何でもありだなっ!僕の妄想ってよ!
どこまでも続く広い草原。風が葉を揺らし波となって流れてゆく。遠くに見えるのは森だろうか?その奥には白い雪を山頂に抱く山々が連なっている。
「ここは・・。」
あまりの出来事に僕は言葉を止めた。そう、僕はここを知っている。ここは・・、こんなシチュエーションで目の前に現れるこんな風景は・・。
そう、異世界だっ!
「ああっ、やってしまったっ!」
僕は、ひとり頭を抱える。馬鹿なっ!如何に僕の妄想が現実化すると言っても異世界はやり過ぎだ。異世界は確かに空想の世界である。妄想とは相性がいい。しかし、・・しかしである。現実化するのかよっ!本当に何でもありだなっ!僕の妄想ってよ!・・いや今回は彼女の妄想だな。・・ならいいか。
「しかし・・、どうすりゃいいんだ?何のイベントも発生しないんだが・・。」
僕がここに来てから既に1時間が経つ。これがテンプレならとっくの昔に何かしらかのアクションがあるはずなんだが皆無だ。まるで世界に忘れられたかのようである。
「どうするかな、やっぱり自分から動かないといけないのか?くそっ、こんな事になるならゲームくらいもっと真剣にやっておくんだった。」
そう、僕はゲームをしない。いや、アーケードゲームくらいなら遊び仲間とやった事はあるが、この手のロールプレイゲームは経験がないのだ。だから家庭用のゲーム機も持っていない。スマホのネットゲームすらアクセスしたことがないのだ。
「まずいな・・、何だっけ?ステータスとか言えばいいんだっけか?」
僕は恥ずかしいので非常に言いたくなかったが、廻りに人もいないので意を決して叫んだ。
「ステータスっ!」
・・、暫く待ってみたが何の反応もなかった。いや、僕の顔が真っ赤になったので僕自身には変化があったと言うべきか。
「畜生っ!何の羞恥プレイだよ、これはっ!」
僕は頭を抱えてしゃがみ込んだ。そして考える。
「そうだっ!異世界だからって絶対ステータスがあるとは限らないよな!うんっ、そうだ。ここはステータスがない異世界なんだっ!そうに決まっている!」
結局僕が考え付いたのは先程の行動を正当化する為の言い訳だった。
そもそも今回は僕の妄想とは言ってもベースは彼女が書いた漫画のあらすじだ。・・多分そうだと思う。そうだよな?
「彼女のあらすじってどんなだったっけ?」
僕は彼女から手渡された漫画のあらすじを思い出す。それは大体こんなだった。
まず原因は判らないが何故か異世界に飛ばされる主人公。神さまからの説明もチートの授与も無しだ。何故?だって必要ないから。ここって主人公以外人間も魔物も動物もいない世界だから。
そう、まるで植物がやっと地上に進出したデボン紀かその後の石炭期みたいな環境なのだ。植物はいる。種類としてはちゃんと種子植物だ。昆虫もいる。というかこいつらがこの世界では主役だな。海には魚類もいるとのことだ。川辺には両生類や初期の爬虫類もいるらしい。でもやつらはまだ森林の奥には進出していない。
そんななんともつまらん世界に彼女の主人公は飛ばされていた。文明どころか人間すらいない世界・・。一体彼女は何を漫画で表現したかったのだろう?もしかしてロビンクルーソーのパクリでもしたかったのか?
いや彼女は新世界を創りたかったのだ。何も無ければなんの制限もなく新たな世界を創り上げられる。そう、彼女は主人公に『生命の誕生』というチート能力を授けていたのだ。そしてここで僕はその主人公をやらされる嵌めになった。
「誰もいないと言うことはハーレムは無しか・・。」
まぁ、僕も男の子なのでこれくらいの感想は許して貰えるだろう。僕以外の男の子だって同じ気持ちのはずだ。全く女の子ってやつは男子の願望ってやつを全然判っていない。異世界といったらハーレム!これは鉄板だ。でも彼女たちの常識では違うらしい・・。性の違いとはこれ程の隔離を生み出すのか。
彼女のあらすじはここで途切れていた。後はご自由にと言う事らしい。いや、それ全然あらすじじゃないから!ただの設定だからっ!殆ど思い付きの落書きだからっ!
