ハーレム、それは男の子の夢
さて、実験である。残念ながらAVは現実化しなかった。原因は何となく判っている。つまり、あれだ。何というか、我慢できなかったのである。スッキリして満足した僕はAVを妄想できなかった。内容をトレースする事はできたがそこに僕の意思を反映できていない。僕の意思が介入していなければ妄想とは言えない。だから失敗した。もしかしたら授業中でなかったのも関係しているのかもしれない。でも授業中にAVなんか妄想出来る訳がない。僕にも少しは羞恥心というものがあるのだ。
そこで僕は別のアプローチを試すことにする。それは小説だ。本当は漫画の方がビュジュアルが付いてくるので妄想しやすいのだが、さすがに二次元の美少女たちがそのまま現実に出てきそうで躊躇った。立ち絵の看板じゃないんだから、厚みのない女の子たちが現実化しても嬉しくない。その点、小説なら僕の想像が介入できる要素が多い。小説って結構、読み手の想像力に頼るところが大きいからね。
そんな僕が選んだ小説はこれだ。
雑文ラノベ「異世界チートハーレムだよ~ん!」
なんともど直球なタイトルである。まぁ、内容はよくあるものだ。別の世界に行って難題を解決し女の子たちにモテモテになるという、これぞ思春期男子の王道とも言える話だ。この手のやつは僕もよく妄想した。だけど所詮僕の妄想など独りよがりなものだ。細部の詰めが浅い。それでは肝心なところでルートを間違えるかもしれない。だからこの小説を読んで勉強したのだ。
基本、妄想とはクライマックスだけを夢想しがちだ。だから何度も妄想すると単調になりやすい。まぁ、気に入ったんならそれはそれでいいのだろうけど今回は現実との兼ね合いもある。そこら辺を慎重にやらないと、また破綻をきたすかも知れない。だから小説を参考に流れというかベースを頭にしっかりと叩き込んだ。
そして実験である。今回はちゃんと授業中に妄想する。授業科目も定番の数学だ。こんなことばかりしていたら将来僕は計算が出来なくなるかも知れないな。うんっ、家で復習だけはしておこう。
妄想の中でも僕は平凡な一男子だった。でも本当にたまたまとも言えるラッキーで異世界への切符を手に入れる。そしてお決まりのチート能力の付加だ。僕はその能力を使って異世界の悪者たちを駆逐してゆく。・・と思ったのだけど、原作では色々ハプニングがあって苦労をしていた。でも今回の僕の妄想には関係ないのでそこはスルーする。
そして悪者を退治した僕はヒーローとして女の子たちからきゃっきゃ、うはうはの持てなしと尊敬、もしくは情愛の眼差しを向けられ、仕方ないなぁ~、というスタンスで彼女たちの願いを叶えてやる。ここんとこ重要だから覚えておくように。
あくまでこちらからアプローチしたのではなく、彼女たちから迫られるという形が童貞少年たちには必要なのだ。だって僕たちは奥手だから。自分の欲望に正直になれないのだ。大人から見たら青臭い薄っぺらな正論に見えるのかもしれないけど、僕はそれこそが青年の青年たる思いだと思う。まっしろな僕らのキャンパスはどんな色にも染まる。でも色を選択するのは僕らだ。わざわざ汚らしい色を選ぶはずがない。
さて、終業のチャイムとともに僕の妄想タイムも終わる。ニサンカの時は翌日には現実化した。となれば変化が現れるのは明日だ。さてさて、今回はどうなるかな?時間を戻った直後はもう二度と妄想はしないと誓っていたのにこの体たらくだ。本当に人間は誘惑に弱い。
いや、違うぞっ!これは実験なんだ!僕の妄想を研究する為に必要な行為だ!そこんとこ、間違わなないで欲しいな。僕はハーレムなんか本当は望んでいない。この課題を選んだのはたまたまだ。なんてって僕は奥手だからね。ああっ、早く明日にならないかなぁ。
しかし、僕にはもう時間を操作するチカラはないらしい。1時間は60分経たないと過ぎなかったし、1日後になるには24時間が必要だった。逆に言えば待ってさえいればその時は必ずやってくる。そしてその時は来た。
今日のホームルームはちょっと異様だ。先生に連れられて女の子が5人も教室に入ってきた。みな知らない顔である。いや、どこかで会ったような気もするがどこだったか思い出せない。そして先生の説明が始まる。
「あ~っ、静かにしろ。今日は転校生を紹介する。この子たちは国の学生交流プロジェクトに基づき外国から日本に短期留学にやって来た。期間は2ケ月。短い間だが仲良くやってくれ。因みに全員日本語がペラペラだ。だからからかったりしたら即バレるから馬鹿なまねはするなよ。」
転校生?なんか僕の妄想とは違うな。ということはこれは僕の妄想とは無関係なのか?
「それでは自己紹介をして貰おう。キャサリン、君からいこうか。」
「はい、リーダー。私はカリメアント議会共和国から来たキャサリン・フォードです。みなさんと交流することを楽しみにしてきました。よろしくお願いします。」
これは驚いた。本当に日本語がペラペラだ。電話で話したら絶対外国人だとは思わないよ。
「私はマーロッパ帝国から来ました。名前はフランシア・ルイージと申します。仲良くしてください。」
「私はインディア王国からです。名前はスジャータ・アッサムです。お世話になります。」
「私はカンミンシン人民共産国から来たあるね。名前はヒリュウ・ミンメイあるよ。ミンミンって呼んでね。」
「私はスボリニア王国だ。名はアデリナ・ボルセツグ。よろしく頼む。」
5人の自己紹介を終え、僕は確信する。ああっ、この子たち僕が妄想した国の子たちだ。そうだよ、この子たちのイントネーションで思い出した。顔立ちは僕の妄想と違うけど言葉遣いはそっくりだよ。
うわっ、本当に僕の妄想って現実化するんだなぁ。これはやっぱり妄想は出来ないな。いや、うまく使えば結構使えるんじゃないか?米国の大統領がいきなり改心したり、某国の指導者が改心したりこの国の総理大臣が改心したり・・。いやいや、なんでみんな改心しなくちゃ駄目なんだよ。みんな各国のトップだぞ?改心しなくちゃ駄目なやつがなっていい役職じゃないだろう!
