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鬼装天鎧ーキソウテンガイー①

も、もうすこしでイチャイチャが書ける……っ!

 

 強いて言うなら、限界ギリギリまで吹き込まれた紙風船。


 血管や筋肉、脂肪から眼球と、およそ人体の内にある伸縮性のある部分全てが膨れ上がったかつてアルバウス伯爵だった物。


 いまだ見る見るうちに大きくなるソレは、やがて––––––限界を迎える。


 膨れに膨れ上がった伯爵の身体が、勢い良く破裂した。


 内側より現れたのは、夕暮れの強い日光すら遮断する黒濃く重い煙。


 もうもうと天上へ立ち昇るその煙が渦を巻き、そして更に膨張する。


 僕は次々と群がり襲い掛かる餓鬼どもを斬り捨てながら、その光景に呆気にとられていた。


 つぶつぶとした肌色の肉片が、煙の至る所から盛り上がっていく。

 まるで一枚の紙に大粒の墨汁の塊を落としたみたいに、それは物凄い勢いで広がっていく。


受肉(じゅにく)』。


 タツノ先生からある程度は教えて貰っていたけれど、聞くと見るではやっぱり違う。


 空気を振動させるほどの殺気と、背筋に走る悍ましい悪意。


 邪鬼。


 万古よりある世界の穢れ。どんなに討ち払おうとも決して死滅することのない存在。


 人や生き物の意思を依り代に、憎悪や険悪によって成長する闇の一族。


 これが、亜王院の––––––僕らの敵。


 やがて煙は晴れていき、そこには山のように大きな異形の存在が鎮座していた。

 顔の色んなところに乱雑に配置されている目。

 耳まで裂けた大きな口。


 数千本はあろう毛髪の一本一本が人の手のような形になっていて、まるで意思があるかのように動いている。


『ぎゃあああっ! なんだあれはぁ!!』


『にげっ、逃げろぉ!!!』


『おっ母!』


『こっちだよ! 早く家に入るんだ!』


 遠くの方で村人たちが悲鳴を上げた。

 無理もないだろう。


 ある程度教えられていた僕ですら、その奇怪な容貌に少し尻込みしてしまったのだから。

 何も知らない村の人達から見たら、恐怖でしかないもんな。


 森の獣や魔物とは違い、それは生き物として成り立っていない。


 なんと形容したものか。

 まるで、生命を馬鹿にしたような姿をしている。


 存在自体が、命への冒涜。


「うろたえるなっ!!!!!!!!」


 夕暮れの戦場で、(とと)様の怒声が響き渡る。

 肌の表面から、心臓までを打ち抜くような非常識な声。


 その声を聴いた村人達が、ピタリと動きを止めた。


 鬼術––––––『雷声動止』。


 声に乗せた鬼気で相手の身体を縛りつける技。

 父様ほどになれば、百三十名近くの人数があつまるこの場で、村人だけを縛りつけることが可能だ。

 本当に出鱈目な人である。


「みな、騎士団の後ろから離れるでない! 守るものも守れなくなるであろう!」


 そうだ。視界の中、手の届くところに居てくれるからこそ守れる物がある。

 僕らや父様は餓鬼の一匹も見逃さずに皆殺しにするつもりだ。

 つもりだけれど、何事にも万が一という例外がある。


 例えば一匹の餓鬼が逃げ延び、行き着いた先がたまたま村の中だとして。

 そこに避難していた人が居たとしても、僕らは気づきようが無い。

 だけどこの場なら違う。


 一か所に集まっていてくれれば、ウスケさんなら瞬時に跳んでいけるし、他の刀衆の人もすぐに助けにいける。


 それに邪鬼の恐ろしさは、存在するだけで人の命を奪えること。

 身体から漏れ出す禍々しい気は、それに触れた人の身体を蝕み、殺して作り変えてしまう。


 今僕らが斬り殺している、餓鬼がそうだ。


 ナナカさんのお姉さん達、そして継母達はそうして餓鬼を生み出す『巣』となったのだろう。

 こいつらは、人の精神の奥深くに根付き増殖していく。

 媒介となった人間の黒い感情を糧にして、際限なく増えていくのだ。


 本人達も気づかぬ内に、人格や尊厳すらも歪められて。


 だから、あのお姉さん達も被害者と言えば被害者だ。


 だからと言って許してあげるほど、僕らは優しくないけれどね!


