第64話 俺は魔導具作りに精を出す
前回の投稿で通算100話目でした。
今回が101話目、ここまで読んで頂いた方ありがとうございます。
これからも頑張ります。
鉱石魔導具の船外機を搭載した小型ボートは魚人族に評判が良かった。
ウォータージェット型船外機はソゾンさんと姉さんの力を借りて、1か月ほどで完成した。
マリーがちょっと不本意そうだったけど仕方ないじゃないか。陶器も石材も船に乗せるには重かったんだから。
船が木製なんだから、魔導具も木製でいいだろうということになった。防水防腐用の塗料があるらしく、ソゾンさんがどこかから仕入れて来てくれた。
4人で内部構造を考え完成した試作1号機は、制限を付け過ぎて船が動かなかった。子供用だと恐れて出力を弱くし過ぎたんだ。水の抵抗って思ったより大きいんだな。
それからは定期的に工房と船着場を往復し、少しずつ完成に向かっていった。
親方の意見も取り入れながら改良を繰り返し、1ヶ月後試作6号機で完成した。
姉さんが本気の水魔法を込めると、約3時間動き続ける。
水流の噴出口を絞ったり開いたりすることで噴出量を調節し、船速を変更出来る。
逆噴射によって後進も可能だ。
問題は簡単に止められないことだった。
鉱石に込めた魔法を発動すると、止める術がない。
魔法が切れるまでずっと動き続けることになってしまう。
だから止める時は前後左右に均等に噴射させることで、船の動きを止めることになった。もちろん魔法は出っ放しだから動ける時間は減っていくけど。
発進、旋回、停船、後退が出来るが、操作が煩雑になってしまった。でも帆船の操船に比べたらどうってことないと親方達は笑っていた。
船外機を2個付けてもっと複雑にしてやろうか。2個あったら横移動も出来るんだぞ。
何て事はせず、試作6号機の外装を整え納品した。
進水式には俺達も参加し、船にも順番に乗せてもらった。3人乗りの小さなボートだ。
船に乗った感想は、怖かった。
だって調子に乗った魚人族のおっさん達が最大船速で飛ばしまくるんだよ。
普段船に乗ったり泳いだりする以上の感動があったらしい。
俺としてはゆっくり走って、風を受けて気持ちいいとか、水飛沫が顔にかかって冷たいとか、そんなことを想像していた。でも現実は、生易しいもんじゃ無かった。
先ず揺れる。馬車の比じゃないほどの縦揺れ。マリーは速攻でギブアップし、空に逃げていたぞ。
それにあれは飛沫じゃない。全身ずぶ濡れだ。陸に上がった時に俺から滴る水の量は半端なかった。
でも、みんな笑ってた。
一生懸命作った魔導具が人を笑顔にする。それはとても、俺にとってとても良い経験になった。
しかし残念ながら、俺が作った魔導船外機は直ぐに使用禁止と通告された。
他の船と速度が違い過ぎて危険だというのが大きな理由だ。
声を上げているのは王都より東の水運に係わる領主達。
「文句を言っているのは王都から海までの川沿いに船着場を持つ領主達だ。彼らは船の係留費で利益を上げている。ゲオルグが開発した船外機をもっと発展させれば、河口から王都までどこにも止まらず移動出来るようになるだろう。そうなったら領主は困るだろうな」
と、親方が教えてくれた。
その辺りは良く考えていなかった。変革を喜ぶ人もいれば、それによって利益を失ってしまう人達もいるんだ。
「今後はどうなるんでしょうか」
「うーん。処分するには勿体無いから、規制を設けることになると思う。最大速度を決めるのか、動かしていい場所を決めるのか。もしかしたら川は全面禁止で海だけになるかもしれないな」
海で使用することは考えていない。塩害とか大丈夫だろうか。
「ま、ここから先は大人達の仕事だ。素晴らしい物を作ってくれたゲオルグには感謝しかないよ」
ありがとう親方。魔導具作りは楽しかった。
あの船外機が封印されても悔いはないから、あまり無茶はしないでほしい。
その後、船外機は上限速度や設置出来る船の大きさなどを規制され、王都の西側地域で運航している。
河口に近づく東側地域と比べて、西側地域での船は地域の漁師が釣りや仕掛けを設置するための小舟ばかりだったからだ。
もちろん川沿いすべての漁師に許可を取った。主にヴルツェルの爺さんとボーデン公爵が動いてくれた。
爺さんは王都までの水運に使うために、ボーデン公爵は街の外周にある水掘を使ってボートレースをしようと考えているみたいだ。
王都内の川や水路を走行するのは許可されなかったため、王都外に新たな船着場を整備している。そのうち城壁を広げて王都内に組み込む予定らしい。
孫のためのプレゼントがいつの間にか大きな事業に発展してしまった。
爺さんや公爵から発注を受けて何台も魔導船外機を作成した。もちろん魚人族からも声がかかっている。
この船外機の売り上げは4人で均等に分けた。
マリーは貯金し、ソゾンさんは新たな設備投資に使うと言っていた。
姉さんはこのお金で、ついに目標金額まであと一歩という所まで行ったそうだ。
もう少しで剣が手に入ると思うと、胸が高まって来る。




