第27話 俺はドワーフ言語を皆に教える
マルテ達の出発を見送ってから数日、俺はフライヤーに使う言語を更に改良しながら、ドワーフ言語の勉強会を行っていた。
参加者は、ソゾンさん、マリー、姉さん、そしてアンナさんの4人。姉さんはともかくアンナさんが参加するとは思わなかった。
「アリー様が出来る事は私も出来ないと、手綱を握れなくなりますので」
なるほど、そういうことか。
いつまでも姉さんについて行こうとするアンナさんには頭が下がる。アンナさんじゃなかったら姉さんはここまで成長しなかったんじゃないだろうか。ついて行けないならきっと引き止めちゃうよね。
「ねえゲオルグ。この文で風の刃が沢山出るようになるかな」
姉さんが紙に書いた言語を見せてくる。
皆が考えた文章の間違いを指摘するのが俺の仕事だ。俺には思い付かない構成が見られて、案外楽しい。
「これだと大きな刃が1つ出るだけです。そうですよねゲオルグ様」
俺が確認するよりも早くアンナさんが間違いを指摘した。
アンナさんの成長が著しい。あっという間に追い抜かれそうだ。
「長文じゃなくて短文をいっぱい用意する方が、上手く行きやすいですよ」
マリーも言語を良く理解していて、姉さんに助言できるほどだ。
「わかった、ありがとう。もう一回考えてみるよ」
勉強会を始めるにあたって俺は新しくドワーフ言語の本を作成した。本と言っても数枚の紙を束ねただけの物だが。
作成した本を見ながら、姉さんは張り切って作業を進めている。時間が無くて1冊しか用意できなかったんだから、独り占めしないでね。
「魔導具に何をさせる為の言語なのか聞いてもいい?」
姉さんが張り切っている時はだいたい悪巧みをしている時だと俺は経験的に知っている。
「そろそろエマの誕生日だから調理器具を渡そうと思って。エマが来年入学するとお店を手伝える人が少なくなるからね。水魔法を使って食器を洗ってくれる魔導具か、風魔法を使って野菜を切ってくれる魔導具を考えてて、今は野菜を切る方の言語を作ってるんだよ」
ごめんなさい。悪巧みかと思ってすみませんでした。
なんで頭を下げてるのと姉さんに言われたが、周りの皆は俺が謝罪している理由を察しているようで笑っていた。
「ソゾンさん、魔吸の魔石に使われている言語の内容って分かりますか?」
姉さんやマリーが自分の作業に没頭している間に、俺はソゾンさんに武闘大会以来気になっていた事を質問した。
「そりゃ分からんと整備出来んから知っとるが、それを聞いてどうするんじゃ?」
「実は来年の魔力検査に向けて魔導具を作りたいんです。それで俺が考えている魔導具は魔吸の言語を基にしたら上手く行くんじゃないかと思いまして」
「あれは危険な魔剣じゃ。似た様なものを量産されては困る」
「武器を作ろうとしている訳じゃないんです。なんというか、俺の考えを形にする道具というか、表現する為に必要な物というか。とにかく危険な物は作りません」
「ねえねえ、何を作るの?」
ソゾンさんを説得しようとする俺に姉さんが飛びついて来た。
タタラを踏んで何とか堪え、危ないよと姉さんに抗議する。
「そんなに大きな声で話をしていたらアリー様じゃなくても気になりますよ」
アンナさんの言葉にマリーが首肯する。そんなに大声出てた?
「で、何作るの?」
白状しなさいと迫って来る姉さん。顔が近いよ。
「まだ構想の段階で出来るかどうかも分からないから教えないよ。それより俺もエマさんの誕生日に何か渡そうかな」
「私は誕生日に何も貰ってないよ」
「今回のは誕生日と来年の入学祝いを兼ねた物だから、2月の姉さんの誕生日には何か考えるよ」
去年の誕生祭の後、エマさんにフライヤーを渡した事は黙っていよう。まああれは個人的な物じゃなくて男爵家からエマ家にって感じだったしね。
2月に貰えると聞いて満足したのか、約束だよと言う言葉を残して姉さんは作業に戻った。
強硬派の姉さんが引いたのを見て、アンナさんとマリーも離れて行く。
「ゲオルグにはまだ早い」
ソゾンさんは魔吸の言語を教えてくれないようだ。まだ、か。
仕方ない。フライヤー用の言語を改良しながら、エマさんへのプレゼントを考えよう。
手っ取り早く済ますならトースターだよな。
他に考えつかないからトースターにしよう。
勉強会の為に用意してもらった魔石を手に取り、言語を入れ込んでいく。姉さんとアンナさんが俺の手元に集中する。見られていると緊張して手元がぶれそうだ。
マリーには魔道具本体の製作をお願いする。勉強の手を止めてごめんね。
プレゼント用なら、とマリーがソゾンさんにガラス製造を託した。気を使わせてごめん。
完成したトースターを見て姉さんから質問が飛ぶ。あれ、見せた事無かったっけ。
トースターの説明をする。今回の物は下部ヒーターの下に受け皿を用意した。パン屑なんかを回収して掃除しやすくなるようにね。
「面白いけど、火魔法で炙ればすぐじゃない?」
「慣れた人でも長時間一定の温度で加熱するのは難しいですよ。この魔導具はそれを勝手にやってくれる訳ですから便利ですね。それに火魔法を苦手とするドワーフ、獣人、魚人族には喜ばれるでしょうね」
「なるほど。ゲオルグは面白い物を考えるよね。私も負けてられないよ」
そう姉さんは意気込むが、食洗機やスライサーを自ら思い付くのは凄いと思う。姉さんがどうやってそれらを作るのか楽しみだ。




