第5話 俺は草木魔法の距離感を調べる
ルトガーさんには怒られたが、あと1種魔法は残っている。
ルトガーさんはもう行ったし、草木魔法を試してみようかな。
「ゲオルグ様、なにやってんの?」
姉さんが残して行った袋から南瓜の種を取り出し、一粒ずつ地面に並べている俺を見てマリーが疑問に思ったらしい。
「こうやって等間隔に並べておいて離れた所から魔法を使うと、魔法に反応する種としない種が出てくるでしょ。その境目までの距離が、魔法が届く範囲だよね。大まかにでも魔法が届く距離を知っておきたいんだよ」
なるほどと言ってマリーが納得する。
間違ってないよね。後は姉さんが余計なことをしていないと信じよう。
20粒ほど俺の普通の歩幅に合わせて並べた所で、マリーにも一粒持たせる。
「これをもってぐるぐると歩いてみて。動いている種にも反応するか知りたいんだ。種が反応したら、種が飛び出すまで動きを止めないでね」
よし、これで準備はいいかな。
並べた種から10歩離れ、土人形に向かって短剣を構える。並べた種は俺の左側だ。
「そうだ。この辺りの地面に他の種が植わってないか調べてくれない?」
マリーが了解し、土魔法を発動する。
よかった、他の種は無かったようだ。
それでは、マリーに動き出してもらおう。ただし並べた種より向こうには行かないように。
「呪縛」
短剣の宝石から魔法が周囲に拡散する。
俺が剣で示した土人形に向かって、周囲の植物が伸びていく。
左手から伸びる植物は11本、右手後方からもう1本。マリーが持っている種も反応してくれたようだ。
合計12本の蔓と根っこに雁字搦めにされた土人形が哀れだね。
マリーに頼んで解放してもらおう。
「マリー、あの南瓜達と土人形、それから奥の土壁の処理をお願い」
俺は自分が立っている所に印を付ける。
ええっと、種から10歩離れて、反応した植物が11本だから、反応していない種までは22歩だな。
歩数を数えながら残された種に向かって歩いて行く。
よし、丁度22歩。種を回収し、ここにも印をつけておく。
一歩戻って21歩目、ここにも印だな。後は残りの種を回収する。
「終わったよ」
俺が種を回収し終えた所で、マリーも作業が終わったと伝えてきた。
「ありがとう。相変わらず見事な土魔法だね」
土人形も土壁も綺麗さっぱり無くなっている。南瓜はまた花壇近くに移動させたんだろう。
「ついでに印をつけた3か所を目立つようにしてくれない?」
「分かった、ちょっとだけ地面を盛り上げておくね」
マリーがちょちょいと土魔法を使って地面を盛り上げる。つまずいて転ばないようになだらかになっているのが素晴らしい配慮だ。
魔法を使った所に立って、種を置いていた2か所を見下ろす。
改めて見ると割と距離があるな。
しっかり距離感を覚えておけば何かの役に立つだろう。
これで3種の魔法は試し終わった。
火魔法は火力を抑えるよう姉さんに言わないとな。
草木魔法の方はこのままでいい。音も無く静かに狙った獲物を捕縛する。良い魔法だ。
よし、これからソゾンさんの所に行って、剣帯の事をお願いしてこよう。
ソゾンさんの所へはマリーとマルテがついて来てくれた。
マルテはもう姉さんから火魔法の言霊を習ったらしい。
もう試してみたのかと聞いたら、まだだと返って来た。
「危ない魔法だから使わない方が良いよ。俺の剣に込めてもらう魔法はまた別の物を用意してもらうから」
業火と炎壁は危険だから封印しよう。アンナさんにも伝えないとな。
「こんにちは、ソゾンさん居ますか」
鍛冶屋の受付に座っていたヤーナさんに挨拶をする。
「工房でアリーちゃんと一緒に遊んでるわよ」
姉さんのせいで遊んでると言われるなんて、すみませんソゾンさん。
「剣を腰に吊るすための剣帯が欲しいんですけど、ソゾンさんはそういうの作れますか?」
何度もこの鍛冶屋に来てるけど、ざっと見た感じ剣帯は売ってないんだよな。
剣帯は鍛冶屋の領分じゃないんだろうか。それなら作ってくれる場所を教えてもらいたい。
「作れるわよ。注文を受けてからその人の体格に合わせて作るの。だから売り場には置いてないのよ」
なるほど、オーダーメイドか。剣帯なんてそうそう頻繁に売れるもんじゃないだろうしな。
「それって子供の時に作ったら、どれくらいの期間使えるんですか?」
「革で作るから大事に使っても10年くらいかね。あとはゲオルグ君の成長次第。革に出来た傷は手直し出来るけど、帯の長さが足りなくなったら付け足せないからね」
まあ5年目くらいに買い替えるつもりでいようかな。
「でもねぇ。私はゲオルグ君が剣帯を付けるのは反対よ」
「え、どうしてですか?」
「成長期に重しを付けておくみたいな物だから。いくら軽く作った剣だと言ってもずっと身に着けていたら骨格の成長に影響が出るのよ」
そういえば前世でも小学生の時に、重い荷物を同じ手でずっと持つなって言われたな。どうしても利き手ってあるからそっちで持っちゃうよね。
「そっかぁ。剣を持ち運ぶのは諦めた方がいいか」
「偶にならいいんじゃろ。誕生日祝いに作ってやるぞ」
そう言って奥の工房からソゾンさんと姉さんが現れた。
何となく姉さんが胸を張っているように見える。
アンナさんにも話があるんだけど、今日も家事手伝いだなきっと。




