第41話 俺は鉄剣で鉄柱に斬りかかる
「次は金属魔法の応用編を教えよう」
40点と言われた後練習してある程度溶接が上手くなったレベッカさんに、ソゾンさんがそう宣言した。
応用編という言葉に姉さんが反応する。
「なにそれ、私教わってないよ」
「そうじゃったか、すまんすまん。レベッカは魔物と戦う時、何か武器を使うのか?」
姉さんの苦情をすまんの一言で済ませられるソゾンさんを尊敬する。俺にもその力が欲しい。
ソゾンさんの問いに、レベッカさんは剣と弓を使いますと答えた。その答えはちょっと意外だった。
レベッカさん達5人は前衛2、中衛1、後衛2の構成で戦うらしい。
前衛のラインハルトさんとヴェルナーさんが魔物に接近して剣や槍で攻撃する。後衛が自由に魔法を使えるよう盾となる。
中衛を担当するレベッカさんは前衛が魔物に接近するまでの補助を行い、前衛をすり抜けて後衛に迫ろうとする魔物を引き受ける。
後衛は5人の中で魔法が得意な方だったエルヴィンさんとヴィルマさん。魔法で魔物を攻撃、足止め、捕縛等を担当するそうだ。
「マルテさんに魔法を習うようになって、前衛後衛の差が無くなって来てるんだけどね。アリー様と戦って負けた時に戦い方を変える必要も感じたし」
確かに全員が均等に魔法が使えるなら、全員攻撃全員防御でも良いかもね。姉さんとの戦いでも全員で協力して防いでいたら姉さんの好きにはさせなかったかもしれない。
レベッカさんの話を聞いている間に、ソゾンさんは何やら準備をしていた。
工房内に俺の腕位の鉄柱を建て、簡単な剣を作り上げた。剣と言っても平べったい鉄の棒って感じだ。見た目切れ味は悪そうで、剣と言うより鈍器だな。
「レベッカ、この剣でこの鉄柱を斬り裂いてみろ」
ソゾンさんから剣を受け取ったレベッカさんが顔を顰める。気持ちは分かるよ。
意味も分からず剣を振り上げ、鉄柱に向けて斜めに斬り下ろす。
甲高い音が響いて剣は鉄柱に弾かれた。レベッカさんは手が痺れてしまったようで、剣を取り落してしまった。
その剣を拾い上げたソゾンさんが、姉さんに手渡して言葉を続ける。
「アリーならどうやる?」
剣を持った姉さんが目を煌めかせて鉄柱の前に移動する。
レベッカさんの動きを真似て剣を振り上げ、えいっという掛け声と共に袈裟斬りにした。
「えっ」
斜め下に剣を振りきった姉さんを見て、レベッカさんが驚きの声を上げる。
金属同士の衝突音は鳴らず、切断された鉄柱が床に落ちる衝突音だけが響いた。
やったーっと飛び跳ねる姉さんに拍手を送る。ここで称えなければまた怒られると言う打算も働いたが、単純に出来るとは思っていなかった。どうやったんだろう。
ソゾンさんは落ち着いて切断された鉄柱を修復し、剣を姉さんからマリーに受け渡した。
「マリーもやってみろ。自分のやり方でいいぞ」
剣を受け取ったマリーは暫く考えた後、剣を両手で持ち、目を閉じて集中し始めた。
周囲も静かにマリーの動向を見守る。
2、3分経った頃、いきますと発してマリーが動き出した。
他の2人と同様の動きで剣を動かし、鉄柱を斬りつける。
高音が耳に伝わる。
悔しそうなマリーの視線の先には、鉄柱の途中で動きを止めてしまった剣があった。
「失敗しました。もう少し時間をかければ」
反省の弁を述べるマリー。
鉄柱から引き抜いた剣を見ながら、良い出来じゃとソゾンさんが口にする。
鉄柱を再度修復し、マリーが使った剣は脇に置いた。
続いて新たな鉄剣を作り出して、その剣に何やら魔法を込める。
「これで最後じゃ。ゲオルグ、斬ってみろ」
手渡された剣は最初にレベッカさんが使った物と変わらないように見える。自分のやり方とかじゃなく、ただ斬ってみろと。
鉄柱の前に移動し、上段に構える。
手が痺れる覚悟は出来た。気合を込めて振り下ろす。
鉄柱に当る時、衝撃は感じた。しっかりと握っていなければ弾かれていたかもしれない。
しかし剣は止まらない。少し体を捻りながら剣を斜めに滑らすように、斬り裂いた。
おおっと歓声が上がる。どうして斬れたのか自分でも分からないが、何となく高揚感を感じた。
「よく斬ったな。儂も斬れるとは思っとらんかった。刃の動かし方が良かったのか」
ソゾンさんにお褒めの言葉を頂いた。純粋に嬉しい。頬が勝手に上がっていくのが分かる。
「さて、3人に鉄柱を斬ってもらったが、レベッカは何か気付いたか?」
少し考えた後、レベッカさんは短く答えた。
「アリー様の時、鉄柱が剣を避けた様な気がします」
「良い眼をしておるな。アリーは剣が鉄柱に当った瞬間、剣を介して鉄柱に干渉したんじゃ。金属魔法を使って鉄柱を移動させたんじゃな。避けたという表現は正解じゃ」
ばれたかー、っという姉さん。
鉄柱を斬ってはいない。姉さんの行動がズルだと言えばズルだろう。でもそれを責める人はいない。姉さんと同じことは出来ないからね。短時間でそれを思いつき、行動に移せる姉さんはさすがだ。
そしてそれに気付けるレベッカさんも、実は凄いんだ。
「マリーは時間をかけて、斬れない剣を斬れる剣に変えようとした。最初に剣を持ったレベッカなら分かると思うぞ」
マリーが使った剣を手に持ったレベッカさんが唸る。
俺も見せてもらうと、鉄柱に当った部分は刃こぼれをしていたが、それ以外はとても綺麗な仕上がりになっていた。店頭に置いても売れそうな出来だ。
まだまだですとマリーは謙遜するが、一本剣を作ってくださいとレベッカさんに言われて喜んでいる。
「最後に、儂がゲオルグに渡した剣じゃが、これが応用編じゃ」
そう言って剣を俺達に見せるが、使った俺も違いが分からない。誰かわかる人。




