第39話 俺は金属魔法で実験を始める
色々あった日の翌朝、キュステへ向けて出発した母さんを見送った。
相変わらずキュステを嫌がる姉さんはお留守番だ。
今回キュステに行くのは東方伯を説得して日程を決める為だからね。姉さんは行く必要ない。
マチューさんをキュステの外に出すために色々考えていたあの頃が懐かしい。
俺は今日は鍛冶屋だ。
レベッカさんを迎えて金属魔法を教える予定。
実験の事は姉さんとアンナさんにも話した。2人とも興味を持ってくれて、一緒に鍛冶屋へ行くことになった。2人にはレベッカさんへの教師を務めてもらおう。姉さんはあれだけど、アンナさんには期待している。
おはようございます。
元気に挨拶をして鍛冶屋に入ると、いつも通りヤーナさんが受付に座っていた。
「おはよう。マリーちゃんとレベッカちゃんがもう来てるわよ」
思ったより行動が早い。マルテのやる気を感じるね。
普段ならアンナさんはヤーナさんの手伝いとして家事をやるんだけど、それはレベッカさんの様子次第ということにしてもらった。
工房に入ると、張り切った声で話すマリーが目に入った。
「金属魔法のコツは、物質をギュッと固める感じ。だから慣れるまでは手を動かしながら魔法を発動するといいよ。そういう所は火魔法とちょっと違うよね」
どうやらマリーがレベッカさんの教師として魔法を教えているようだ。それを微笑ましそうにソゾンさんが見学している。
「おはようございます。マルテから話を聞いてますか?」
2人の邪魔をしないように、こっそりとソゾンさんに挨拶をした。
「おう、おはよう。マルテは子供達を置いてさっさと行ってしまった。だがマリーがしっかりと説明してくれたぞ。レベッカもそれまで話を聞いていなかったようで驚いていた。まあ今は理解して、マリーから魔法を習っておるが」
レベッカさんは嬉しそうにマリーの講義を聞いている。
マリーが敬語を使わずに喋っているから、随分仲良くなったみたいだ。
ならレベッカさんの教育はマリーに任せていいか。アンナさんには家事を手伝って貰おう。
姉さんは何かやりたいことある?
「私はパパッと食洗機を作っちゃおうかな」
教師になれなかったのを残念がるかと思ったけど、そんなことは無かった。
割とそういうのが好きなんだと理解していたけど、勘違いだったかな。それとも姉さんが大人になったんだろうか。
そんなことは無かった。
食洗機を作る時、レベッカさんに見せつけるように金属魔法を使っていた。
私も教えられるよ、と言っている風だった。
それを見たレベッカさんが姉さんに質問しだすと、大層喜んで返答していた。横で見ている分には面白いけど、生徒を取られたマリーには申し訳ない。
「大丈夫ですよ。私とアリー様ではちょっとやり方が違うんですよ。色々なやり方を観た方が参考になると思うので」
「へえ、どう違うの?」
「アリー様は巨大な魔力を使って強引に金属を変形させていく魔法が得意ですね。私は丁寧に少しずつやっていく感じです。例えば、巨大な剣をなるべく速く作れと言われたらアリー様の方が得意でしょう。でも、ナイフの切れ味勝負とかになると、いい勝負が出来ると思います」
姉さんはいつも豪快だもんな。そのイメージはよく分かるよ。
あ、レベッカさんが苦悶の顔をしている。
姉さんの魔法理論を聞いて心折れたね。
魔力差を感じるだけでも驚くだろうし、姉さんは魔法を教える時に擬音を多用するからな。その擬音のイメージを掴めないと、話を理解できないんだ。
「ふふ。レベッカさんを励まして来ますね」
マリーが勝ち誇ったように微笑んでいる。生徒の取り合いをしている気分なのかもしれない。
「レベッカさんはどうでしょう。早めに金属魔法を覚えられるでしょうか」
子供達の動きをじっと観察しているソゾンさんに聞いてみた。
「そうじゃな。やる気はあるし、土魔法が得意とじゃと言うのもいい。今日明日で金属魔法の基礎を覚えることは出来ると思うぞ。基礎だけで水魔法を覚える役に立つのかはわからんがな」
確かにそこは気になる。どの程度習熟していれば次の魔法に行けるのか。
そこを調べるには多くの人を使って、段階的に金属魔法を覚えさせる必要があるよね。俺個人ではなかなか難しい話だ。
とりあえず今回は基礎だけでも覚えてもらおう。そこでエルヴィンと差が出来たら基礎だけで十分ってことだもんね。差がつかなかったら金属魔法を持っと学んでもらおう。
ずっと彼女らを見ててもしょうがないから、俺は魔石に使うドワーフ言語をもう一度考えようかな。
そうだ、ソゾンさんに自転車を作ってもらおうと思ってたんだ。
さすがにギアチェンジの機構は分からないから、シンプルな自転車になるけど。ブレーキは車輪を挿むタイプだな。ライトとベルは要らないかな。ちょっと絵を描いてソゾンさんに見せてみよう。




