今揚げ物ブームだ。

 鍛冶屋のソゾンさんは最初は嫌がっていたが、商業ギルド経由で依頼を受けて渋々フライヤーを作っている。さすがに俺は出しゃばらず、ソゾンさんに任せている。


 誕生祭で人気を博した唐揚げと魚のフライを筆頭に色々な揚げ物が国内に拡散している。

 ヴルツェルフリーグ家と東方伯が新しく始めた揚げ物屋さんも人気の火付け役だ。誕生祭で商業ギルドに情報開示した補填として、各々に俺が提供したレシピが主力になっている。

 畜産業が盛んなヴルツェルフリーグ家にはトンカツやメンチカツを、河口の街で海産物を豊富に扱える東方伯には天ぷらを教えた。大盤振る舞いしてしまったがもう知らない。そのうち鷹揚亭にコロッケのレシピを提供しようかなと思っている。


「ゲオルグの言う通り鉢植えにしようか。どこに行けば売っているのかな?」


「植木鉢なら土魔法でパパッと作れますよ」


「鉢に入れる土はヴルツェルへ取りに行けばタダですよ。ついでに春から育てられる植物の種を持って来ましょう」


 マリーとクロエさんが自分達に出来る事を姉さんに提案する。確かにそこまで出来るなら態々買う必要ないよね。

 それなら別の場所に行って調査を続けようかと相談していると。


 ボンッ。


 大きな破裂音がお腹に響いた。

 音のした方向に目を向けると通りの向こうにある一台の屋台から火の手が上がっていた。


 揚げ物を提供していたお店だ。

 周囲の買い物客が悲鳴を上げる。

 店員さんに燃え移ったのか、隣で屋台をやっている人達が水を掛けている。

 すかさず姉さんが上空に手を掲げ、火の手が広がらないよう水魔法で上空から雨を降らせる。人混みによって直接屋台に水を掛けることが出来ないのがもどかしい。

 逃げ出す者と救助に行こうとする者が交差し、周囲に混乱が広がって行く。


 その人々の流れに違和感を覚えた。

 火事に対応しようとすることも無く、逃げ出す人が作る流れにも乗らない人達。


「あれ見て」


 火事に対処しようとしている3人に声を掛ける。

 俺の目線の先には大人2人が居る。1人は少年を肩に担いでいて、今まさに路地裏に入っていくところ。

 少年は抵抗しようともがいている。口は動かしているようだが、周囲の喧騒に紛れてここまで届かない。

 他の人達は火事に気を取られ、俺達以外にはそれに気付いていない。明らかにおかしい、どうする?


「人攫いだ、助けよう」


 止める間もなく、姉さんが飛行魔法で飛び出す。

 マジか。

 ここで姉さんを見失う訳にもいかない。慌てて俺も駆け出そうとする。


「ゲオルグ様、剣を」


 マリーに言われて懐から素早く剣を抜き、手渡す。マリーが剣に金属魔法を瞬時に込めて返してきた。

 それを受け取り懐にしまいながら、今し方姉さんが飛び込んでいった路地を目指して走り出す。


 大人がついて来なくなって以来、俺は念のために懐に短剣を忍ばせるようになった。日本なら銃刀法違反で捕まる奴だが、念のためだ。

 マリーを含め皆にもそのことは伝えてある。マリーが金属魔法で武器の強化が出来るようになったのも大きい。


 姉さんが曲がった角に来て一度後方を振り返る。

 マリーとクロエさんが何かやっている。クロエさんに何かの魔法を掛けているんだろう。武器を渡しているのかもしれない。


 路地に侵入する。数件向こうにある屋敷のドアが解放されている。

 この路地はまっすぐ行くと壁に突き当たり、袋小路になっているようだ。

 開け放たれたドア以外に不審な点は無い。

 慎重にドアに近づくと、姉さんの挑発する声が聞こえる。この中か。

 クロエさん達は、まだ来ない。


 深呼吸をして気持ちを整える。大丈夫だ、普通の人に姉さんが負けるわけがない。俺は隙をついて少年を助けて逃げる。出来るのはそれだけだ。よし、行くぞ。


 開け放たれたドアから慎重に、内部へと侵入した。

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