第4話 俺は姉の魔法で怒られる
マリーの後について食堂へ向かう。鞘に納めた剣も持って行く。
「貰った魔導具の試し撃ちをしてたの?」
「そうだよ。業火の威力に震えてたところ。マリーも火魔法なら込められるんだよね?」
「うん。アリー様に教えてもらったから。思ったより巨力な魔法だから気を付けて使ってね」
それはもっと早く教えて欲しかった。
「もう一つがどんな感じに強化されてるのか教えて欲しいんだけど」
「うーん。アリー様に黙っているよう止められているから、ダメ」
姉さん、そんなに俺を驚かせたいのか。ぶれない人だな。
昼食は普段と変わらない感じだった。
俺はマリーと会話しながら昼食を終える。母さんや姉さんは何処かに出かけているらしい。
マリーと2人で庭に戻って、魔法の試し撃ちを再開する。
「ねえマリー、どうしてそんなに離れた所に居るの?」
俺が長剣を抜いて中段に構える土人形と対峙すると、マリーはささっと離れて行った。
「いいからいいから、気にしないで」
ものすごく気になる。明らかにこれから使う魔法を警戒して下がったよね。
遠くで手を振るマリーは近寄ってくる気配が無い。しょうがない、気にせず行こうか。
土人形へ向き直り、剣を構える。
「炎壁」
言霊に反応して小さな火球が作られたかと思ったら、業火と違い溜めの時間が無く射出された。
しかし1発じゃなくて5連発。タンタンタンと小気味よいリズムで発射され5発目が飛び出した瞬間、1発目の火球が空中で小爆発を起こした。何にも触れずに勝手に破裂した。数秒後に爆発を起こすような設定だったんだろう。
その小爆発目掛けて残りの4発も飛び込んでく。後発の火球が触れる度に爆発はどんどん大きくなる。爆発音は大きくないが発せられる閃光が凄い。5回目の爆発の時には目が開けられないくらいの強烈な閃光が発せられた。
「うわっ」
あまりの閃光に声が出てしまった。まともに閃光を見てしまって暫く目が開けられない。
数秒間目が眩んだ状態でもがいているとマリーから声が掛かった。
「凄い光だったね、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。炎の壁が出来る魔法をお願いしてたのに、これは話が違う」
以前見せてもらった時と全然違う魔法だ。姉さんが調子に乗って変更したんだと思う。
姉さんに騙された怒りと目が見えないイラつきを、ついマリーにぶつけてしまった。
「私もこの威力はやり過ぎだと思うけど、ちゃんとゲオルグ様の依頼も達成されているからね」
言ってる意味がよく分からない。これは明らかに閃光弾だろ。
マリーに手を引っ張られ、少し移動する。壁際まで移動し、地面に腰を下ろす。眩んだ目が改善するまで座っていろってことか。
ふう、ようやく目が慣れてきた。いったい何秒くらい視界を奪われていたんだろうか。
「ゲオルグ様、目が治ったら顔を上げて庭を見てみて」
マリーに促され、俯いていた視線を前に向ける。
「えっ」
視線の先には大きな炎の壁。俺と土人形の間には高さ2メートル、横幅3メートルほどの壁が立ちはだかっていた。
「なにあれ、マリーが作ったの?」
「ゲオルグ様が作ったんだよ。炎壁は地面から立ち上る炎で壁を作る魔法だから。家に燃え移りそうなところは消火したから、本当はもっと幅広い壁だったんだよ。」
「強力な閃光が出る魔法じゃなかったのか」
「小さな爆発を起こしながら横に向かって壁の元になる小さな火種を飛ばしてるんだ。で、最後の閃光がきっかけになって広がった火種から一気に炎が吹き出すんだよ」
なんでそんな分かりにくい構造にしたんだ。最初は火球が着弾したところから炎が吹き上がるだけだったのに。
「どうしてこういう魔法になったのかわからないけど、速射性と壁の継続性を考えた結果だって言ってたよ」
確かに業火と比べて出は早かった。業火は3秒弱の溜めがあったけど、炎壁は直ぐに1発目が発射された。
壁も未だに勢いが衰えない。俺が目を瞑っていた時間を考慮すると結構な時間維持されている。
「私もアリー様に王都外に連れて行ってもらって使用してみたけど、結構な魔力を持って行かれるんだよね。だから日に何回も魔導具に魔法を込めてあげることは出来ないよ」
いや、こんな魔法を何回も使う状況になったら困るよ。ちょっと姉さんと話し合わないとダメだな。
「いつまで壁が存在し続けるのか気になるけど、もう消火しようか。明らかに近所迷惑だから」
マリーと2人で協力して消化していると、執事のルトガーさんが現れた。
「周囲の貴族屋敷や冒険者ギルドから使いが来ています。凄い光が出てたけどどうした、庭に見える炎はなんだ、と聞かれましたがなんとか謝罪して帰ってもらいました。今後敷地内で派手な魔法を使うのは禁止にさせていただきます」
ルトガーさんに怒られてしまった。
俺が怒られるのは納得いかないが、ここは素直に謝っておこう。
あとで絶対姉さんに文句を言ってやる。




