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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第3章 俺は魔力試験に挑む
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第37話 俺は競艇の話を聞かされる

 親方と馴染みの料理屋で昼食を食べた。

 海鮮料理は相変わらず美味しかったけど、店主や客からも競艇の話を振られたのには参った。新しく客が入店する度に聞いて来るんだもん。もっと落ち着いて食べたかったな。


 パパッと済ませた昼食後はソゾンさんの鍛冶屋に寄って依頼を解約する許可を貰った。

 ソゾンさんの登録証を借りて冒険者ギルドに戻る。


 相変わらず電撃アンコウの依頼は貼られたままだ。まあそれでいいんだけど。


「すみません、電撃アンコウの依頼を取り下げたいんですが」


 ソゾンさんの登録証も同時に見せ、2つの依頼の解約を申し出る。


「依頼を受けてくれる人が見つかったんですね。それは何よりです」


「ありがとうございます。手数料は返って来ないんですよね?」


「はい、規則ですので。では依頼中止の手続きを行いますので暫くお待ちください」


 受付を離れ、そこらへんの長椅子に腰かけて時間を潰す。

 昼過ぎの冒険者ギルドは静かだ。午前中にいた冒険者は居なくなり、受付の人もまばら。冒険者がいっぱいで活気があるギルドも良いけど、俺はこっちの方が好きだな。絡まれる心配が無いってのもあるけど。


 受付奥の人の流れを観察しながらぼーっとしていると、入口から声が掛かった。


「お、リリーの息子じゃないか。競艇開催の話が決まってよかったな。これでまた船外機が売れるぞ」


 は?

 振り返るとギルドマスターが豪快に笑いながら立っていた。

 何かとんでもない事を言われた気がする。


「マスター、その話は各所から抗議が来てまだ確定した話では無くなりました。国王から口外しないようにと言われたはずです」


 ギルドマスターの後ろに控えていた女性が苦言を呈した。秘書さんかな?

 しかし抗議が来て国王が口止めか。秘書さんの発言の方が聞きたくなかったんだが。


「眉間に皺寄せて固い事ばかり言っているといつまでも結婚できないぞ。笑顔でいればいい女なのに」


「私が笑顔で居ないのはマスターのせいです。私の将来を心配して下さるのならさっさと引退してください」


「クルトがもう少し頼りになればいいんだがな。クルトは武闘大会を上手い事運営したが、自分で企画出来ればもっと良かったな。クルト次第ではいつでも引退してやるぞ」


 そういってマスターは笑いながら去って行った。何か良い事が有ったのか終始機嫌良さそうだったな。

 まだ確定ではありませんので他言無用でお願いしますと秘書さんが頭を下げてきた。大丈夫です、大変ですね。


 マスターを追いかける秘書さんを見送り、静けさが戻ったギルド内でため息を漏らす。


「あんなギルドマスターで大丈夫なのかな」


「あれでも若い頃は豪腕で唸らせた冒険者でした。有名なクランを率いていた統率力を買われてマスターになったんですよ。実務は副マスター等の若者に任せて何かあれば責任を取る、そんなマスターですね。あれでもそれなりに役割があるんですよ」


 マスターの事をマルテがそう評した。評価しているって事でいいんだよね、何となく棘を感じたんだけど。


 おっと受付のお姉さんに名前を呼ばれたようだ。

 手続きが終わったんだね。結構時間が掛かるんだな。

 あ、マスターが絡んでいたから様子を見ていたんですね。ありがとうございます。ところで競艇って本当に開催されるんですか?


「最初は8月末に開催で決定したんですが、遠方の貴族から反発が来たみたいで。9月の誕生祭の為に貴族は領地に帰らないといけませんからね。参加したいから開催日をずらせって揉めているんですよ。私たちはどうせ見に行けないのに、贅沢な悩みですよね」


 それから暫く、なかなか休みが取れない仕事なんだという愚痴を聞かされた。仕事量に対して受付をやる人間が少ないらしい。

 年中無休だし、朝と夜は冒険者が沢山来るし、ギルドマスターはあんなだし、色々大変ですねと労をねぎらうと更に止まらなくなってしまった。

 まあ話を振ったのはこっちだし、面白い話も聞けたからいいんだけどね。


 最終的に、愚痴を聞いていただいてありがとうございますと言われてしまった。

 いえいえ、これからもお仕事頑張って下さい。

 ちょっと時間が掛かったけど有意義な時間だったと思おう。

 お姉さんから返してもらった依頼料を持って、親方に依頼をお願いしよう。




「そういえば、最近はエルヴィンさん達にどんな魔法を教えてるの?」


 船着場に戻る道すがら、マルテに質問してみた。


「熱帯土竜の依頼を受けた辺りから、風魔法、浮遊魔法、飛行魔法を順に教えてます。まだ水魔法は使えないので、大角山羊の依頼にはゲオルグ様から頂いた水筒がまた役立つでしょう」


「言霊に関しては教えているの?」


「言霊は誰でも一定の魔法が放てて便利だと思いますが、彼らには教えていません。楽をさせるより努力して身に付けた方が、自信にもつながるでしょうから」


「マリーは言霊を使ってると思うけど」


「あの子は言霊の事をきちんと理解しているから大丈夫です。幼い頃から優秀な義姉と努力する義弟を見ていますからね。親バカと言われようが、私はあの子を信頼しています」


 義弟って言うのは俺の事だな。同年生まれだが俺が5月、マリーが4月生まれ。一か月お姉さんだから。


「今ね、魔法を学ぶべき順番って言うのを考えているんだ。彼らで試してみてくれない?」


 俺はソゾンさんに説明した内容をマルテに伝えた。

 俺の周りの人はもう十分魔法を使えるから試せないんだよね。

 迷惑をかけられた分、少し返してもらっても罰は当たるまい。

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