「では机は・・、そうだな、タケルの周りが空いているな。そこに座ってくれ。」
いや、先生、僕の周りは・・、あれ?本当に空いている。昨日まで、いやさっきまで隣に座っていた彼女までひとつ空けた机に座っている。どうなってるんだ?みんなも全然不思議がっていないし。そもそも僕の周りだけ5つも席が空いていること自体が不自然じゃないのか?これが普通だとしたら僕ってクラスから仲間はずれされているようじゃないか!
だが、僕の混乱をよそに転校生たちが僕の回りに座る。僕の席は窓際だから5人で前後と右側を転校生で固められる形となった。そして改めて転校生ひとりひとりから僕へ挨拶が行われる。
「私はキャサリン・フォードです。」
「私はフランシア・ルイージと申します。」
「私はスジャータ・アッサムです。」
「私はヒリュウ・ミンメイあるよ。」
「私はアデリナ・ボルセツグだ。」
「ああっ、僕は大和タケルです。」
何故か僕だけが彼女たちに自己紹介をする。
「よし、タケル。お前を彼女たちの専属ガイドに任命する。2ケ月間がんばれ。失礼なくこなしたら国から感謝状を貰ってやる。これは進学や就職の時に有利だぞ。それじゃ、みんなも仲良くやるように。くれぐれも国際問題に発展するようなことはするなよ。」
「は~い。」
先生のジョークにみんなが元気に応える。さすが妄想の産物だ、誰も細かいところに突っ込まないや。
「よろしくタケル。たった2ケ月間だが忘れられない時間にしましょう。」
5人を代表してキャサリンが僕に手を伸ばす。僕もそれに応え握手をした。
「こちらこそよろしく。こんな事は初めてだけど何でも聞いてくれ。」
「よ~し、こんなんでは授業にならんだろうから1時限目は自習とする。あんまり騒ぐなよ。因みに俺は席で寝る。俺を起こした時点で授業を始めるから時間を有効に使えるかどうかはお前たち次第だ。」
そう言って先生は教壇で書類の整理を始めた。寝ると言ったのは言葉のあやである。昨今の教師は忙しいのだ。巷じゃブラック企業を槍玉に挙げているけど、国が率先して人員を使い捨てにしてるんじゃないかな。灯台下暗し、このところ行政もうまく回っていないみたいだ。やっぱりニサンカに活を入れて貰うべきかな?
だが行政の運営は大人の仕事だ。僕にはそんなことより大事なことがある。この状態はまさに僕の妄想の現実化だ。参考にした小説では異世界に飛んで色々危ないことをすることになっていたが、僕の妄想ではそこんとこは飛ばした。異世界に飛ぶ?勘弁してくれ。そんな事をしたくて妄想するんじゃない。争い事もこりごりだ。
だから僕の妄想は異世界から戻って来たところから始めた。そんな僕を向こうでねんごろになった5人の美少女が追いかけてくるというシチュエーションだ。だから舞台も学校である。細部は違うが大体こんな流れだったと思う。となれば今後の流れも大体読める。ハプニング次ぐハプニング。ラッキーエロに次ぐラッキーエロだ。そしてウハウハのラストエピソード。おっとこれは教えられないな。
しかし、妄想と現実とはこんなに違うのか。僕の妄想力ではここまでリアルに女の子たちを妄想できなかった。キャサリンの髪の色もスジャータの肌の色もフランシアやフデリナの瞳の色もミンメイの唇の色も・・、なんか色にばかり意識がいくな?もしかして僕の妄想って白黒だったのか?
まぁいい、つまりみんなきれいだという事だ。そんな彼女たちはクラスのみんなに質問攻めにあっている。
「私は恵理。ねぇ、スジャータってどこで日本語を覚えたの?」
「俺は卓也だ。先生はタケルを担当に選んだけど俺にも遠慮なく聞いてくれ。」
「僕は駿って言うんだ。勉強で判らないことがあったら聞いてくれ。大抵の事なら答えられる自信がある。」
「私は真理よ。アデリナってスポーツに興味ある?私、バレー部なんだけど良かったらやってみない?」
そんな質問に彼女たちは悠長な日本語で答えている。さすが僕の妄想。でも逆に自国語を話せるのか?言葉を教えてくれなんて事になったら僕は責任持てないぞ?
だがそんな事にはならないか。これは僕の妄想の現実化だ。そこら辺はうまく誤魔化しているのだろう。なんたって『ゆうこ』の席がいきなり離れたくらいだ。これはもう立派なご都合主義である。あれっ?そうなると前の時にゆうこが僕に優しかったのも僕の妄想を反映したものなのか?あれれ?それは嫌だなぁ。
でも、ゆうこには悪いが僕は僕の妄想を検証する義務がある。だからこれから起こるであろうエロシチュエーションも甘んじて受けなくてはならないのだ。それは僕の本意ではないが仕方がない。実験の精度を下げる訳にはいかないからな。だから勘弁してくれ。大事な事だからもう一度言う。これは僕の本意では断じてない!
さて、予防線も張った事だし本題に移ろう。2時限目の授業中、僕は鼻孔をくすぐる甘い香りを独り占めしながら次に起こるであろうアクションを今か今かと待ち侘びるのであった。