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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第65話 俺は姉を鉱山へ送り出す

 年が明け、2月。

 姉さんが9歳となる月。


 船外機を売った利益によって、新たな魔法を込めるのに必要な宝石を購入する目途はたった。

 しかしまだ手ごろな宝石が売りに出されないそうで魔導具の完成には至っていない。


 待てなくなった姉さんは自ら採掘に行くと王都を飛び出して行ってしまった。

 ソゾンさんの知り合いのドワーフが炭鉱都市エルツに居るらしく、そこで暫く手伝いをしながら宝石を探すそうだ。

 姉さんからその話を聞いた父さんは激しく反対した。

 ギースバッハでヤーナさんや俺が誘拐されかけた件は既に公開されている。それ以来事件は起きていないが、またフリーグ家の関係者が狙われるかもしれない。危険だからしばらく王都から出て欲しくないと父さんは思っていた。


 しかし姉さんは今エルツに滞在していて、父さんは毎日冒険者ギルドを介して通信している。

 姉さんの傍にはアンナさんと、母さんが居る。

 母さんも最初は、姉さんが外に行くのを渋っていた。

 それならば護衛を雇ってでもエルツに行くと伝え、冒険者ギルドに依頼を出した。依頼料も充分な金額を冒険者ギルドに預けた。

 その依頼を母さんが受けてくれた。母さんが護衛に行くならと父さんも納得した。納得したときの顔が微妙な表情だったのは、自分もついて行こうとして断られたからだと思う。


 俺も一緒に行かないかと姉さんに誘われたが断った。

 冒険者ギルドに提出する依頼内容と護衛者の条件を考えたのは俺。折角護衛依頼の条件に高速で飛行魔法が使えることと入れたのに、飛べない俺が行くのは足手まといだ。何かあった時には身軽に飛べた方がいいでしょ。

 それに俺は俺でやりたいことがある。お土産だけは期待しておく。


 誕生日には帰って来ると言って出て行ったのが2月1日。もう2週間以上経過しているがまだ帰って来ていない。

 姉さん達の飛行魔法なら1日以内で帰って来れる距離なのに。もうとっくに誕生日は過ぎている。

 なにかトラブルに巻き込まれたのかと心配になるが、毎日連絡を取り合っている父さんが言うにはそうじゃないらしい。


「父さん達を放っておいてエルツやその周囲の町で食べ歩きをしているらしい。やっぱり無理矢理にでもついて行けばよかった」


 いやちゃんと採掘もやってるんだよね?

 でも昔もエルツに行った時、食べ過ぎで動けなくなって帰って来るのが1日遅くなったことがあったよな。

 エルツの食事ってそんなに魅力的なんだろうか。俺も無理矢理ついて行けばよかったかな。


「エルツ周辺は暖かい気候の土地じゃ。暑い地域は汗をかいて体温調節するためにスパイスを利かせた辛くて酸味が効いた料理を食べる。鉱山で働く労働者の半分以上は水魔法や風魔法が苦手なドワーフと獣人じゃ。料理は魔法を使わない体調管理法と言う訳じゃな」


 工房で姉さんの近況についてソゾンさんに話すと、エルツ料理の特色について教えてくれた。


「姉さんが辛い料理を好むとは思わないけど」


「子供相手には辛みを抑えた料理を出すじゃろう。あの辺りはエルツ以外にも鉱山が有るから、各町の鉱山に寄ったついでに食べ歩いとるんじゃろうな」


 姉さんならあれが美味しかったとかこれが気に入ったとかそんな情報しか父さんに返信しない気がする。それで父さんが食べ歩いてばっかりだと勘違いしたんだろうか。

 食べ歩いているのも間違いじゃないとは思うけどね。


 ソゾンさんとそんな雑談をしながら自分の作業を進める。

 新たな魔導具についての考察。俺の魔力検査まであと1年と少し。おそらくこのまま魔法が使えない状況で検査の日を迎えるだろう。

 その日の為に魔導具を考えている。思いついたらマリーと一緒に製造する。そして完成したらまた考える。

 以前のように姉さんやマリーに置いて行かれるという感覚は無い。ジークさんから貰った剣を使って素振りも毎日やっている。


 俺は今、前に向かって進んでいるんだ。そう思えるように、ようやくなってきた。




 鍛冶屋から家に帰るとルトガーさんが話しかけてきた。


「坊ちゃまが居ない間に、お城から使者がお見えになられました。明日の昼過ぎに出直すそうです」


 使者を立てるなんて何の用件だろう。父さんがお城に居るんだから直接そっちに行けばいいのに。


「態々家の方に来るってことは父さんへの要件じゃないんですよね?」


「はい、アリー様への用件だそうです。いつ帰って来るのか分かりませんとはお伝えしたんですが、毎日いらっしゃるようです」


 姉さんは居ないんだから誰かに託でもしたらいいのに。


「どうせまた飛び級しないかって話でしょ」


「おそらくそうだと思いますが、用件をおっしゃられなかったので正確には分かりません」


「姉さんがすぐに帰って来るといいけど。でも断るんじゃないかな」


「さあどうでしょうね。去年来ていた人達とは雰囲気が違いましたから、派閥は違う方たちだと思いますが」


 へぇ。まあ俺達が話しててもしょうがない。本人が帰って来ないとね。


「たっだいまー」


 あ、帰って来たわ。

 今日の夜は父さんが燥いじゃうな。

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