第33話 俺は木の魔石をエルフに頼る
俺とマリーの変顔で和んだ所で話を戻そう。
ソゾンさん的に例外な俺の他にも、ソゾンさんの理論には合わない人達が居るよね。
「魔法が使えないとされている獣人族には魔石が出来るんでしょうか」
「儂は獣人族が魔法を使えないとは思っておらんし、彼らは魔力を放っておる」
「随分自信を持っていますね。そう確信する理由はなんですか?」
「ヴルツェルで温室を作って魔導具の講習会を開いた時、獣人族でも使える特殊な魔導具を作ったと説明した。実際には普通の魔石を使った普通の魔導具じゃ。しかしあれ以来温室に設置した魔導具が使えないといった苦情は来ておらん。つまりはそういうことじゃ」
「ではなぜ獣人族は魔法を使えないんでしょう」
「彼らは自分達が魔法を使えないと考えておる。彼らは独特な技術を持っており、それを魔法の代わりに使う。自分達は魔力を持たないが、魔力とは違う特別な物を扱っていると信じているんじゃ。その信念が魔法を使えなくしている、と儂は思っておる。まあ儂は彼らがどう生きようと関係ないから、特に口出しはせんがな」
なるほど。獣人族が魔法と認識しない限り、それは魔法じゃないんだな。難しい話だ。
「魔法が使えるとしてゲオルグ様が考えた五属性に割り当てるなら、やっぱり金になるんでしょうか。それとも全く別の新たな属性が誕生するんでしょうか」
マリーがそう質問する。俺としては金に属してほしいかな。その方が綺麗にまとまって気持ちいいよね。
「さあどうじゃろうな。金に配属した方が分かりやすくていいが、世の中そう上手く行かないから面白いんじゃ」
ソゾンさんの言うこともわかる。
それに金属魔法が生まれつき得意ってちょっと損してる気がする。
俺が鍛冶や魔導具製造以外で金属魔法を活用する方法を思いつかないからかもしれない。
今度クロエさんに会うことがあれば魔法について話してみるのもいいかも。
クロエさんは農業が好きだから、金属魔法には興味を持たないかもしれないけど。
後は残りの魔石、木の魔石をどうするか。1つ思い付いた事を提案してみる。
「キュステのマチューさんに連絡して、魔石を持っていそうな植物系の魔物について相談しましょう」
「そうじゃな、他人の意見を聞くのも大事じゃ。これから冒険者ギルドに行って連絡するか。ついでに他の4種は依頼を出しておこう。個数は各3つずつにして、依頼料は相場を聞いて相談じゃな。売店で売っていると楽なんじゃが」
マリーも行くよね。もちろん俺もついて行くよ。今日のお守役のルトガーさんに一声掛けて来るからちょっと待って。
「やはり売店には無かったな。大角山羊くらいならあるかと思ったんじゃが」
冒険者ギルドの販売部を一通り見終えたソゾンさんがため息をつく。
いつも店番をしているお兄さんが、レアな魔石ばかり探さないで手ごろな物を消費してくださいよとソゾンさんに縋っている。在庫を抱えて困ってるのかな。
「魔石って魔導具以外に使い道あるんですか?」
「無いからこうやって頼んでいるんですよ」
即答するお兄さん。切羽詰まっている感じを隠そうとしない。
「そんなことないじゃろ。魔法研究所で魔導具以外の利用法について研究している部署があったはずじゃ」
「研究が上手く行かずどんどん規模が縮小している部署ですよ。そんな部署が魔石を沢山買ってくれるはずないでしょ」
お兄さんがソゾンさんに反発する。性能の良い魔導具が出回って魔石を交換する頻度が減ったとか、それなのに冒険者から魔石を購入する個数が増えて供給過多なんだとか、そんなこと俺達に言われても困る。
俺が不用意な質問をしたばかりに、お兄さんが豹変してしまった。しかし要らない魔石を買うほどの義理もない。
ごめんなさい、お兄さん。逃げ出します。
販売部から受付に戻って来た所で、通信部へ行っていたルトガーさんと合流した。
ギルドに入った所で別れて、先に通信して来て貰ったんだ。送る文章は考えておいたからね。
「通信は問題なく終わりました。返信費用はこちらで払うようにしておきました。」
はい、それで大丈夫です。フライヤーを売って稼いだから。今回の魔石依頼でまた無くなりそうだけど。
じゃあ最後に、魔石確保の依頼をだそうか。
「ではこちらの4種類の依頼内容を受理します。大角山羊は革製品に良く使われる魔物なので、魔石も比較的早く手に入ると思います。他の3種は時間が掛かるでしょう。個別に揃った段階で連絡させていただきます」
火山だったり深い海の底だったり、なかなか行き辛い環境だから仕方ないよね。
俺とは別にソゾンさんも3つずつ注文する。
もし3個だけ納品されたら、俺の依頼の方を優先するように設定してくれた。俺が冒険者だったら両方の依頼を同時にこなすけどね。
これで後は連絡待ち。なるべく早くマチューさんと連絡取れればいいな。
今回も依頼が掲示されたのを確認してギルドを出ようとした時、あまり聞きたくないよく通る声が耳に届いた。
「よし、今月はこの大角山羊にしよう。エルが欲しがってる魔物革も取れるし、ちょうどいいな」
俺は振り向かずにギルドを出た。
また夜にでもマルテが休みを貰いに来るだろう。なんだかんだマルテは優しいからな。ジークさんが早めに仕事を休めるといいけど。




