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最終決戦

「敵は?」

「前方の土嚢を積んだ陣地に3人。それが3つ。植栽の後ろに1人づつ5人ね。西側は弾薬置き場にしているみたい。5人ほどいるけどちょっと気を抜いているわね。」

僕の問い掛けに住吉が鏡を使って確認した状況を知らせる。これは屋上からの情報とも合致している。弾薬置き場は体育倉庫を盾にしているから屋上からの射線が通らない。だから守備をしている者たちも物陰にいれば弾は当たらないから安心しているのだろう。


僕らは今校舎の西側の植栽の中にいる。植栽自体は背が低いので立つ事は出来ないが、葉が茂っている為テロリストの眼は誤魔化せる。もっとも一連射喰らったらお陀仏だが。


「で段取りは?」

「2人がフェンスまで駆けて植栽を盾にしているやつらを倒す。2人はここから援護。3人は弾薬置き場を占拠。後方の憂いが無くなったら力押しで陣地を奪いましょう。」

住吉は簡単に言ってくれるがそう楽なもんじゃない。何たって僕たちの弾はテロリストの防弾チョッキを貫通出来ないんだからな。まぁ、足や頭は防護していないから当たりさえすれば戦力は削れるはずだけど・・。


「そんじゃ、援護よろしく。」

僕は後ろの2人に声を掛け、銃の安全装置を外した。薬室に弾が装填されているのは既に確認している。

「タイミングは?」

「屋上チームが援護射撃をしてくれる手筈よ。」

その時、住吉の言葉が終わらない内に援護射撃が始まった。


「GOっ!」

住吉の声を合図に僕は走り出す。そして植栽の影で屋上に向けて射撃をしているテロリスト目掛けて発砲した。隙を突かれたテロリストは僕の方を見る間もなく倒れる。


「まずは1人目!」

次のターゲットはまだ僕らに気付いていない。僕は10メートルまで近付いてからやつの頭目掛けて弾を送り込んだ。その脇を住吉が走り抜け土嚢陣地に手榴弾を投げ込む。陣地にいたテロリストはそれに気付き外に飛び出したが、屋上からの射撃を浴び蜂の巣になって倒れた。そして誰もいなくなった陣地で手榴弾が爆発する。破片は全て土嚢が吸収した為、僕らまでは飛んでこない。


僕はその間に3人目を倒し、土嚢に隠れながらマガジンを交換する。しかし、これ以上の前進は無理だ。やつらのライフルと僕のMP4では弾の射程が違い過ぎる。案の定、僕らに気付いたテロリストがこちらに向かって撃ち込んで来た。弾幕自体は濃くないがペアで切れ間なく撃ってくるので反撃が出来ない。


その時、2階の防弾シャッターが開きそこから銃身が突き出す。そして僕たちを射撃しているテロリストに向け発砲が開始された。土嚢陣地は屋上からの射撃に備えて鉄板で屋根を作っていたが脇はがら空きである。2階からは土嚢すら邪魔にならない。忽ち僕らの前にある陣地は沈黙する。


それを見た住吉は猛然とダッシュし、その陣地にとどめの手榴弾を投げ込む。今度のは投げるタイミングを合わせたので陣地に飛び込んだ途端爆発した。あれじゃ拾って投げ返す暇もない。でも一歩間違えたら自分が吹っ飛んでいるぞ?殆ど蛮勇に近い行為だ。


その後、残りの陣地を射撃でけん制しつつ、生徒たちが2階からロープで降りてくる。いやはやお前たちはレンジャーかよ。一体いつ練習していたんだ?


「お疲れ。ほら、こっちの方が安心できるだろう?」

そう言ってヘレニアがM4を僕に手渡す。その時誰かが警告を発した。


「RPG!」

RPG、この名を聞いてゲームを連想するのは幸せなやつだ。残念ながらここにいる生徒たちにとってRPGの名は別の意味を持つ。それは露国製のロケットランチャーだ。その威力は30センチの鋼鉄を打ち抜く。もっともこれは大穴を開けると言う意味ではなく小さな穴が開くだけなんだか。


しかし、その小さな穴が曲者でその穴から高温の火炎を反対側へ吹き出すのだ。つまり対装甲車輌用の火炎放射器みたいなものである。だから土嚢陣地やコンクリートに対してはそれ程ダメージを与えられない。となるとロケットが向かった先はこちらではなく2階の防弾シャッターだ。


