第25話 俺は冒険者ギルドに依頼を出す
父さん達の再三に渡る通信の結果、姉さんが爺さんに頼まれた仕事はそのまま受ける事になり、ヴルツェルに合計30台のフライヤーを販売することになった。もちろん東方伯も30台に増加。
期限は7月頭まで。約45日で60台。ソゾンさんなら楽勝だろう。
「追加発注の20台はゲオルグ達で作るんじゃ」
話し合いが終わった父さんにくっついてソゾンさんの所へ追加依頼をしに行くとそう言われた。
「去年の誕生祭の時に作り方は見てたじゃろ。同じ製品を間違えずに何度も作るのはいい経験になるぞ」
「分かりました、やってみます」
「フライヤーに使う魔石の言語はゲオルグが組み直せ。儂もそれを使う」
「え、前回と同じように作ろうと思っていたんですが」
「残念ながらこの時期にあの魔石はなかなか手に入らない。魔物が巣穴に閉じ籠っている季節じゃからな。数が必要だから魔石は手に入りやすい物に変える。魔石が変わると言語も変える必要がある。折角じゃから効率の良い言語にしたい。そういうのはゲオルグの方が得意じゃろ。よろしく頼む」
得意というかまだ研究中なんだけど。
6歳の子供に期待しすぎじゃないだろうか。船外機を皆で作った時よりよっぽど重圧がかかる。
「そんな暗い顔をするな。アリーは6歳の時点で4種の魔法を使えたんじゃろ。ゲオルグもやれば出来る。もしダメでも60台くらい3日あれば儂1人で作れる。気負わずにゆっくり頑張れ」
「ありがとうございます。とりあえず魔石を買って練習します」
「今から買いに行くなら儂もついて行こう。20個の魔石を追加で注文しないとな」
ソゾンさんはもう既に40個分の魔石を冒険者ギルドに依頼しているらしい。
40個なんて纏まった数は急には手に入らないから、大量受注が決まったら直ぐに依頼を出せよと教えられた。
60個丁度だと失敗出来ない。心配だから俺が個人で少し注文しよう。
用事があるからという父さんに見送られて、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
「では熱帯土竜の魔石、中型の大きさの物を20個ですね。午前中に依頼された40個分は既に受理されていますから、20個分は別の依頼として掲示しておきます。それから、同じ魔石を5個ですね。こちらも依頼主が異なるので別の依頼をして掲示しますね」
初めて依頼を出したけど、ドキドキするね。ちゃんと魔石が届くといいんだけど。
依頼の行方がどうなるのか気になるから、少し様子を見て行こう。
暫くすると俺達の依頼を聞いた受付嬢さんが書類を持って立ち上がり、奥の男性に提出。
その男性が許可を出した後、受付の横にある掲示板にその書類が貼り出された。
依頼内容と期限、報酬、依頼者名もしっかり書かれている。依頼者名に本名が乗るのは恥ずかしいから、ちょっとした偽名を使っているけど。
「熱帯土竜ってどの辺りにいるんですか?」
貼り出された依頼書を見て気が済んだからギルドを出ようとしたら、聞いたことのある声が聞こえた。
「熱帯土竜は炭鉱都市エルツ以南の山地に生息しています。割と素早く土魔法が得意な魔物なので、初心者の方にはお勧め出来ませんよ」
「大丈夫です。依頼期限までには間に合わせます」
「依頼期限を超過したら報酬の倍額の違約金を支払う必要があります。違約金を支払える手持ちはありますか?」
受付嬢と話をしているのは俺の部下だ。マルテが一緒じゃないから、今日は休日なのかな。
5人であの依頼を受けるんだろうか。魔石が手に入るのなら誰が受けてもいいけど、期限はしっかり守ってほしい。
休日の行動は自由だと思うから、声をかけずに退散しよう。
後でマルテにどうなったのか聞いてみるか。
「私はその事について聞いていませんね。依頼を受ける許可も出していません。戻ってきたら問い詰めます」
鍛冶屋に戻るとマルテが来ていた。父さんの代わりに俺を迎えに来てくれたらしい。
冒険者ギルドで見た事を伝えたら憤慨してしまった。でも言わないわけにはいかないよね。
「ま、まあ偶には気分転換してもらわないと」
「気分転換は良いんですが、出来ない依頼を受けるのはダメでしょう。それに熱帯土竜は彼らには無理です」
「受付のお姉さんも初心者には難しいって言ってたけど、どんな魔物なの?」
「名前の通り暑い土地に住むモグラなんですが、日中は土の中、夜に地表に出て来ます。坑道内で偶に見かける魔物ですが、あまり攻撃的な性格じゃなく、近づくと土魔法を利用して素早く逃げます。彼らでは捕まえられないでしょう」
「マルテは見た事あるの?」
「私も昔は冒険者として登録していたので」
へえ、知らなかったな。
「どうやって討伐するの?」
「まず土魔法を使って土中のモグラを探知し、地表に引っ張り出します。逃げ出す前に素早く攻撃するんですが、熱帯土竜は火魔法と土魔法に耐性があるので注意が必要です。剣などの物理で攻撃するか、苦手な水魔法を使って弱らせる方法が有効です。アリー様やマリーなら問題なく討伐できるでしょうね」
「ねえマルテ。もしエルヴィンさん達が依頼を受けたいって言って来たら、断らずについて行ってあげてよ」
「分かりました、もし話を持って来たら考えます」
さて、これで魔石が手に入らないって事はないよね。
フライヤーに使うドワーフ言語を考えながら、魔石の到着を待とう。




