第30話 俺は五属性の考え方を提案する
爺さん達へのフライヤーの納品は終わり、エマさんへの誕生日プレセントも間に合った。
俺はトースターを少し改良しただけだが、姉さんは食洗機を完成させた。
細かい作業に苛立った姉さんは魔石を5つ用意。そのうち3つの魔石がそれぞれ個別に水流を発生させる。それによって複雑な水流が生まれ、食器の汚れを残さず落とす事に成功した。
一定時間水が流れた後は1つの魔石が温風を生み出し、食器を乾燥させる。
食器を傷つけることなく綺麗なお皿を取り出せた時の姉さんは充実した顔をしていた。
ただ試行回数が少ないから、もしかしたら何回も使用することで傷がつくかもしれない。塗装やメッキがはがれるかもしれない。酷い油汚れは落ち切らないかもしれない。
一応その辺りの問題点をエマさんの両親には伝えた。高価な食器は使ってないから大丈夫だよと言ってもらえたが、定期的に様子を聞いてアフターケアをしないとね。
この食洗機で画期的だったことの1つに、魔力の分割がある。
複数の魔石を1つの魔導具に使うときは1つ1つに魔力を注入していくことになるが、姉さんはそれを改善することに成功した。
中央に置いた1つの魔石に魔力を注ぐだけで、4つの魔石に魔力を効率的に分割してくれる。まだ俺が作ったことない機能を考えた姉さんは、意外と才能が有るのかもしれない。
まあ普通は大きな魔石に言語を入れ込んで複数魔石を使わないようにするんじゃがな、とソゾンさんが言っていたのは姉さんに内緒だ。
あとデメリットとしては魔石を5つも使うから高価になってしまう所だ。魔石も手に入り辛くなる。
完成したのが嬉しい姉さんはエマさんの他にも知り合いに送ろうとしていたが、3台作った所で魔石の入荷待ちとなった。ならば自分で取りに行くと飛び出そうとした姉さんを何とか皆で抑え込んだんだ。
結局は母さんが同行し、魔石を確保してくる事になった。
姉さんと一緒に旅が出来ると母さんは喜び、父さんは同行できないことを残念がっていた。俺は邪魔になるからと固辞したけど。
今回の標的は海の魔物、快速ガザミ。浅瀬の砂地を縦横無尽に走り回っているらしい。蟹って隠れながら暮らしているもんだと思ってたよ。
普段は魚人族が漁のついでに捕獲するらしい。ガザミは食べないのかな。
親方曰く身が少ないがスープに入れると美味しいらしいと姉さんが出発前に教えてくれた。いつのまにガザミの事を聞いて来たんだろう。
「魔物と一纏めにしているが色々いる。魔法を使う動物、魔法を使う植物、魔法を使う無機生物等、魔物はそう言った分類が出来る。我々が家畜化している動物は魔法を使うのが下手な動物が選ばれたんじゃよ。そして美味い動物の中には魔法が得意な奴、つまり魔物がいるわけじゃな。この間の熱帯土竜は肉が硬くて不味いぞ。あと儂は口にしたこと無いが、ゴブリン族は臭みが強くて食べられないらしい」
俺の知恵袋、ソゾンさんが追加で教えてくれた。
魔法を使う動物か。って事は人やドワーフも魔物なんだな。
「そういうことじゃな。似た様な生物でも魔法が得意な種とそうでない種がおる。どうしてそうなっているのかは分からん。神のみぞ知るということじゃな」
なんとなく、魔法が得意な生物はマギー様が、そうじゃない生物はシュバルト様が担当している気がする。明らかに魔法が得意な方が強くて他を淘汰しそうだけど、魔法を使わない動物が生き残っているのは、神が操作してるんじゃないかな。
「で、ゲオルグ。見せたいものというのはなんじゃ?」
そうそう、今日は美味しい魔物についての雑談をしに来たんじゃないんだ。
俺は鞄から数枚の紙を取り出し、ソゾンさんに手渡す。
それにざっと目を通したソゾンさんが唸った。一緒に来ていたマリーも紙を覗いている。
「これは、魔法を吸収するためのドワーフ言語か。いつのまにこんなに多くの言語を考えたんじゃ」
「毎日コツコツと考えてました。姉さんが食洗機に使った言語も参考にしています。姉さんが魔物狩りに出発して時間が出来たんで一気に書き上げたんです。魔吸に使われている言語と比べてどうですか?」
「悪くない。少し手直しをしたら実用化出来るじゃろう。しかしこれは、魔法を5種類に分けておるのか」
「そうですね、木火土金水の5種類です」
「金属魔法は土の派生じゃろ。それに草木魔法を入れて風魔法を省く理由は何じゃ?」
「俺の考えでは、風は火魔法の派生です。それと氷結は水魔法の派生。まあ火水風土の考えとは異なりますが、こっちも悪くないと思いますよ」
「なるほど。魔吸に用いられている言語では四属性を基本にしている。火を吸収すると土、土から水、水から風、風から火を生み出すのが魔吸じゃ。派生として土から金属、水から氷じゃ。魔吸が作られるずっと前から考えられている魔法の関係性を基にしておる。ゲオルグの考える五属性は広まらないと思うぞ」
そうかもしれない。でもこの考えは間違っていないと俺は確信している。




