エピローグ
妄想から現実の世界に戻った時、僕は違和感を感じた。何だろう?何かが変だ。しかし、何が変なんだ?教室は僕が妄想の世界に飛んだ時と変わらない。いや、判った。生徒たちがいないんだ。僕が飛んだのは彼女から漫画のあらすじを貰ってその場で読んだ後だった。つまり昼休みだ。時計の針もまだ昼休み時間を差している。
しかし、教室には誰もいない。
「何だ?緊急招集でも掛かったのか?」
僕は窓から校庭を見る。しかし、そこにも人っ子ひとりいなかった。
「体育館なのかな。今から行ったら怒られるかな。」
しかし、10分待っても誰も戻ってこない。僕は諦めて体育館へと向かった。しかし、静か過ぎる。本当に誰もいない。体育館の扉は閉まっていたが中から声すら聞こえてこなかった。
僕はそーっと扉を開き中を窺った。そして落胆する。
「誰もいないって・・、みんなどこに行ったんだ?」
僕はスマホを取り出し彼女にメールをしようとした。しかし何故かスマホの画面には圏外の表示となっている。
「おいおい、まさかニサンカの時と同じなのか?でもそんな妄想はしていないぞ。」
僕は声を挙げて叫びたい衝動を抑えあちこちを探し回った。しかし、校内には誰もいない。仕方なく学校の外へ出たがそこにも人影はなかった。車は道路の車道に停まったままだし、コンビニの明かりも消えている。試しにドアの前に立ってみたが自動ドアは反応しなかった。
「何だ?停電か?本当にニサンカが来たのか?それでみんな避難したのか?」
僕は道路に放置されていたスクーターを起こしてセルを回す。エンジンは難なく始動した。そして見通しの利く山の公園目指して走り出した。
山の公園にも人影はなかった。というかここに来るまで誰にも会っていない。公園から見渡す風景は何時もと変わらない。当然ニサンカの姿も無かった。いや、いつもなら白い水蒸気を吐き出している工場群の煙突が、今日は1本も煙を吐き出していなかった。
「休みじゃないよな?やはり緊急停止させて避難したのか?」
僕は再度スマホを取り出しニュースにアクセスしてみる。しかしスマホの画面は圏外の表示のままの為、ニュースサイトにはアクセスできなかった。
「参ったなぁ、情報難民になっちゃったよ。みんなどこに避難したんだ?東京の方か?それとも静岡方面か?」
僕はどちらに向かうか迷う。ニサンカ的な災難ならば首都に向かうのはまずい。やつらは絶対人のいるところに現れるからだ。でもこれが富士山の噴火辺りの災害避難だった場合、静岡方面に向かうのも気が引ける。
「さて、どっちに行くべきかな。」
僕は悩んだ末、首都へ行くことに決めた。如何にニサンカ級の災害が予想されるとしても首都なら誰かしらかはいると踏んだのだ。僕は国道1号線をスクーターで北上する。道路には放置車両が整然と並んでいる。しかし、スクーターの身軽さを持って僕はその隙間を縫いながら首都を目指した。
しかし、天下の東京駅に着いたところでまたもや僕は落胆する。本当に誰もいないのだ。皇居側にも行ってみたがもぬけの殻である。そのまま国会議事堂へ足を伸ばしたが結果は同じであった。
「おいおい、幾らなんでも対応が早すぎないか?もしかして1週間くらい先の時間に飛んだのか?」
そう、僕が戻ったのは昼休み時間内だった。しかし、時間は確かめたが日付までは確認していない。僕はスマホを取り出し曜日を確認する。そこには異世界に飛んだ日付が表示されていた。
「どうしよう・・、本当に置いて行かれたのか・・。」
僕は急に怖くなってその場を離れた。その向かった先は日本一高いタワーだ。あそこの展望台からなら周囲を見渡せると思ったのだ。しかし、このタワーにも電気は通じていなかった。
僕はエレベータを諦め、非常階段を駆け上がる。途中で何回かぶっ倒れたがなんとか展望台まで上がれた。誰もいない展望台で30分ほど寝転んで呼吸を整えると双眼鏡を覗き込む。しかし、結果は山の公園で見たのと大して変わらなかった。
東京湾には船は浮いていたが動いていない。首都高速も車は数珠繋ぎだがやはり動いていなかった。羽田空港も飛行機はあったが1機飛び立つ気配がない。富士山に至ってはいつも通りだ。
「みんなどこに行っちゃったんだよ・・。」
僕はその場に座り込みこの状況を理解しようと考えを巡らす。しかし、いくら考えても答えは出てこなかった。
その時、僕は胸のポケットに手紙が入っているのに気付いた。
「何だこれ?何でこんなものが?」
僕は訝りながらも裏を見る。そこには彼女の名前があった。
「ゆうこから?こんなもの貰ったっけ?」
そう言いつつ僕は手紙を読み始める。
-タケルくんへ。多分今あなたは独りぽっちで心細い思いをしているかと思います。でもそれは仕方がない事なのです。だってその状態はあなたが望んだことだから・・。
あなたは独りになりたいと望んでしまった。この世界はあなたが創り上げ維持している妄想の世界なのです。あなた以外の人は全てあなたが産み出した妄想の産物。だからあなたが独りになりたいと望んだ瞬間、私たちは消える事になったのです。
でも落胆しないで下さい。あなたが望みさえすれば私たちはまたあなたの前に現れるでしょう。疲れた体を横たえ眠りにつけばまた新たな夢を見るはずです。そして目覚めた時には全てが元通りになっているでしょう。
それではその時が来ることを願いながら私は待つことにします。
あなたの隣の席の女の子。武蔵野 優子より-
僕は何時までもその手紙を見つめていた。この世界までもが僕の妄想の産物?だが何故ゆうこはその事を知っているんだ?ニサンカやハーレム学園だけじゃなく、この世界自体が僕の妄想・・。そしてゆうこたちはこの世界の登場人物でしかないと言うのか・・。
でもそんなことを言うならこの僕だって誰かの妄想の産物かも知れないじゃないかっ!何だ!一体どうなっているんだ!何が本当なんだ!
僕はゆっくり立ち上がり僕以外の人がいなくなった世界を見渡す。外は既に夕刻だった。オレンジ色に染まった町並みは何時もと変わらないように見える。しかし、太陽が沈み夜が訪れる時、全ては闇に包まれるのだろう。不夜城とも称された首都圏の明かりを今日から灯す人はもういない。
壊れた世界の中心で僕は誰にともなく問い掛けた。
授業中、僕が妄想したことが現実になってしまった。これって僕の責任ですか?
-完-




