第6話 俺は文字を勉強する
うん、だいぶ身体が慣れて、しっかり歩けるようになってきた。まだ走れないけど今はこれで十分。
最近の俺のお気に入りは応接室。姉さんの絵画を見つけた場所。まだ1人じゃドアノブに手が届かないからマルテも一緒。あの時とは違って歩きだけど。そしてあの時は気づかなかったけど、この部屋には時計とカレンダーがあった。
時計もカレンダーも、文字は違うけど、構造は地球と一緒だ。12進法で刻まれるアナログ時計。7日で1週間のカレンダーが12ヶ月。神さまが敢えて同じ様な環境を作ったのかな。
そのカレンダーによると今は12月。もうすぐ新しい年になる。俺は1歳7ヶ月か。これからどんな風に発育していくのか、カレンダーを見ながら想像している。
でもこのカレンダー、12月で終わりなんだよな。早く新しいカレンダー買わないかな。
この部屋には他にも、分厚い本が並ぶ本棚や立派な観葉植物、寒くなって火がつけられるようになった暖炉などがある。
パチパチと音を立てながら薪が燃えていくのを見るのは、なんだか落ち着く。自分の部屋にも暖房器具はあるんだけど、あれは薪じゃない。構造はよく分かんないんだけど多分魔法で暖める奴だ。特に見ていて面白い物ではない。
ここにある本は分厚く文字ばかり。応接間に通い始めた時にマルテに読んでもらったけど、全く内容が頭に入ってこなかった。
そろそろ文字の勉強をしたいんだけど、と思っているとマルテがどこからか絵本を数冊持ってきた。ちょっとボロくなっている本、姉さんのお古かな。ページを開くと右側に文字、左側に絵が描かれている。
絵は手書きかな?デフォルメされた人や動物が可愛い。文字は手書きじゃ無いね、活版印刷的な物が存在するんだと思う。まあ地球には古くから活版印刷あるから、昔の転生者によって伝播した可能性はあるし、もしかしたら独自に開発したのかもしれない。
部屋に置かれているソファーに、マルテ、マリーと3人並んで座り、絵本を読んでもらう。ソファーに置かれているクッションもフカフカ。暖炉でポカポカ。
立派な客間なんだけど、俺がここに通うようになって、誰かがここを使っている様子がない。この家は客が来ないんだろうか。
基本的に両親が家に居ないからね。2人とも休みが不定期みたいだし、日中は不在なんだから用があったら仕事場に行くか。父さんは毎晩帰ってくるけど、母さんはたまに1週間くらい帰ってこないんだよね。なんの仕事してるんだろう。
日中不在といえば、最近は姉さんも不在がち。俺たちが見ていた絵本がキッカケっぽかったけど、どこに行ってるんだろう。
絵本は剣を振るう勇者の物語。どの辺りが琴線に触れたのか。姉さんに剣は似合わないと思うけど。
年が明けて春になった。そろそろ2歳の誕生日。
もう歩くのに不自由しなくなった。ジャンプも出来るぞ。次は走る練習だ。いっぱい運動して体力つけないと。筋トレはまだ早いと思う、まずは持久力だよね。前世よりも弱い身体みたいだけど、前世よりも強い肉体を目指そうと思う。
舌もよく動くようになって二言は喋れるようになった。最近はマリーと2人で「これ、なに?」を連発している。
答えてくれるマルテには申し訳ないけど、そうやって言葉を覚えていくんだ。
家にあるものはなんでも聞いた。庭に出て植わっている木や生えている雑草も。もっと外へ行きたかったけど、門番は敷地内から出してくれなかった。外に出ればもっと色々あると思うのになぁ。
マルテ以外の大人も大体協力してくれたけど、コックさんは嫌がっていた。離乳食が終わり、食堂でみんなと一緒に食べるようになった。出てくる料理、何でもかんでも質問した。料理名から素材の名前まで、料理が冷めるのも構わず。そうしたら1週間もかからずに嫌そうな顔をし始めた。
姉さんはこんなことしなかったのかな。でもマリーも一緒になって聞いてるから、子供ってこんなもんじゃないの?
今はもう目新しい料理も食材も出てこない。多分曜日によって出す料理を決めてるよね?そんなんじゃ子供は飽きちゃうよ。
少なくとも前世の妹には嫌がられたな。そのおかげで料理のレパートリーは増えたけどね。
だけどそろそろ俺の誕生日。どうする?普段通りの食事で来るか?そうなったら食事をボイコットだな。
素直に新しい料理を出して来たら、美味しくいただこう。楽しい誕生日だからね。質問して困らせることはしないよ。
マリーはどうか分からないけど。




