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素人の物語は破綻する

「タケル君、あ~ん。」

女の子の言葉に僕は大きく口を開けて待つ。程なくフォークに刺さった肉が口の中に入れられる。僕はそれをもぐもぐと咀嚼した。

「うんっ!おいしいよ!キャサリンの肉料理はいつも絶品だ!」

僕の言葉にキャサリンは顔を赤らめ喜ぶ。


「ねぇ、こっちのサラダも食べてみて。私が朝一番に畑から取ってきたのよ。」

そう言ってフランシアが瑞々しい野菜の入ったボウルを僕の前に滑らす。勿論僕はサラダを自分で取ったりしない。アホみたいに口を開けるだけだ。

「あ~んっ。」

フランシアは赤いトマトのようなものを僕の口に放り込む。それは甘酸っぱい味がとてもおいしく、先程食べた肉のこってりさを拭ってくれた。


「ぎゅ、牛乳も飲まなきゃ駄目なんだから!」

そう言ってスジャータが僕の前に牛乳の入ったコップを突き出した。僕はそれを一口飲む。

「うん、スジャータが絞ってくれた牛乳は世界一だ。」

「きゃっ、そう?うんっ、そうでしょう!」

スジャータは僕に褒められて有頂天である。それを見てミンメイが嫉妬したようだ。


「タケルっ!ちゃんとご飯も食べなきゃ駄目アル。卵かけにするアルか?」

「おおっ、これが世に聞く卵かけご飯か!う~んっ、おいしそうだ。」

勿論僕は自分で卵を混ぜたり箸を持ったりしない。そんな事をしたら彼女たちが悲しむからね。僕はミンメイが差し出すスプーンからほかほかの卵かけご飯を食べる。


「うおっ、これは絶品だね!卵かけご飯だけでも十分おいしいのにミンメイに食べさせてもらうと数倍おいしいよ!」

「いや~んっ、もっと褒めるアル。」


そんな僕らを見ていながら何故かひとりだけ僕に言い寄れずにいる女の子がいる。アデリナだ。アデリナは料理が得意ではない。というか食べられるはずの食材が何故かアデリナの手に掛かると食べられなくなるのだ。キャサリンたちが立ち会って一時も目を離さず指導しても何故か凄まじい味になってしまう。これはもう何かの呪いだろうとキャサリンたちはアデリナに料理をさせる事を諦めた。


だから食事タイムはアデリナにとって僕に言い寄れないバットタイムとなった。だが僕はそんなアデリナにもちゃんと気を使う。

「今日の花もきれいだね。まるでアデリナみたいだよ。」

そう、アデリナは料理は作らないが食事の為の準備はしてくれるのだ。今褒めた花だってアデリナが朝摘んできて花瓶に差してくれたものである。

「まっ、まぁ当然だ!はっ、花は一生懸命に咲くものだからな!」

うん、これもアデリナらしい返事だ。アデリナはツンデレだからな。食事が終わった後のデレに期待しよう。


さて、僕の異世界生活はこのように順調だ。働き者の女の子たちに囲まれ何不自由ない生活を送っている。ビバっ!ハーレム!これぞ男子の本懐だぜ!ああっ、創作神になって良かった!


しかも今登場した女の子たちは僕のハーレムのほんの一握りである。僕はあちこちの村にハーレムがあるのだ。昔は、港みなとに女がいるのがプレイボーイの真髄だったようだが僕はそんなちんけな男ではない!今の僕の目標は全ての村に僕専用のハーレムを持つことだ!まぁ、村の数がハンパなく多いので全部は無理かもしれないが・・。


僕の設定した良い人増産計画により人口は爆発的に増えた。農業技術なんか僕は知らないけど、何故か今では機械で作物を作っているよ。動力は魔力だって。いやはや創作ってやろうと思えばなんでも出来るんだね。


さて、食べ物の心配がなくなったら人間やることは二つだ。子作りと戦争である。でも戦争に関しては僕が遺伝子から因子を取り除いちゃったから人間間で起こる事はない。これは魔王が出てくるまでお預けだ。とゆうか勇者は因子がなくても戦えるのか?あっ、突然変異ってことで誤魔化せばいいか。


