第61話 俺は独りでに気が沈む
とりあえず金の魔石で作る魔導具は完成した。
修正点は色々考えているが、ひとまずこれでいいだろう。
明日は水の魔石を弄る。1つずつ動かしていこう。
その前に明朝はランニングだ。皆待たせてごめん、俺も疲れたから早く帰ってご飯を食べて休みたい。
帰ろうとしたら夕飯はここで食べると言われた。ソゾンさん達へのお礼を込めて夕ご飯を御馳走することになっていたらしい。俺の代わりに気を使ってくれてありがとう。
今後の展望を話しながら皆でワイワイとご飯を食べ、家に帰った。
「なんで俺には声をかけてくれなかったんだ」
自宅では父さんがいじけていた。そんなこと俺に言われても困る。
「父さんはまだグリューンへ行かないの?」
各地の領主は誕生祭を領地で過ごす決まりがある。2歳になった子供達にプレゼントを配らないといけないからね。
「今年はやることが沢山あるから誕生祭当日まで王都を離れられないんだ。グリューンの人達には誕生祭初日の夜にそっちに行くよう伝えてある」
それは向こうの人達に申し訳ない。何かお詫びを考えないと。
なんかお詫びを考えてばかりだな。俺の人生は皆様の手助けにより成り立っております。
それから連日鍛冶屋に籠り、水魔石で草木魔法を、木魔石で火魔法を、火魔石で土魔法を発動させる魔導具を作った。それぞれ問題無く動いた。
そして魔導具同士の連動も出来る。金魔石が作った水魔法を、水魔石が吸収し草木魔法を発動させる。その魔法を木魔石が吸収し、さらに火魔石が火魔法を吸収して土魔法で終わる。
あとはマルテ達が大角山羊の魔石を獲って来てくれたらグルグルと循環する5つの魔導具が完成する。一つの目標まであと一歩だ。
マルテ達はいったい何時になったら帰って来るんだ。8月中には帰って来るかと思ったけど、もう8月も終わり誕生祭が近づいてきている。なにか帰って来れないトラブルが有ったんだろうか。近くの冒険者ギルドを使って連絡してくれたらいいのに。便りのないのは良い便り、何て言うけどただの怠慢だよね。
土魔石が手に入るまで魔導具を作る気にならず、言語の改良を考えながら日々を過ごした。
一日おきのランニングは継続し、いつのまにかラジオ体操は毎日やることになってしまった。
毎日やっていると徐々に参加者も増え、両親も含め住み込みで働いている使用人全員が参加するようになった時には、誕生祭の初日を迎えていた。
「マルテ帰って来ないね。どこまで行ったんだろう」
ランニングしながらマリーに話しかける。走りながら会話できるくらいマリーには余裕が出て来た。誕生祭後には走る距離を増やそうかなって思っている。
「さあ、レベッカさん達に魔法を教えるのが楽しくなったんじゃないですか?」
そっけない答えが帰って来た。まあ今更両親が居なくて寂しがるようなタイプじゃないしな。
路地を走りながら、偶に見える大通りを散ら見する。完成した屋台が販売開始を今か今かと待っている。一昨日走った時は無かったのに昨日一日で屋台が大通りに立ち並んだ。今年も食べ歩きをするのを楽しみにしている。
走り終わって朝食を食べたら、教会に行きお祈りをする。
お供え物も昨日から料理長に頼んでいて今日は泊まりこんで用意してくれた。姉さん達が考えた唐揚げも料理長に上手く改良して貰って美味しくなったから、それも持って行く。結構な量になると思うんだけど、あの神達ならあっという間に食べちゃうだろう。
シュバルト様の教会へ、1人分の唐揚げとお酒を持って行く。今年もよろしくお願いします。
次はマギー様の教会へ、3人分の唐揚げとお酒を持って行く。喧嘩せず仲良く食べてください。
今回も神界には呼ばれず、2柱の神からお礼を言われるだけに留まった。
教会を出たらちょうど屋台が開店し始める時間になっていたから、ぶらっと屋台を見て回る。
今年は、揚げ物をやる店があった。注文している間に中を覗いてみたけど、俺達が作っているフライヤーじゃなかった。
真似されるのは構わないんだけど、安全性は確保されているんだろうか。油の処理をきちんとやっているんだろうか。その辺りが心配になる。父さんの方から商業ギルドに問い合わせてもらおう。
揚げ物の味は、言っちゃ悪いけど美味しくなかった。なんだろう、油が悪いのかな。真似するならもうちょっと美味しさを追求して貰わないとこっちまで風評被害が及びそうだ。
揚げ物は1店舗だけかな。
串焼きでお肉を食べ、ソーセージを食べ、おやつ系のクレープを食べ、美味しそうなチーズを購入した。うむ、満足である。
食べ終わったゴミはゴミ箱へ。
誕生祭の期間中、王都のいたる所にゴミ箱が設置され、それには出店している屋台の広告が貼られている。
もちろんフリーグ男爵家の屋台グループを宣伝する内容が主だが、目ざとい経営者達が参入した広告もいくつか見つけた。
男爵家に続いて多く見られたのは、東方伯の屋台広告かな。多彩な色使いで派手な広告を仕上げていた。元々持っている資金の差が如実に表れてる。こういうのを量より質って言うんだな。
来年はより沢山の人が広告を出すだろう。ゴミ箱以外にも新しい何かが生まれそうで楽しみだ。
一旦食べ歩きを切り上げて、毎年参加している王様の開催挨拶を聞きに行った。
初めて聞きに来たのは俺が2歳の時。
あの時は家族みんなで祭りを楽しんだけど、今はバラバラ。その時も父さんは領地だったけど。
今はまだ同じ王都内で暮らしていつでも顔を合わせられる。でもそれぞれに知り合いが増え、用事が出来、行動を共にすることは少なくなった。姉さんが学校に通い始めたら、更に接点は薄れていくだろう。
いつか誰かが王都から飛び出し、離れて暮らすことになるんだろうか。姉さんが先か、俺が先か。家族と会えないのは寂しいな。
誕生祭を盛り上げようとする王様の挨拶を聞きながら、俺の気持ちは少し沈んでいった。