「トモエ!」


「かしこまりました。貴方」


 ヤチカちゃんとキララの手を握っていたトモエ様が、父様の合図とともに着物の裾から扇子を取り出した。


『八重十重に、重ね積み上げ奉る。愛し我が子に幾歳に、折りて折々の祈りおり』


 トモエ様の髪の色と同じ真っ白な扇子を、ひらひらとゆらゆらと揺らしながら舞う。

 目を閉じながら、くるくると。

 その姿を見たキララがその横で楽しそうに真似をする。

 ヤチカちゃんは不思議そうにトモエ様を見上げ、ナナカさんの着物の裾を握った。


『此処な清浄なる禊の場。健やかに育つ愛し子の揺り籠』


 やがて地面から光の粒が湧き出し、徐々に大きくなっていく。

 重なりあうまでに大きくなったその光は、空の一点に凝縮し、ゆっくりと落ちて集まっている村人たちを優しく包んだ。


「鬼術・籠守(かごもり)


 言葉に鬼気を織り込み、所作に意味を持たせ、舞は終わる。


 それはとても強力な清浄の結界。


 邪鬼の邪気すら寄せ付けぬ、清らかなる神域。


 こと法術・鬼術に関して言えば、トモエ様は里の誰よりも凄い。

 それすなわち、世界で一番凄いのだ。


 あれだけ凄かった父様の術も、トモエ様に比べたらまだ優しい方。


 あの光の結界は、邪鬼の邪気を微塵も寄せ付けない。

 それどころか、込められた鬼気があまりにも強すぎて、ある程度の物理攻撃すら跳ね返す代物。


 中にさえ居れば、村人に危害など加えられない。


「この光陣の内側にあるものは、一切の穢れも受け付けないわ! さぁ男共! 存分に暴れなさい!」


「かかさまかかさま! かっこいいー!!」


「はっはー! そうだろう!!」


 自慢げなトモエ様の声と、それを嬉しそうに囃し立てるキララの声が木霊した。


 うん。

 (かか)様とトモエ様がいる限り、ナナカさんやヤチカちゃんの心配はしなくていい。


 そうこうしてる間にも、餓鬼は絶え間なく僕らを襲う。


 奴らに知能など存在していないが、宿主である邪鬼が死ねば自分たちも消滅することを本能で知っている。


 相手にしている刀衆は、誰をとっても一鬼当千。

 比喩でもなんでもなく、餓鬼程度なら千や万の束が襲いかかろうがものともしない強者揃い。


 ちゃっかり僕も、すでに三百近くの餓鬼を斬り捨てている。


 未熟者だからと言って、舐めてもらっちゃ困るのだ。


百々目鬼(とどめき)にすらなれんかったかスラザウル! 羨望と嫉妬に目を増やし、欲の手だけを伸ばしたその姿、無様この上なし! かつてのよしみだ! 亜王院が頭領、この俺が相手をしてやろう!」


『ナゼダァアアアア!! ナゼワシダケエエエエッ!!』


「聞く耳も失ったか!」


 父様がアメノハバキリを肩に担ぎ、身をかがめる。

 その顔はまさに壮絶。


 険しい眼とギラついた瞳。

 凄惨たる笑みを浮かべ、両足に一気に力を込めた。


『グギャアアアアッ!!!』


 その瞬間、邪気の胴体に風穴が空いた。


 刀すら、振っていない。


 ただ力任せに突撃し、ぶち当たっただけ。


 デタラメすぎる。さすが筋肉オバケ!!


「さっさと終わらせるぞ! ウスケ!」


「合点承知!」


 邪気を貫いたまま、父様はウスケさんを呼んだ。

 戦場をビュンビュンと飛び回っていたウスケさんが、父様が着地するであろう場所へとまろび出て、音破丸を二刀とも正面に差し出す。


百鬼我刀(ひゃっきがとう)! 音葉ウスケ!」


 ウスケさんの体が、青い光に包まれる。

 父様は着地と同時に、ウスケさんの胸のど真ん中にアメノハバキリを突き刺した。


「然り! 奥義! 鬼装天鎧(キソウテンガイ)!!」


 ウスケさんの体が、父様の持つアメノハバキリに吸い込まれる。


 バリバリと音を立て、イカヅチを纏い、やがてアメノハバキリが二刀に分かたれる。


 これが、亜王院の頭領の力。

 刀衆が刀衆と呼ばれる所以。

 父様の統べる刀衆は、本当の意味で父様の刀。


 百鬼を引き連れ戦場に立つ。

 亜王院・アスラオは部下の数だけ強くなる。




「絶破––––––アメノハバキリ!!」




 だからこそ、亜王院(アオオニ)なのだ。










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