戦争がないとなればやる事はひとつだ。僕は村々を廻り目ぼしい女の子たちを片っ端から可愛がる。勿論、女の子たちにとって僕は超どストライクとなるよう、遺伝子レベルで刷り込みがされているから声を掛けるだけでOKだ。逆に声を掛けられなかった女の子たちが影で泣いていると思うとちょっと胸が痛むね。


もう、人間を産み出した当初の僕は下手な種馬より励んだよ。一日10人は相手をしていたね。それも日替わりだから多分やった人数は万を越えていると思う。いや~、僕の歳でこんなに経験しているやつはいないだろう。帰ったらギネスに申請しようかな?あっ、証拠がないから無理か。


そんな僕も今では落ち着いたよ。人口が増えたおかげで女の子たちも僕以外の男性に目をやる余裕ができたし。まぁ、それでも僕が一声かければ忽ち落ちるんだけれど。さすが遺伝子!本能ってすごいね!


食べ物はおいしいし、女の子たちは可愛いし、僕以外の男は働き者だし、ほんと言うこと無しだよこの世界。そうか、僕があっちの世界でも創造主になればいいのかも知れないな。よしっ、帰ったらいっちょがんばってみるか!


しかし、異変は静かに少しずつ僕らに近付いていたらしい。僕はその変化に気付けなかった。だって本当に少しずつだったから。それでもある境を越えると嫌でも気付くものらしい。


それは人の多さだ。


僕は新宿や渋谷の人ごみを経験しているから気付かなかったのかも知れないが、あそこだって深夜は人通りが減るはずなのだ。だけどこの世界ではどこにいっても人を目にしない事がなくなった。夜だって家に入りきれない子供たちが外でごろ寝しているんだ。いやはや、この世界に冬がなくて良かったね。


「これはちょっと多すぎなんじゃないか?インドだってここまで凄くはなかったぞ?」

僕はいつか見たテレビのドキュメント番組を思い出す。インドは国土が広いからあちこちで炙れた人間が都市に集中してあの状態になったらしいけど、ここは別に他から流入して来てこうなったんじゃない。自然増殖しているんだ。


僕はこの世界を知らな過ぎた。この世界が地球と同等規模だと思っていたのだ。だが実際は違った。精々日本くらいの大きさだったのだ。海だって日本海を3つ合わせた程度しかないらしい。


だとしたら養える人口の上限はいくつなんだ?戦争は魔王が現れるまで起こらないから減る機会ははないぞ!病気だって患っている人を見たことがないよ。つえ~な僕の産み出した人間たちっ!


そんな狭い空間に人間だけが増え続けている。成長速度がそれを推進していた。成長速度が10倍なら平均寿命も1/10と思ってはいけない。あくまで『成長』のスピードが10倍なのだ。成人し成長が止まれば後は普通だったのである。


人が死なない世界で子供たちだけが増え続ける。そりゃ当然だ。だって本能に書き込んじゃったんだもの。


僕がいる村の人口は既に数十万に達している。他の村も概ね同じようだ。その内、村の端にある住宅が隣の村と隣併せになるだろう。そうなったら畑だって潰さなくちゃならなくなる。いや、それはまずいよ。何とかしてビルを建てなくちゃ。畑は確保しておかなくちゃ食料の生産がが追いつかなくなる。森だって伐採し過ぎたら酸素の比率が減るんじゃないか?


ああっ、考え出したらきりが無いよ。駄目だ、やはり素人が世界創造なんかに手を出しちゃ駄目だったんだ。


魔王よ、早く登場してくれ!そして間引きするんだ!このまま人口が増え続けたら食料が!酸素が!寝る場所すら無くなりかねんぞ!


もう、どこを向いても人、人、ひとだらけである。彼らがそれを気にする様子がないのが不思議なくらいだ。僕は人で溢れるこの世界を呆然と見つめる。そしてぽつりと呟いた。


ああっ、もう僕は独りになりたい。


妄想異世界編-完-

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