ハーレムは3日で飽きます
キャサリンたちが転校して来てから3日目。僕は気付いたことがある。それは『ハーレムは3日で飽きる』と言う事だ。いや違うな。『身が持たない』だ。うん、反論はあるだろう。だが真実だ。釣った魚に餌はやらないという言葉もあるが、いやこの例えは違うな。ステーキも一週間続けばラーメンが恋しくなるだったか?
如何な美人でも人間とは見慣れてしまうものなのだ。確かにキャサリンたちは美人である。美人ではあるが美人だと一旦認識してしまえば、そこに新たな美への新鮮な喜びはなくなる。つまり、当たり前になってしまうのだ。
全然説得力がない?うん、そうだね。僕も経験するまではそっち側だった。だから憧れた。でも僕は大人になってしまった。もう、あの純粋な時には戻れない。僕は汚れた。汚れてしまったんだ・・。
うんまぁ、どう汚れたかはこれから説明しよう。
【キャサリン・フォード お姉さんポジション担当】
「タケル、実は和食の練習を兼ねてお弁当を作ってみた。食べて評価して欲しい。」
そう言ってキャサリンは5段重ねの重箱を僕の机に置いた。重箱には箱ごとにご飯、魚、野菜、肉、デザートが入っている。ひと箱全部ご飯というのも凄いが、ちゃんと味付けご飯と白ご飯、それに何故か赤飯に分かれていた。
「あっ、すごいね。もしかして全部キャサリンが作ったの?」
「ああ、米はちゃんと前の晩から水を吸わせ、朝一番に土鍋で炊いた。この魚もちゃんと骨を取ったぞ。野菜の煮付けは昨日作ったものだ。多分、味が染みて食べ頃のはずだ。」
「うん、すごくおいしそうだ。彩りもきれいだし、まるで割烹の仕出し弁当みたいだ。時間がかかっただろう?」
「なに、大したことはない。ほんの4時間ほどだ。」
「よっ、4時間!それって今日の朝だけでだよね?もしかして3時からこの弁当を作っていたの!」
「料理の前の禊からカウントすれば2時からだな。だが日本の弁当は午前0時から作るのだろう?」
「いや、キャサリン、それはコンビニなんかに並んでいる販売用の弁当の場合だよ。それだって賞味期限対応のためだから。普通の弁当に業務用の理屈を持ち込んじゃ駄目だ。」
「そうだったのか、いや、私もいくらなんでも早すぎるなとは思っていたのだが・・。さすがはタケルだ。博識だな。」
いや、日本の弁当業界の就業時間を知っているキャサリンの方がすごいよ。どこで覚えたんだ。
「まぁ、それはいい。それより食べてみてくれ。スープは保温容器を準備できなかったのでお茶を持ってきた。次はがんばる。」
「ああっ、味噌汁ね。うん、でも味噌汁はインスタントが普及しているからお湯さえあればどこでも飲めるよ。」
「おおっ、そうだったのか!よしっ、明日は必ず作ってくるぞ。期待してくれ。」
インスタントを作る?う~んっ、なんか勘違いしている感がビシビシ伝わるな。
「じゃあ、遠慮せず頂くね。いただきます。」
この後の事は言いたくない・・。なんでコメディって食べ物を粗末にするんだろうね。あんなにおいしそうなのに食べられないなんて・・。いや、香りと見た目は最高だったんだよ。でも、味覚が・・。その日、僕は午後の授業を保健室で休むはめになった。
【フランシア・ルイージ 聖女担当】
「タケル、こんなところにいたのですか。」
次の日、僕はキャサリンの弁当を避ける為、ひとり屋上でパンを齧っていた。そこにフランシアがお弁当を持ってやってくる。僕はいやな予感がしたが大きさ的には一人分だ。あれなら大丈夫かもしれない。
「私もここで食べていいですか?」
「ああっ、どうぞ。といっても椅子もないけど・・。」
