陣地争奪戦
1階に着くと戦闘は4ケ所ある階段に集中していた。生徒たちはどこから持って来たのだか土嚢と鉄板で階段前のホールを陣地化し盛んに射撃をしている。そのメインになっているのがブローニングM2重機関銃だ。はっきり言ってこの機関銃はこの場ではオーバースペックである。吐き出される12.7ミリ弾はテロリストどころか校舎のコンクリートすら削岩機のように剥ぎ取ってゆく。このまま射撃を続けたら3時間ほどで柱がなくなるだろう。
もっともそれ故に足止め効果は抜群だった。一旦校内に侵入したテロリストたちは教室に逃げ込みそこから出られないでいる。教室の中庭側の窓は防弾シャッターが下りているので中庭から迂回も出来ないはずだ。
しかし、テロリストも馬鹿ではなかった。僕らが駆けつけた陣地とは別になる階段ホールの校庭側の壁を爆薬で吹き飛ばしたのだ。そしてその開いた穴目掛けてシルカの23ミリ弾を撃ち込んで来た。ライフルの弾丸は完全に防いだ鉄板も23ミリ弾の前にはベニヤ板同然である。忽ち土嚢ごと撃ち抜かれ生徒の死体が転がった。
「まずいっ!次はこっちが狙われる!ここは捨てるぞ!」
校庭に面していたもう一方の陣地を指揮していた生徒が即座に決断する。陣地に立て篭もっていた生徒はその声に装備を抱えて階段を駆け上がる。M2重機関銃は重たいので捨てていくしかない。だが敵の手に渡ると厄介なのでお土産を置いてゆく。もっとも壁が爆破されれば埋まってしまうからテロリストが引っかかるかどうかは判らない。
生徒たちの判断は早かったがテロリストたちももたもたしていない。僕らが階段を駆け上がっている途中で早くも壁が爆破され、何人かが爆風に煽られて踊り場の壁に激突した。僕は近くで倒れている生徒を引っ張ろうとしたが、その生徒の体がいきなり軽くなる。シルカの23ミリ弾をまともに喰らって腰から下が吹き飛んだ為だ。僕はその生徒を盾にする形になったので破片は刺さらなかったが、その生徒の血をまともに浴びることとなった。
「いやはや、容赦ないなやつら。」
僕は頬にこびり付いた肉片を拭うと2階に駆け上がり指揮をしていた生徒に問いただす。
「階段に爆薬はセットしてあるんだろうな?」
「勿論、君がぐずぐすしているから機会を逃すところだったよ。」
そう言うと生徒は手に持ったスイッチを押した。するとどんという音とともに1階から2階へ上がる踊り場までの階段部分が崩落する。
「OK、きれいに落ちた。これでやつらは上って来れない。」
そう言いながら生徒は落とさなかった階段の手すり越しに下の階に射撃を始める。如何に上ってこれないとはいえ、下から爆発物を投げ込まれたら洒落にならない。常に相手への射線を確保しておくのが防御側の鉄則であった。
「やつら下からこの床ごと爆破はしないよな?」
「それはないだろう。そんな事をしたら上に上がる足場がなくなるからな。だが教室あたりの床は爆破するかも知れない。そうなったら君の方で対応してくれ。」
「了解。吉住、ヘレニアそうゆうことだから僕らは裏に回ろう。やつらがまともならこっちは囮で裏の防弾シャッターを爆破して進入するはずだ。」
僕の提案にふたりは頷き走り出す。そして教室の扉を開けようとした時に中から爆音が轟いた。
「ビンゴ!吉住、ヘレニア!君たちは隣を警戒してくれ!」
そう言って僕は粉塵で真っ白になった教室に飛び込み反対側の壁に張り付く。校舎内は全ての窓が防弾シャッターで閉鎖された為空気の流れが悪い。よってこんなにでかい開口部が出来たにも関わらず教室の煙は中々晴れなかった。
