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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第3章 俺は魔力試験に挑む
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第28話 俺は夕飯のおかずを姉に差し出す

 6月が終わるころ、ようやくマルテ達が帰って来た。

 想定よりは少し時間が掛かったけど、依頼期限には間に合ったね。

 玄関で皆を出迎える。大きな怪我をしている様子も無くてほっとする。


「おかえり、楽しかった?」


「まあまあですね。水筒がとても役に立ちました。ありがとうございます」


「ゲオルグ君すまない、アリー殿は居るか?」


 マルテとの会話を遮って、ラインハルトさんが割り込んできた。アリー、殿?


「もうすぐ夕飯だから、部屋でゆっくりしてると思いますが」


「分かった、では庭に呼んで来てくれ」


 そういうとラインハルトさんは出て行った。他の4人もそれについて行く。あ、ジークさんも行くのね。


 1人残ったマルテにどういうことか質問する。


「この前アリー様に負けたのを気にしてるんですよ。この旅での修行で少し自信をつけたんだと思います」


 リベンジしたいってことか。伯爵の息子が男爵の娘に負けっぱなしではプライドが傷つくよね。大分年下だし。


「姉さんに勝てるくらい強くなったの?」


「それは見てのお楽しみということで」


 そう言ってマルテは微笑んだ。




「お腹空いたからヤダ」


 自室のベットでゴロゴロしている姉さんに事情を説明すると断られた。


「お風呂にも入ったし、今日はもう働かない」


 エマさんへのプレゼント製作の為に最近はずっと頭を使ってるからね。慣れないことをやっているので疲れやすいのかもしれない。

 エマさんの誕生日も近づいてきて、上手く行かないイライラが募っているのは最近の行動でよく分かる。


「上手く行かない時は気分転換をした方がいい。考え過ぎは良くないし、運動すると頭がスッキリすると思うよ」


 渋る姉さんを何とか説得して部屋から連れ出した。最終的に夕飯のおかずを少し渡すことになってしまったけど。


「アリー殿先日の雪辱を果たさせてもらおう。さあ庭に出て勝負だ」


 庭を見渡せる廊下にやって来た姉さんを見て、ラインハルトさんが声を荒げた。前のめりになり積極的な姿勢を見せている。それに対して姉さんは。


「ヤダ」


 と、消極的な態度だ。

 肩透かしを食らったラインハルトさんはイラついた態度を隠さない。


「姉さんと戦ったら気が済むんだから、相手をしてあげてよ」


「おかずをもう少しくれたら考える」


 そうなると俺の夕飯が無くなるんだけど。そこまでラインハルトさんに肩入れする必要はないよな。よし、ラインハルトさんには諦めてもらおう。


「私のおかずを渡します。あまり弟を虐めないでください」


 俺が断る前にアンナさんが行動に出た。アンナさんの提案に、姉さんは嫌々了承する。

 あえて断る流れにしようとしてたのにって感じかな。俺ももう断っていいかなと思ってたよ。


「面倒だから、5人纏めて掛かってきなさい」


「なっ」


 庭に降りた姉さんが放った言葉を聞いて、ラインハルトさんが絶句した。

 姉さんのぶっきらぼうな声を聞いたジークさんとマルテは、5人からササッと距離を取る。5人の後ろに立っていたから彼らは2人の行動に気付いていない。


「かかって来ないなら、こっちから行くよ」


 姉さんの宣言を聞いても5人は動き出さない。彼らと違いアンナさんは1歩前進し、俺を庇うような立ち位置に移動する。

 え、守ってもらわなきゃ行けないくらいの魔法なの?


 姉さんの体から前方に向けて勢いよく水が噴き出す。

 噴出した水は3本の水流に分かれ、5人の周囲をグルグルと取り囲む。

 囲まれたことでようやく動き出した5人は、混乱しているのか各々別の魔法を使って防御しようとしている。もう少し力を合わせて対応するべきじゃないだろうか。


「ここからが本番」


 取り囲んでいる3本の水流から、中央の5人に向けて水球が放たれる。

 武闘大会で観客席からマルテに火球が放たれたように、タイミングをずらしながら大小様々な水球が5人を襲う。


 エルヴィンさんは防御用に作った土壁で防いでいるが、大きく削られた土壁を修復するのに魔力を消費させられ、反撃に出られない。

 それは他の4人も同じで、自分の身を守るのに手一杯な状況。


 水球の攻撃は止む事なく続き、連携の甘い防御の隙間が狙われる。

 隙間を通過するのは小さな水球でダメージは少ないだろうが、魔力的にも精神的にもじわじわと5人が疲弊していく。


「あと3本追加するよ」


 水流がどんどん細くなり、ようやく攻撃が収まるかと思ったその時、姉さんが追加をすると言い放った。

 それを聞いたラインハルトさんが動き出す。


「そうはさせない」


 防御の手を止め空高くジャンプ、そのまま空中でバランスを崩しながらも何とか静止した。

 水流の輪から抜け出し、姉さんの行動を阻害しようと火魔法の準備をしている。


「ああ、それは悪手です」


 アンナさんがそう漏らした途端、大きな水球が直撃してラインハルトさんは吹き飛ばされた。

 飛ばされたラインハルトさんをジークさんが素早くキャッチする。壁や地面への激突は避けられたが気を失っているようだ。


「はい、1人終わり。まだやるの?」


 5人の上空はポッカリと開いていたもんね。明らかに罠でしょ。

 ラインハルトさんが離脱したことで、何とか耐えていた防御姿勢も崩れ始めた。

 ヴィルマさんを庇ったヴェルナーさんが倒れた所で終了。

 5人は大きな怪我は無いが全身びしょ濡れになっていた。


「水流を土魔法で完璧に防ぐか、水魔法で相殺するか、アリー様と同等の飛行技術が無ければ相手になりませんね」


 アンナさんはそう分析する。せめて5人で協力していれば違う結果になっただろうと思う。


 戦い終わった4人はマルテに指導されている。ラインハルトさんはまだ起きていない。

 玄関でのマルテの発言は何だったんだろう。姉さんに全く歯が立たなかったけど、あれで良かったのかな?

 自信がありそうだったから夕飯のおかずを持ち出したのに。食べ盛りの子供のおかずを返せ。


 マルテの行動に首を傾げていると、姉さんが近づいて来た。


「この魔法を食器洗いに応用したいんだけど、どう思う?」


 戦いながらエマさんへのプレゼントの事を考えていたのか。余裕過ぎて5人が可哀想になる。

 とりあえず威力を抑えないと食器が傷つくんじゃないかな。

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