第49話 俺は黄緑の髪の少女に出会う
姉さんがマチューさんの護衛から帰って来た。
アンナさんの後ろにはもう一人知らない顔が居る。黄緑色の長い髪が特徴的な女の子だ。服装から見て女の子だと思う。
「エルフ族のようですね。マチューさんの知り合いでしょうか」
「あ、マリー何処に行ってたんだよ。姉さんに白い眼で見られた件について弁明してくれ」
「アリー様、その子は誰ですか」
無視ですか、そうですか。いつかきっとどこかでやり返してやる。
「この子はマチューの姪です。こちらはアリー様の弟であるゲオルグ様。あちらはゲオルグ様の乳母の娘、マルグリットです」
「こんにちは、ゲオルグ・フリーグです。よろしくお願いします」
「こんにちは、マルグリットです。マリーと呼んでください」
アンナさんの紹介に続いて挨拶をする。
女の子は背が低くて顔つきも若く見えるけど、何歳なんだろう。
「初めまして、エステルです。叔父の提案で、同い年のアリーと一緒に学校へ通うことになりました。学校の寮へ入るまで暫くこの家でお世話になります。よろしくお願いします」
あらら、歳上でしたか。それは申し訳ない。同い年くらいかなと思ったのは黙っておこう。
よくできたねぇと姉さんに頭を撫でられるエステルさんが可愛い。その姿はやっぱり若く見える。
「エルフ族はあまり自身の村から出ず、閉鎖的になりがちな種族です。それを心配したマチューが学校へ通うよう説得したわけです。アリー様と同い年というのが良かったんですかね。すっかり仲良くなっていますよ」
確かに仲は良さそうだ。同い年の友達って言うより、姉と妹って感じだけど。
「これから荷物を置いたら、お土産を渡すのとエステルを紹介しにエマの所へ行くんだけど、ゲオルグも一緒に行く?」
おお、それは魅力的な提案だけど。
「会議の行方が気になるから家に居るよ。それに母さんが帰った時に居ないと怒られそうだしね。あ、姉さんもアンナさんもお帰りなさい」
「ただいま。じゃあとりあえずエステルの荷物を私の部屋に置きに行こう」
「ただ今戻りました。遅くなって申し訳ありません。魔石はリリー様が持っていますので後程受け取ってください」
俺と挨拶を交わした後、3人は家の中に入っていった。
荷物と言ってもエステルさんが背負っている鞄しか見当たらないが、あれだけなんだろうか。お金さえあれば王都である程度買い揃えられるとは思うけど、それにしたって少なすぎるだろ。
「ゲオルグ様、会議で何か発言するつもりだったんじゃないの?」
「いや、ニコルさんにケチャップの販売をお願いしようと思ってただけだから。会議が終わるまで邪魔にならない所でゆっくりしていよう。会議に参加して母さんを出迎えないと不貞腐れるだろうしね」
ニコル先生のケチャップってなんであんなに美味しいのかなとマリーが首を捻っている。
さあ、企業秘密ってやつだろ。
でもニコルさんにケチャップ量産の事を提案したらレシピを渡して来て、勝手にやってといいそうだ。来年は誕生祭に参加しないとか言ってたから、本当は嫌なんだろうな。
どたばたと玄関方面が煩い。たぶん母さんが帰って来たんだな。
姉さんについて行かなくてよかった。さあ、出迎えに行きましょうか。
「ゲオルグ、ただいま」
「お帰りな」
最後まで言わせてもらえず、俺の顔は母さんの腹部に押し込められている。ちょっと待って、これはダメだ、息が出来ないから。
「はあ、久しぶりの我が家。久しぶりの我が子。最高ね」
「リリー様、ゲオルグ様が最悪な死に方をしそうなので、そろそろ離してあげて下さい」
ナイスマリー。もっと言って。二度と母さんが俺を抱きしめ無くなるように。
「じゃあ持ち方を変えましょう。これならいいわよね」
そう言って俺を浮遊魔法で持ち上げ、まるで子供がぬいぐるみを抱えるように抱擁する。抵抗しても無駄なのはわかってる。でも会議に来ている皆にこの現場は見られたくないから何とかしたい。
「マリー、何か変わったことは無かった?」
なぜ俺に聞かずマリーに聞くのか。
「はい。ゲオルグ様がエマさんを見て浮かれていた以外は。それと今は応接室で今年の誕生祭に向けて屋台出店者たちの会議が行われています」
俺って浮かれてるように見えてたの?
そんなつもりはまったくなかったんだけど。
「エマさんに良い所を見せようとして青のり粉を無償で渡したのは誰でしょうか」
そういう言い方しなくてもよくない?
さっきまで実況解説ごっごを楽しんでいたマリーは何処へ行ったんだ。
はっ。まさかさっき姿が見えなかった時に偽物と入れ替わったんじゃあ。
「良い情報をありがとうマリー。報酬は後で渡すわね。くれぐれもマルテには内緒よ」
なんと母さんから買収されていたのか。でも大した情報を渡してないよね。
それとマルテに内緒って今ここで言って良いのかな?
俺がマルテにばらしちゃうかもよ?
「ゲオルグ様はそんなことをしないと信じています」
なにそれ、酷くない?
信頼に応えないなんて男じゃないわね、とか言われても困る。
「玄関でワイワイ騒いで、相変わらず賑やかな家だね」
そうこうしていると、応接室方面からやって来たニコルさんに恥ずかしい場面を見られてしまった。




