第20話 俺は姉の行動に賛成する
姉さんがラインハルトさん達をボコボコにしたという話を聞いたので、ちょっと様子を見に行こうか。
「あの、アリー様というのは」
応接室を出て廊下を歩いていると、後ろをついて来ているエルヴィンさんが話しかけてきた。
「アリーは姉です。アレクサンドラ・フリーグ。来年学校に入学する予定の女の子ですよ」
「確か魔力検査で歴代1位なんだよね」
エルヴィンさんを追い越して、レベッカさんが会話に混ざって来た。
「よくご存知ですね。ちょっと腕白な所はありますが、自慢の姉なんですよ」
「アリーちゃんが1位になった時、キュステは凄い騒ぎだったらしいよ」
さすが東方伯。姉さんのことを愛しすぎて困る。ヴィルマさんもきっと姉さんみたいな愛され方なのかな。
そんな感じで雑談していると、庭の様子が見えてきた。
「なに、あれ」
楽しそうにキュステの街並みについて話してくれていたレベッカさんが、庭を見渡して絶句した。
ああ、随分と派手にやったもんだ。
庭には巨大な土の塔が屹立していた。周囲の家屋より少し高いくらいか、また目立ってしまう。
その塔の下では姉さんが腕を組んで仁王立ちし、塔の中腹を睨みつけている。
姉さんの視線の先を目で追うと、ラインハルトさんとヴェルナーさんが塔から顔を出していた。
「ラインと、ヴェルが、土に呑み込まれている」
「ヴィルマはどこ」
エルヴィンさんが驚愕の声を漏らし、レベッカさんは友人の心配をする。
確かに、ヴィルマさんの姿が見えない。
「ヴィルマさんは汚れてしまったのでマリーと湯船に浸かっています。服も綺麗にしていますのでご心配なく」
急に登場したアンナさんがレベッカさんに安心するよう言葉をかける。衣服の心配は特にしてなかったと思うけど。
「アンナさん、2人が混乱しているようなので、この状況を説明してもらえますか?」
了解しましたとアンナさんが話を始める。
「庭でアリー様とマリーが氷魔法の練習をしている所に、メイドに連れられた3人が庭に現れた事が始まりです」
しまった。メイドさんに誰か他の人が居たら別の所へ行くよう指示しておくべきだった。
「3人のうち1人がマリーに向かって暴言を口にしたんです。庭にやって来た時から機嫌が悪そうでしたね。マリーは気にしていませんでしたが、隣に居たアリー様が反発していました」
「そこで姉さんを止めてくれれば良かったのに」
「私が動き出す前に残りの2人が止めに入ったので静観しました。子供の喧嘩に大人が手を出すのは良くないかなとも思いますし」
「子供って言っても相手は学校を卒業したばかりだから15歳過ぎ。姉さんとは6つも離れてるよ」
高校生と小学生の喧嘩なら止めに入るべきだよね。
「ははは、あんな語彙でしか人を罵れないなんて子供ですよ。アリー様の方が多彩な悪口を放って来ますよ」
そういう判断基準なの?
あそこで仁王立ちしている姉さんの方が絶対子供っぽいけど。
「まあそれで静観していた所、男の子2人の言い合いが白熱して喧嘩に発展したんです。仲裁に入ったヴィルマさんを含めて揉みあいになった末、ヴィルマさんが押されて地面に倒れました。ちょうどアリー様達が氷魔法を練習していた辺りで地面が濡れていて、泥だらけに」
2人の喧嘩なんてほっとけばいいのに、とレベッカさんが独りごちた。
「ヴィルマさんに手を差し伸べず、お前が押した、いやお前のせいだと言い合う2人にアリー様が怒って、参戦しました。ヴィルマさんはマリーが助け起こしそのままお風呂へ。先ほど様子を見て来ましたが仲良く体を洗い合っていましたよ」
洗い合っていると聞いたレベッカさんが、いいなぁ、とぽろっと溢す。
え、レベッカさんはそっちの人?
俺の視線に気づいたレベッカさんは違う違うと訂正するが、別に俺はそういうタイプの人を否定するつもりは無いから。
「後はだいたい分かると思いますが、2人がかりでもアリー様の相手になりませんでした。魔法の腕もそうですが、戦闘時の駆け引きがなってないですね。最近の学校ではそういう所は教えてくれないんでしょうか?」
王都の学校も質が落ちて来てるんですね、とアンナさんが続けた。
エルヴィンさんが頭を抱えている。就学前の子供に負けたなんて噂が広がったら、冒険者としては仕事し辛くなるだろうね。
「姉さん、そろそろ2人を解放して欲しいんだけど」
どんと構えて一向に動こうとしない姉さんに声をかける。
「マリーとお姉さんが帰って来るまでダメ。2人に謝罪しないと降ろさないから」
ああなったらテコでも動かないな。仕方ない、お風呂上りをゆっくり待とうか。悪いのは喧嘩を始めた2人なんだから。
アンナさんと姉さんに、エルヴィンさんとレベッカさんを紹介する。塔から顔だけ出している2人の名前も教えておく。
ラインハルトさんは大人しくしているが、ヴェルナーさんは反省した様子もなく騒いでいる。
ヴェルナーさんのせいで状況はどんどん悪化しているんだけど、分かっているのかな。
分かってやっている可能性は十分あるか。