忽ち2階の防弾シャッターで2箇所爆発が起こる。狭い車輌内と違い教室は空間が広いので威力は半減しただろうが付近にいた生徒は炎に焼かれたはずだ。


「なろうっ!お返しだ、喰らえっ!」

僕の後ろで生徒が掛け声とともに米国製のM72ロケットランチャーをRPGを発射したテロリスト陣地に向けて発射した。ロケットは一直線にテロリストの陣地に飛翔し土嚢を吹き飛ばす。それに合わせて僕らは射撃しながら突撃した。僕はMP5の残弾を陣地内に連射するとM4に持ち代え、次の陣地に向けて射撃を開始した。


これを4回繰り返し、とうとう僕らは裏庭側を制圧した。屋上からも制圧終了の合図なのだろう何人かの生徒が身を乗り出してこちらに手を振ってくる。しかし安堵するのもつかの間だった。突然2階の別の防弾シャッターが開き、そこから僕ら目掛けて銃弾が降り注いだのだ。


「何だっ!」

少し気を抜いて遮蔽物の無いところに立っていた生徒が銃弾に撃ち抜かれ倒れこむ。

「くそっ、立場が逆になっちまったぜ!」

どうやら2階がテロリストたちに占領されたのだろう。外部に人員を裂いた為、防備が薄くなったところを突かれたのか。


しかもまずい事は続くものだ。校舎の西側から不気味な射撃音が聞こえた。何時の間に回り込んだのだろうか、校庭にいたはずのシルカが1輌西側に進出して体育倉庫を確保していた生徒たちに向け23ミリ弾を送り込み始めたのだ。


「ちっ、シルカ用に持って来たM72を陣地に使ったのはまずかったな!」

増援の生徒が自嘲気味に吐き捨てる。2階から撃ち込まれている僕らは逃げる事ができない。所謂袋の鼠となったのだ。


体育倉庫陣地を片付けたシルカは校舎裏の僕たちに狙いを定める。砲塔が旋回し4連装の銃身が僕に向け照準を定めた。

「伏せろっ!」

僕は生徒たちに声を掛けるのがやっとだった。しかし、その時突然シルカが爆発した。僕は空を見上げる。射撃音に気を取られて気付かなかったが、そこには国防軍のAH-1コブラ攻撃ヘリコプターがレーダー波欺瞞用のチャフをばら撒きながら乱舞していた。


「やっと来たか!やっちまえっ!」

ひとりの生徒が空を見ながら小さくガッツポーズを決める。


シルカには対空レーダーを備わっているはずだが、屋根の上すれすれを飛んでくる攻撃ヘリは感知出来なかったのだろう。しかし、一旦姿を現せばシルカとて木偶デクではない。残ったシルカは猛然と空目掛けて23ミリ弾を撃ち上げ始めた。射撃スピードが対空用に切り替わった時の射撃音は、まるで笛のようだった。忽ち旋回中を狙われた1機の攻撃ヘリがメインローターに被弾し住宅街に落下する。だが、シルカの反撃もここまでだった。後ろに回りこんだ攻撃ヘリから対戦車ミサイルを撃ち込まれ派手に爆発し動きを止めた。


その後は1階と2階のテロリストたちに攻撃ヘリからロケット弾と20ミリ機関砲弾が撃ち込まれ、テロリストたちは忽ち死体の山を築いてゆく。校庭にいる残党たちは果敢にも攻撃ヘリに向けて射撃をしているが、さすがにライフル弾では攻撃ヘリの装甲は打ち抜けない。後部ローターに当たれば故障くらいは誘発できるかも知れないが、軍のパイロットがそんなヘマをするはずもなかった。


はっきり言うと攻撃ヘリが到着してからは僕らの出番はなかった。精々校舎から飛び出してくるテロリストを狙い撃ちする程度だ。やはり戦闘は火力が勝敗を決める。ライフルでは航空戦力には太刀打ちできないのだ。


僕はその光景をじっと見つめる。思い出したくもないが、こんな状況は中東の戦闘で幾らでも見てきた。ただそれがこの国で再現された事に少しショックを受けたのだ。


そんな僕の横に住吉が寄って来て声を掛ける。

「ふうっ、今回のターンは結構きつかったわね。」

住吉の言葉に僕は首を傾げる。

「ターン?何のことだ?」

「やだっ、あなた本当に何も知らないのね。」


住吉が僕に説明してくれた事は驚愕だった。そして僕はここが僕の妄想世界だった事を漸く思い出したのだった。

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