第2話 俺は魔石の利用法を勉強する
ジークさんと別れて食堂に行くと丁度朝食の準備が出来た所だった。
「ゲオルグ、誕生日おめでとう」
既に食卓に座っていた両親から祝いの言葉を貰う。
こちらからも今まで育ててくれたことに対するお礼を伝え、食卓に付く。普段の朝食は昨晩食べた夕食の残り物だが、今日は少し豪華だ。
焼きたてのパンに俺の好きな玉子スープ。ベーコンもいつもより多めだ。
まあ豪華と言ってもこんなもんだ。朝食だからね。またみんなで食卓を囲む夕食に期待しよう。
朝食後、父さんは仕事へ向かった。母さんは今日は休みだそうだ。
姉さんが朝食を食べに来たのは父さんが出て行った後。
俺と母さんが食後の紅茶を楽しんでいる時だった。
「ね、ねむぃ」
深夜に俺を起こした時のテンションはどこにいったのか。アンナさんにしっかりしてくださいと支えられながら、ふらふらな足取りで食堂に入ってきた。
「無理せずもう少し寝てたら?」
スプーンもまともに持てない姉さんがここに居るのは危ないと思うよ。熱々のスープを浴びて火傷しちゃいそうだ。
「大丈夫ですよ。夜中まで眠らず起きていた罰です。おかげで私も眠れなかったんですから」
眠たそうにしている姉さんに、アンナさんは厳しく当たる。
俺は姉さんに起こされてから直ぐ寝たけど、姉さんは何時まで起きていたんだろう。かなり興奮していたからなぁ。
「姉さん、貰った剣の事で話があるから。目が覚めたら俺の部屋に来てね」
「ん。わかったああぁ」
応答しながら大きな欠伸が出て来た。まったく隠そうとしない姉さんにアンナさんがはしたないと注意する。
今の姉さんを叱っても意味ないと思うけどね。
じゃあ俺は部屋で勉強でもしてようかな。
あれ、もうお昼じゃないか。
勉強に集中しすぎて時間の流れを忘れていた。
ソゾンさんから借りたドワーフ言語の本が面白いんだよ。
魔石を魔導具に利用するため開発されたドワーフ言語。これが書かれた本を理解出来たら新しい魔導具の作り方を教えてやると言われ、目下勉強中だ。
このドワーフ言語が面白い。
恐らくこの言語を作ったのは日本人か中国人、つまり漢字が分かる地球人だ。
まあこの言語が出来たのは随分昔らしいから、他の地域の人かもしれないけど。
漢字ではあるが、俺が使っていた漢字とちょっと違う。
初期は同じ漢字だったんだろうが、何年も何年もドワーフ族に伝わって言った結果、大分変形している。
俺の知っている漢字とは違うが、良く似ている部分もある。おそらく難しい漢字を簡略化していった結果なんだと思う。現代の地球でも簡略化されているけど、それとは違う方向で簡単になったんだ。
それを俺の知識で解読できるのが面白い。
この本は、魔石に魔導具としての機構を組み込むにはどういうドワーフ言語を使ったらいいか、を書いてある本だ。
魔力を吸収して火魔法を放つには、こういう文字の羅列と数式を組み込め。火を大きくするにはこう、連発で射出するにはこっち、放たずに維持するにはこれ、といった風に書かれている。
恐らくこの本を読んだだけでは、自分の思い通りの魔導具を作り上げるのは難しいだろう。文字と数式の意味を理解し、自分で組み立てなければならない。
ソゾンさんはそれをやっている。漢字を知っている俺でも悩むところがあるこの言語を完璧に使い熟しているんだ。さすがとしか言いようがない。
俺はこのドワーフ言語をマスターし、魔力検査の技能試験に挑む。
新たな魔導具をそこで披露するんだ。魔法が使えない俺の僅かな抵抗。
でも魔石を使った魔導具はデメリットがあり、俺にとってはそれが致命的。
文字と数式を使って思い通りの魔導具が作れるのが、その魔導具は魔力を送らないと動かない。魔力操作が出来ない俺にとっては大きなデメリットだ。
それを克服するために、考えている案はあるんだけどな。そのためにもしっかり勉強をしなければ。
「ゲオルグ、誕生日おめでとう」
俺が1人未来への決心をしていると、部屋の扉をこっそり開けて姉さんが声をかけてきた。
「そんなところでなにやってんの。部屋に入ったら?」
「夜中と朝はごめんね。やっとゲオルグに剣を渡せると思ったら止まらなくなっちゃって」
謝りながら入って来る姉さんは朗らかな笑顔だった。今まで頑張ってきた重しが取れてスッキリしたような様子だ。
「立派な剣をありがとう。無茶苦茶な依頼を言ってごめんなさい」
いや、重しが取れたのは俺の方だ。姉さんがやり遂げてくれたことで、俺は解放されたんだ。




