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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第1章 俺は異世界で発育する
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第8話 俺は父親を見送る

 この国の伝統のお祭りがあるらしい。

 子供が2歳まで成長したのを祝うお祭り。だから2歳の誕生日には来客が沢山来たんだ。


 そのお祭りは毎年9月17日から数日間行われる。17日は昔の王様の誕生日だそうだ。

 お祭り中に王都の子供達が順番に登城し、王様に会うらしい。王都は子供の数が多いから、数日に分けて行われるそうだ。1日に詰め込んだら王様だって疲れちゃうよね。


 子供達みんなが王様に会うって聞いて俺は驚いた。そんなに気軽に会えるものなのか。作法とかも分からないんだけど、どうしたらいいのかマルテに聞いてみた。


「特別な作法は必要ありません。お城に行くだけでいいんです。王様の問い掛けに元気良く返事が出来たら更にいいですね」


 元気に成長した姿を見せるだけでいいらしい。2歳の子供にそれを理解させるのも大変じゃない?泣き叫ぶ子もいると思うんだけど。


「泣いてもいいんです。お城に行けるまで成長出来たってことが大事なんですよ」


 そっか。どんなお祭りになるんだろう。去年、一昨年はお祭りなんて知らなかったから、今年が初お祭り。楽しみだね。美味しいご飯とか、楽しいイベントとかあるのかな。


「美味しいお店や珍しい物を売るお店が出来ますよ。みんなで見て回りましょうね」


 やった。お祭りが待ち遠しい。




 お祭りまで後1ヶ月程になったある日、父さんが泣きながら抱きついてきた。

 訳が分からず呆然としている俺から、母さんが父さんを引き剥がし、そのまま引きずって行った。

 薄々気付いていたけど、そういう力関係だよね。


「お父様はこれから自身の領地へ行ってお祭りの準備をしなければなりません。ゲオルグ様の晴れ姿を見られなくて哀しんでいるんですよ」


 どうしたらいいのか分からず立ち尽くしていると、マルテが教えてくれた。そうか、父さんは領主だったのか。ずっと王都にいるよね、知らなかった。去年もこの時期は居なかったのかな、気がつかなかったよ。


「普段は向こうの人に任せているみたいですけど、お祭りの日に領主が居ないなんてダメですからね」


 そっか、父さんはお城でも働いてるんだよね。領主も兼任してるなんて仕事熱心だ。


「そうですね、そろそろお父様が出発する時刻です。お見送りに行きましょう」


 マルテに連れられて外に出た。門の前には二頭立ての馬車が横付けしている。その後ろにもう1台。姉さんが馬車の幌の上で遊んでる。

 え、この2台の馬車ってうちのなの?結構お金持ちだね。


「商隊長、今年もよろしくお願いします。すぐに荷物を積み込みますので、お待ち下さい」


 え?父さん、どういうこと?父さんが知らない人に頭を下げている。


「いえいえ、今年も頼りにしています。リーゼロッテお嬢様、旦那様に何か伝言等有りますか?」


「特に有りません」


 母さんが短く答えた。顔には出てないけど、割と嫌がってる?


「そう言うと思ってましたが、それを言うと旦那様が哀しむんです。何かありませんか?」


「そうねぇ。あ、息子のゲオルグが無事に2歳になりました、と」


「いやいや、2歳の誕生日に会いに来てましたよね?」


「そうだっけ。じゃあ、娘も元気です」


「はぁ、分かりました。親子皆元気ですと伝えておきます」


 商隊長さんが折れた。旦那様と言うのはリリー様のお父様です、とマルテがこっそり教えてくれた。ということは、この馬車の人たちは祖父の部下か。


「おやこでふなかなの?」


「恥ずかしがってるだけですよ」


 そんな風には見えないけど。


「商隊長、準備が終わりました」


 あ、父さんが帰って来た。ちょっと俺も挨拶しておこうかな。


「こんにちは、ゲオルグです。ちちをおねがいします」


 ペコっと礼をする。うん、ゆっくりだけどちゃんと話せたと思う。


 ぐへっ、抱きつかないで父さん。よく言えたねって撫でくりまわされた。


「こんにちは、ゲオルグくん。立派に成長してるみたいだね。旦那様にいい報告が出来そうだよ」


 商隊長さんも喜んでくれた。多少はフォロー出来たかな。


「ではそろそろ出発します」


 商隊長さんが声をかけて父さんを連れて行った。出発する前に母さんが姉さんを呼び寄せている。


「いってらっしゃい」


 俺の声に父さんが凄く手を振っている。馬車はゆっくりと進み始めた。お仕事頑張って。




「あの商隊は王都からリリー様の父親の領地まで行く商隊です。そこまで同乗して、お父様は自分の領地へ向かうんです」


 わざわざ商隊の馬車に乗せてもらう必要あるのかな。


「とんでいけばいいのに」


 姉さんが飛べるんだから父さんも出来るよね?


「実は移動ついでに護衛の仕事を請け負ってるんですよ。ああ見えてお父様は強いんです」


 まさかのバイト。割とカツカツなのかな。


「おかねない?」


 ちょっと心配になって聞いてしまった。


「大丈夫ですよ。お二人のためにお金を貯めているんです」


 貯金かぁ。それはいいんだけど、働きすぎて倒れないでね。


 父さんが帰って来るのは約2ヶ月後。元気で、いってらっしゃい。お土産待ってます。

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