僕の返事を待ってフランシアが僕の前に座る。僕はてっきり横に座ると思っていたけど違った。うん、そうだよね、普通はこうだ。そしてフランシアのお弁当はフランスパンだった。ちょっと薄めにスライスしたパンにサラダやハムを手際よくトッピングしてゆく。
「はい、タケルも食べてみてください。」
フランシアが一片のパンを僕に差し出す。だが僕は昨日の悪夢を思い出す。
-これはボケの二段重ねなんだろうか・・。さすが僕の妄想だ。捻りがない。-
しかし、男子たるもの女の子から差し出されたものを断る訳にはいかない。
「いっ、いいのかい?君の分が足りなくなるんじゃないか・・。」
断る訳にはいかないが、一応、抵抗してみる。
「大丈夫です。なんだったらタケルのパンと交換しましょう。」
パンの良い所は齧りかけでも口を付けていない所を千切れることだ。うんっ、イベントの神さまは抜かりがない。どうしてもあのエンディングに持って行きたいらしい。
「そっ、そうか、うん、そうしよう・・。」
僕は食べかけのクリームパンを半分千切ってフランシアに渡す。
「うわーっ、おいしそうだ・・。それじゃ遠慮なく頂くね。いただきまーす・・。」
僕は平静を装おうとしたが、残念ながら言葉にチカラがこもらない。
モグモグモグ・・、あれうまいぞ?なんで?
「どうですか?お口に合いますか?」
「うんっ、うまいよ!僕、フランスパンはちょっとカリカリしていて苦手だったんだけどこれはすごくうまい!」
「ふふふっ、フランスパンにも種類がありますから。これは少しもっちりした食感のパンを使いました。」
「うわっ、そうなの?フランスパンってみんな固いものなんだと思っていた。」
「まぁ、中には人を殴り殺せるなんて言われているやつもありますけど、あれはネタとしてわざわざ硬く作っているんです。そもそも、パンは食べ物なんだから固くて食べられないんじゃ意味がないでしょう?」
「ああっ、そうだね。確かにそうだ。餅だってあのまま食べる事はないもんな。」
「餅・・?ああ、あのふっくら丸くなる白い食べ物ですね。」
「うんっ。原料はお米なんだけど潰してこねるとふんわり柔らかな餅になるんだ。ただ、時間が経っちゃうと硬くなっちゃうんだ。それこそ、人を撲殺できるくらいにね。」
僕はフランシアの冗談に同じ冗談を返す。
「ふふっ、初めは柔らかいのに硬くなっちゃうなんて、タケルったら例えがエッチです。」
えーっ!今の話の流れでそっちにとるの?
「いっ、いや違うよ、そうゆう意味で言ったんじゃないから!」
「そうなんですか?でも、お餅ってどれくらい柔らかいんですか?」
「えっ、そうだね、う~んっ、言葉で言い表すのは難しいかなぁ。」
僕はそう言ってしまってから気付く。これは誘導だっ!
「そうですか、私の体では胸が一番柔らかいと思うんですが・・。タケルちょっと確かめてみて下さい。」
きたーっ!エロイベントがやってきました。いいのかっ!僕は見成年だぞ?こんなラッキーエロに遭遇したら死んじゃうんじゃないのか!
「さぁ、タケル。なんだったらブラを外した方がいいですか?」
ぐはっ!生か、生を堪能しろというのかっ!
そう言ってフランシアはシャツのボタンを外し始める。白いシャツの下にはこれまた白いブラがっ!レースの縁取りが童貞男子の魂を鷲掴みだ!
だが現実は残酷だ。まだ弁当を食べ終わっていないにも関わらず、何故か予鈴のチャイムが鳴り響く。
「あら、もうそんな時間ですか?タケル、教室に戻りましょう。午後の授業に遅れてしまいます。」
フランシアはそう言って手早く身だしなみを整える。
そうか、これが全年齢対象の限界なんだな。望みが叶うことはないんだ・・。
僕は規制とか倫理とか犯罪とかの、人間が生み出した全うな人間の生き方に対して呪いの言葉を吐き出しながらフランシアと教室に戻った。