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忍び寄る不安

ニサンカに破壊された東京と神奈川も現在は復興の槌音で活気に溢れている。なまじ破壊が凄まじかった為、中途半端に壊れた建物の方が少なかった。おかげで瓦礫の撤去がすいすい進んでいる。

もっともその瓦礫の一時置き場をどこにするかで揉めているけど・・。どうやら国民はニサンカやジャスティスの熱光線を放射性物質と勘違いしているらしい。ここいら辺は映画の影響か。まったく、なんで人は自分が信じたいものしか信じないんだろうね。


そんな騒動も僕らの生活している所までは押し寄せてこなかった。だから被害が少なかった地域は既に平常を取り戻している。僕が通う高校もそのひとつだ。


「タケル君、今日は寝ていないんだね。」

僕の隣の女の子が休み時間に声を掛けてくる。彼女とはこの前家に送って以来、なにかと話すようになった。

「まあね、僕も大人になったのさ。」

「うわぁ、意味深な言いぐさねぇ。今回の事で誰かと良い仲になったの?でも、それって吊橋効果じゃないかなぁ。」

う~んっ、牽制されているんだろうか?確かに彼女とはジャスティスが勝った時に抱き合って喜んだけど、それだけだよ?勘違いしないでねと釘を刺されたのか?


「あれから1週間も経ったのね。今でも信じられないわ。」

彼女が話題を変えてきた。どうやら先程の会話は掴みであまり意味はなかったらしい。

「そうだね、ネットでは日本政府の秘密生物兵器の暴走説まで飛び交っているけど真相は闇の中だ。」

そう、真実を知っているのは僕だけだ。でも僕が話しても誰も信じないだろうし、話したところで死んだ人は帰って来ない。だから僕はだんまりを決め込むことにした。


「怪獣映画を作った人たちはマスコミのインタビューで大わらわらしいわ。DVDなんか在庫もないらしいわよ。」

「DVDねぇ、今は海賊版がネットにばら撒かれているのになんでDVDを買い漁るのかなぁ。」

「ネット上の規制も厳しくなったらしいわ。根拠のない流言飛語を投稿したとかで何人も逮捕されているみたい。」

「やれやれ、それって被害の無かった地域のやつだろう?構わないさ、他人の不幸を煽るやつなんか逮捕されて当然だ。血と汗を流した人たちを冒涜するのは許せない。」

「・・そうね。」

僕の言葉に彼女は少し言葉を止める。だが意を決したかのように小さく呟いた。


「私たち、これからどうなっちゃうんだろう。」

今回の事件は首都圏で発生したにも関わらず死者は2万程度と見込まれている。東北地方を襲った大震災に比べれば遥かに人的被害は少なかった。やはり避難する時間があったのが大きいのだろう。もっともその被害の殆どが避難中の事故や人間同士の争いだった事が分かるのは後のことだが・・。


「どうにもならない。今まで通りさ。やらなきゃならない事は増えたけど、国を維持し発展させていくことに変わりは無い。」

「そうゆう事を聞いたんじゃないんだけどなぁ。」

「えっ、違うの?」

「もういいわ、次の授業が始まるわよ。」

そう言って彼女は教科書を準備し始める。だがその時、校舎がいきなり揺れ始めた。


「地震?こいつはでかいぞ!」

僕は咄嗟に彼女を机の下に押し込んで落下物に備える。教室のあちこちで他の生徒たちの悲鳴が飛び交った。

「なにっ、なんなの!またあいつが来たの?」

頭を抱えながら彼女が叫ぶ。彼女は米軍の化け物爆弾の爆発を経験している。その記憶が蘇ったのだろう。

「違うっ!これは地震だ!長いぞ!」

僕は何故か冷静に状況を判断していた。揺れ自体は当初感じたものより小さいようだが中々揺れが収まらない。もしかしたら震源地が遠いのかもしれない。この前の地震もこんな感じだったとたまたま東北にいた親父に聞いたことがある。そして永遠かと思える時間の後、揺れは収まった。


それでも実際の揺れは1分ほどだったみたいだ。いやいつもの地震に比べたら異常に長いがそれでも揺れ自体はそれ程でもなかった。スマホの地震速報ではこの辺は震度3と表示されている。