しかし、ガシャっとシャッターに何かがぶつかる音がする。僕はその音を合図に開口部から下に向けて銃だけ出しめくら撃ちをする。手応えはあった。叫び声が下に向けて落ちてゆく。もっともお返しとばかりに銃弾が雨のように撃ち込まれた。
「参ったな、相手が多すぎる。これじゃ、やがて追い詰められて袋の鼠だぞ。」
僕は誰に言うともなく愚痴る。その時、やっと応援の生徒たちがやって来た。
「状況は?」
「登って来た1陣は排除した。だけど大穴が開いているからな。手榴弾を投げ込まれたら一発だ。何か塞ぐものはないのか?」
「ああっ、これはまたでかいな。ロケット弾じゃなくて爆薬か?まぁいい、おい!黒板を外して穴を塞ぐぞ!」
「へっ?黒板?いや、そんなんじゃもたないだろう?」
「何だ、知らないのか?これは防弾素材と成形炸薬弾対応材のハイブリッド板なんだぞ。」
「・・そうか、すまん、知らなかった。」
もう僕は反論する気もおきない。きっとその内屋上の一部が開いてそこから攻撃ヘリが飛び立つはずだ。いや、もしかしたら垂直離着機かもしれない。
僕は応援の生徒にその場を任せ住吉たちの様子を見に行く。そこではやはり黒板を使って穴を塞ぐ作業が行なわれていた。
「こっちも同じか。押され気味だな。」
僕は黒板を固定しているヘレニアを手伝いながら状況を口にする。そんな僕らの脇で住吉は防弾シャッターの銃眼から援護射撃に余念が無い。
「何とか進入は伏せいでいるが防戦一方だ。やはり外部に出てかく乱しないと応援が来るまで持たないかも知れない。そこでだ・・。」
黒板を固定してひと段落したヘレニアは僕と住吉を側に呼び寄せ屋上で話した提案を再度持ち出した。
「西側のダストシュートは側に植栽が植えてあってやつらの目に止まらず降りれると思うんだがどうだろう?」
「あなたは体格的に無理でしょう?やるなら私と大和ね。」
ダストシュート・・、所謂ゴミ捨て用の竪穴だ。確かにヘレニアの体格では無理がある。いや、僕だってギリギリなんじゃないかな。しかし、既に1階は占領されている。他にやつらの目を欺いて下に降りる方法はないようだった。
「OK、後4、5人小柄な生徒を募ってやってみよう。それで目標は?」
「階段廻りはやつらの人数が集中しているし4つの内1つを奪還しても意味は無い。それよりも裏側を何とかしたい。」
「点ではなく面の制圧ね。」
「そうだ、裏側からの憂いがなくなれば攻撃を校庭側に集中できる。うまくいけばやつらを逆包囲する事だって可能だ。」
「判ったわ、上の人たちにへの連絡は徹底してよ。仲間に撃たれたんじゃ死に切れないから。」
確かに今校舎の外にいるのはテロリストたちだけだ。だから人影が見えたら気にせず銃弾を送り込んでいる。そんな連中に連絡なして外に出たらテロリストの掃討どころではない。
その後、僕らは細かいところの段取りを話し合ってからダストシュートの前に集合する。今回の作戦に合わせ僕らは銃も変えた。『H&K MP5』全長が50センチちょっとのサブマシンガンだ。これはM4に比べたら火力として数段劣るが、1階に降りた後狭い側溝の中を進まなくちゃならない為、小型のこの銃を持って行く事になった。
「この9ミリ弾じゃやつらの防弾チョッキは撃ち抜けないよなぁ。」
生徒の一人がため息まじりにぼやく。
「西の角面さえ確保できたらシャッターを開けて援護するから我慢しなさい。何だったら屋上からM4を落としましょうか?」
「AKならともかくM4じゃ、へし曲がってまともに撃てないよ。勘弁してくれ。」
「なら覚悟を決めなさい。戦いは常にベストな戦力で戦える訳ではないわ。でも最後は気力と根性が勝敗を決める!行くわよ!」
そう言って住吉は一番にダストシュートの中に消えて行った。全くこれじゃ僕たち男の立場がないな。