僕はここにいない彼女に突っ込みを入れるが当然反応はない。
「どうしよう・・、どうやったらクリア出来るんだ、このクソゲーは?」
ここには倒すべき魔王も、発展させるべき低文化庶民たちも、争いばかりしているアホもいない。海や水辺では弱肉強食の日常が繰り広げられているんだろうけど、そんなのに介入したって虚しいだけだ。
だがここで僕は閃いた!いないんなら生み出せばいいんだっ!僕には『生命の誕生』というチート能力があるっ!これを使って魔王や低文化庶民たちや争いばかりしているアホたちを誕生させ、そいつらを一掃すればいいんだ!おおっ、今の僕って冴えてるぜ!
いや、待てよ?僕って『生命の誕生』というチート能力はあるけど俺Tueee能力は無いよな?どうやって魔王たちを倒すんだ?下手したら生み出した魔王や人間たちにころっとやられちゃうんじゃないか?・・それは駄目だろうっ!ぐわ~っ、全然使えねぇよ、この能力!
いや待て!そうだ、遺伝子に僕は倒しちゃ駄目って情報を組み込めば大丈夫じゃないか?ああっ、それでも事故だっておこるよなぁ。流れ弾に当たったら一発だし・・。となると争いのある世界にするのは無理か・・。そうなると魔王も出番がないなぁ。人類と共存共栄している魔族って、いる意味ないじゃん。
そうか・・、彼女はここに天国を創りたかったんだな。争いや格差の無い平和な世界。でもそれって『異世界転生モノ』としてはどうなんだ?需要がないと思うけどなぁ。
ここまで考えて僕の取る道は3つに絞られた。まずひとつ目は彼女の意を汲み争いの無い平和な世界を創る。もうひとつは普通の異世界転生モノの世界。後ひとつは何もしないだ。
しかし、どれも欠点はある。争いの無い世界はゲームのクリア条件があやふや過ぎる。争いや格差のない世界って共産思想じゃないか!それって人間には扱いきれないって既に結果が出ているのに!・・いや、そうゆう本能を植えつけた人間を生み出せばいいのか?
もうひとつのやつはさっきも言ったが僕が弱過ぎる事だ。僕が生み出す生命は設定でいくらでも強く出来ると思うけど、僕は既にここにいるからポイっと新たなチートは貰えない。となると身の安全を確保するにはどこかに引き篭もっていなければならなくなる。表舞台に立てない主人公って漫画としてどうなのよ?神さまポジションって脇役だよね?
最後のはクリア条件をどうするんだという問題がある。僕がここでサバイバルして何年か生き残ればいいのか?でもそれだとせっかくのチート能力が意味なくね?
駄目だ、どれを選んでも絶対面白くない。彼女は創作の根本的なところを間違っている。創作って自然鑑賞ビデオじゃないんだから『人』がいないと駄目なんだよ!それもひとりじゃ駄目なんだっ!ロビンソンがひとりでも物語になったのは島の外に人の営みがあるという設定だったからだよ!元の世界に帰れる方法がない漂流記は全然わくわくしないんだっ!
結局僕はテンプレ異世界設定を選択することにした。まず、ぽっちでサバイバルするのは寂し過ぎるし、平和な世界ってひとつ歯車が狂いだすとあっという間に崩壊するから手に負えなくなると思ったんだ。なら、多少の危険には目を瞑って魔王を倒す方が少しは希望があるてなもんだ。
「でも、どうやればいいんだろう・・。いっその事、ニサンカを出すか?」
決心はしたものの、ひとりで新世界を作り出さなきゃならない事に僕は呆然としてしまう。
「はぁ~、こうゆうのは小説家がやるべきものだよなぁ。」
僕はその後、ぐちぐちと文句を言いつつも何とかひとつの世界観を創り上げたのだった。