「震度3?あれで?」

机から這い出しながら彼女は何やら不満げだ。

「これは震度計が設置されている場所のデータだからな。震度なんて人によって感じ方はまちまちだ。住んでいる土地の地盤状態によっても1キロ単位で変わるらしいし・・。」

僕の説明に彼女は一応納得したようだが怒りは収まらないらしい。今度は気象庁に当たり始めた。


「緊急地震速報がなんで出なかったのよ!怠慢だわ、気象庁!」

いや、緊急地震速報は震度5以上でないとでないよ。というか、東京があれだけ破壊されたのに速報が出ることの方が凄いんだけどな。分散危機管理がうまく働いているのだろう。頭を潰されても生き残れるように拠点を分散させていたんだ。さすがは軍事システムから始まったネットワークである。有用性が実証されちゃったね。


「そんな事より校庭に出よう。余震がくるかもしれない。」

「あっ、そ、そうね。でも、津波は大丈夫かしら。」

「分かんないな。でもまずは余震対応が先だ。」

僕は彼女の手をとり校庭へ出る。そこには既に大勢の生徒が集まっていた。


「くそっ、通信量がオーバーフローしてスマホが反応しねぇっ!」

「ここら辺の避難先ってどこだったっけ?」

「とにかく、高いところだよ。校舎に残った方が安全じゃないのか?」

「ウチの学校って耐震基準を満たしているの?」

「知るかっ!」

「ねぇ、この地面って割れたりしないよね?」

みな、口々に勝手なことを話している。スマホが使えないことによる情報隔離が始まったのだ。これはひとつ間違うと簡単にパニックが起こる。情報を得られない不安からちょっとしたデマがあっという間に広がるのだ。ニサンカの時もこれで大勢の人が脱出口に殺到し将棋倒しが起こったらしい。


その後、暫くして通信が回復し津波の心配はないと判りパニックは回避された。だが震度2程度の余震は続く。よって授業は打ち切られ生徒は下校するように指示された。

「今度はバイクで送ってもらう訳にはいかないわね。」

彼女が笑いながら話しかけてくる。


「この前は緊急事態だったけど、今回はね。見つかったら無免許で罰金アンド停学処分だ。」

「あははっ、今回は電車もすぐ動くみたいだし、それで帰るわ。」

「駅まで送るよ。もしも復旧に時間が掛かりそうなら僕の家で待てばいい。」

「そう?ならそうさせて貰おうかな。今の電車網って一箇所駄目になったら全部止まっちゃうから下手に乗っちゃうと車内に閉じ込められちゃうからね。」

「今回は最大でも震度4だったみたいだし大丈夫だよ。」

「でも長かったわ。あんなの初めてよ。」

「そうだね、長さと震度ってどうゆう関係なんだろう。今回も震源地が複数だったのかな。」

僕は地震のメカニズムなんか知らない。だから考えたって答えは出る訳無いんだけど、いつもと違う地震に対して疑問が口をついた。


「タケル君、それが判ったらノーベル賞ものよ。そっちの方面に進みたいの?」

「いや、ちょっと思っただけさ。地震関係の研究なんて地味過ぎて誰もやりたがらないよ。予測が外れただけでパッシングされるんだぜ?割りに合わないね。」

「地震予報かぁ、それよりも地震を起こさせない研究の方をがんばって貰いたいわ。」

「それはどうかな。地震って結局エネルギーの解放だろう?あんまり溜め込むと結局最後に凄いのが来るんじゃないか?」

「あーっ、それはイヤ。仕方ないわ、小さいのをちょこちょこ起こさせる方がまだマシってことね。」

学術的には根拠の無い素人のにわか予想を喋りながら僕らは駅に向かう。


「あっ、ラッキー。もう動いているわ。うんっ、残念だけどタケル君のウチに行くのはまた今度ね。それじゃバイバイ。」

彼女は手を振りながら改札に向かう。だが彼女を見送りながらも僕の心は沈んでいた。この地震・・、なんか覚えがあるのだ。そう、忘れていたがニサンカが上陸して来た日の午前中、退屈な授業中に妄想していた内容と似ている。あの妄想では小さな前震の後に本当の本震が来たのだ。


まさか・・、まさかあの妄想まで現実化するのか?まずい、あの妄想は最悪なんだ。やめてくれ!お願いだから誰か冗談だと言ってくれ。あれが現実化したら日本に未来は無い!


だが僕の願いも空しく次の日、震度7の本震が僕らの町を襲った。

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